物価水準の財政理論
現在、「異次元の財政政策」という言葉が使われ始めるとともに、この政策を後押しする理論として、「物価水準の財政理論(FTPL)」という、20年程前に議論された理論が、再度、脚光を浴び始めている。具体的には、「ノーベル経済学者のクリストファー・シムズ氏」が提唱した理論であり、実際には、「物価変動は、財政政策によるものである」という考え方のことである。
より具体的には、「財政政策により、インフレを起こさずに、国家の財政問題を片付けることができる」と理解されているようだが、私自身としては、「あまりにも国民を愚弄した議論ではないか?」とも感じられた次第である。つまり、政府が取れる政策としては、「財政政策」と「金融政策」の二種類が存在するが、現在は、「財政政策」が行き詰まった結果として、「異次元の金融緩和」という、「中央銀行のバランスシート拡大による、国債の大量買い付け」が実施されている状況とも言えるからである。
別の言葉では、「物価水準の財政理論」そのものが、20年ほど前に破たんしたものと考えているが、より注目すべき点は、「クリストファー・シムズ氏」が「計量経済学の専門家である」という事実である。つまり、私自身としては、「1980年代初頭に、計量経済学そのものが、有効性を失ったのではないか?」と考えており、実際の記憶として、「この前後に、計量経済学者が、大量の首切りに遭遇した事実」が思い出されるのである。
そのために、「なぜ、今回、過去の理論が、再度、脚光を浴びたのか?」が、たいへん奇妙に思われるのだが、実際には、典型的な「大本営的発表」とも考えられるようである。つまり、「国民の目をそらすために、過去の経済理論が、再度、利用された可能性」のことだが、この点については、間もなく、真偽の程が証明されるものと考えており、具体的には、「どのようにして、財政政策が実施されるのか?」、また、「どのようにして財源を捻出するのか?」という点である。
ただし、これから実際に予想される現象としては、「戦後の日本」と同様に、「名目GDPの急増」とも考えられるために、表面上は、「政府の財政政策が功を奏し、経済が好転した」と考えられる可能性も存在するようである。つまり、古典的な「ギャロッピング・インフレ」を利用して、「株価の上昇」が目論まれる可能性のことだが、今後の注目点は、「どれほどのスピードで、金利やインフレ率が上昇するのか?」ということであり、この速度により、今回の政策の有効性が判断できるものと考えている。(2017.3.4)
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異次元の財政政策
「2月27日の日経新聞」に「異次元の金融政策から異次元の財政政策へ」という記事が掲載されたが、この点には、大きな注意が必要だと考えている。つまり、現在では、「日銀の黒田総裁」が、今まで強引に推進してきた「国債の大量買い付け」が、実質上、難しくなってきた事実を物語るとともに、昨年末に、「黒田総裁」が言及した「新たな局面」に、すでに入っている可能性が存在するからである。より具体的には、「年間で約80兆円もの国債買い付け」を公言してきた「日銀」が、今後、大きな「政策変更」に迫られる状況が予想されるのである。
その結果として、今後は、「財政政策」に重点が移るのではなく、実際には、古典的な「インフレ政策」が実施されるものと考えているが、このことは、「70年ほど前の日本」で発生した事態が再来する可能性である。つまり、当時は、「大膨張した戦時国債」を減らすために、「新円切り替え」や「財産税」などの政策が実施されたのだが、「2015年9月」に発行された「財務省のレポート」によると、「最も効果があったのは、ハイパーインフレによる、実質的な国債残高の削減だった」とも述べられているのである。
そのために、今回も、同様の展開が予想されるようだが、実際には、このことが、「異次元の財政政策」と呼ばれるものの「正体」とも言えるようだ。つまり、「ギャロピング・インフレ」から「ハイパーインフレ」に移行する過程においては、当初、「名目上のGDPが、大幅に増加する状況」が予想されるのである。その結果として、表面上は、「政府の財政政策により、景気が好転した」と理解される可能性も存在するのだが、問題は、その後に発生する「ハイパーインフレ」である。
より具体的には、「10%台までのインフレや金利上昇」の時には、「ローソクが燃え尽きる前のような状態」が発生し、「企業収益の劇的な好転」と「株価の急騰」が予想されるのだが、その後の「ハイパーインフレ」の段階では、「約6か月間、企業行動そのものが、大変厳しくなる状況」が想定されるのである。そして、このことが、過去100年間、30ヶ国以上で発生した「ハイパーインフレ」の典型的な現象であり、現在の世界情勢は、この方向に向かって、一直線に進んでいる状況のようにも感じられるのである。
つまり、「1991年のソ連」と同様に、「国債価格の暴落」が始まったとたんに、「紙幣の大増刷」が実施される可能性のことであり、今後は、この点に注意しながら、「財務省」や「日銀」の発表などに、大きな注目をする必要性があるものと考えている。(2017.3.4)
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion6594 :170401〕