ルービニ教授のニューノーマル
現在、「世界的な議論」となっているのは「景気が良いのに、なぜ、インフレにならないのか?」という問題であり、実際のところ、既存の経済理論が通用しないために、いろいろな識者が意見を述べているが、今回は、「ルービニ米ニューヨーク大学教授」と「イエレンFRB議長」のコメントを紹介しながら、実情を考えてみたいと思う。具体的には、「過去20年程、世界的な低インフレが継続した状況」に関して、「ルービニ教授」は「ニューノーマル(新たな価値基準)」の可能性を述べているが、このことは、「現在の低インフレ状態が、今後も、長く続く可能性」を考慮しているようである。
また、「イエレン議長」は、現在の「低インフレ状態」が「一時的」なものであり、今後は、「2%」や「3%」、あるいは、それ以上の「インフレ率」を予想しているが、この点については、「学者的な意見」と「実践の智慧」との違いが指摘できるようである。つまり、「2000年当時の金価格」や「2012年の日本株」のように、「約20年間も下がり続けた市場」について、「学者」は、往々にして、「ニューノーマル(新たな価値基準)な時代に移行したために、今後も、同じ傾向が続く」と考えがちになるのである。
しかし、一方で、「実戦経験が豊富な人々」は、「20年も下がり続けた銘柄は、今後、大幅な上昇をするはずだ」という認識を持つわけだが、この点については、過去の歴史が実証しているものと考えている。しかも、現在のように、「2016年の7月前後」に「マイナス金利」がピークを付け、また、「アメリカ」を中心にして、「金融政策の正常化」、すなわち、「異常な金融政策からの出口戦略」が始まった状況下では、今後、大幅な「インフレ率の上昇」という事態も考えられるのである。
別の言葉では、「学者」が「新たな価値基準」を持ち出してきたときは、往々にして、「時代の転換期」を表すものと考えているが、この点に関して思い出されることは、かつての「Qレシオ」である。具体的には、30年ほど前の「日本株バブル」の時に、「含み益を考慮した実質株価純資産」が持ち出され、結果として、「資産保有銘柄を中心にして、株価が急騰した状況」のことである。
ただし、今回は、「低インフレを理由にした国債バブル」が、すでに発生しており、今後は、「債券から実物資産へ」という「資金の移動」が、より顕著になるものと考えているが、実際には、このことが、古典的な「インフレ(通貨価値の下落)」を意味しており、間もなく、世界中の人々が、この事実に気付くことになるようだ。(2017.10.3)
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学得底と体得底
先日、ある所で「学得底と体得底」の話を伺ったが、このことは、「禅の用語」であり、具体的には、「書物などから学んだ知識」が「学得底」であり、また、「実践から得られた智慧」が「体得底」と呼ばれているそうだ。そして、「人生で役立つのは体得底であり、学得底ではない」とも理解されているようだが、この説明で気付かされたことは、「日本の失われた20年の原因が、この点にあるのではないか?」ということだった。
つまり、過去20年間、「日本のGDP」が、ほとんど成長せず、また、「日本の競争力」も、驚くほどの低下をしている原因の一つが、「体得底」よりも「学得底」を重視した点にあるようにも感じられたのである。別の言葉では、「日本人」が「良い大学を出て、大企業に就職すれば、人生は安泰だ」という「理解」や、「手足よりも、頭や口を動かすこと」を重要視した「態度」などが指摘できるようだ。
より具体的には、「既存の常識を疑い、新たな理論や技術などへ挑戦する態度」であり、また、「仮説検定により、理論の正当性を検証する態度」が欠けた状況だったようにも感じられるのである。特に、現在の日本では、「自分の意見を、実証的に検証する態度が乏しい状況」とも言えるようであり、実際には、「経済学」や「投資理論」において、「最低でも30以上のサンプルから、自分の理論を正当化する」という態度が、極めて乏しい状況のようにも思われるのである。
その結果として、「上がれば強気、下がれば弱気」というように、「相場の動向」に左右される人が、ほとんどの状況とも言えるようだが、このような状況が継続すると、ますます、「海外投資家との脳力格差」が広がっていくようにも感じられるのである。そのために、今後の注目点は、「いつ、日本人が、体得底の重要さに気付かされるのか?」ということだと考えている。
別の言葉では、「いつ、本格的な日本の覚醒が始まるのか?」ということでもあるが、この点については、やはり、大きな試練に遭遇することが必要不可欠な条件とも言えるようである。つまり、「鈴木大拙氏」の「日本的霊性」という著書に書かれているとおりに、「日本人の霊性的自覚」については、古来、「蒙古の襲来」のような大事件がキッカケになることが多かったようだが、今回は、「神様」となった「現代の通貨」が、「ほとんど紙切れの状態になる」ことが、ほとんどの人が驚く大事件であり、時期的には、たいへん近くなったようにも感じている。(2017.10.4)
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion7075:171101〕