札幌便り(俳文)

著者: 木村洋平 きむらようへい : 翻訳家、作家、アイデア・ライター
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*俳句誌「ゆく春」に掲載予定の文章を、許可を得て転載。

 私の作でない句は、作者名を明記。[太字

札幌は開けた街だ。広々とした街並みに、木々の葉が揺れる。ここは緑の街でもある。大通公園は、市街地の真ん中を横切っているけれど、(これは、「公園」と言いながら、よくある、まあるい、しかくい公園とはちがう。街路樹に挟まれた、グリーンベルトみたいな地帯だ。)そこには、芝生、花壇、噴水がしつらえられ、季節ごとに趣を変える。

「開けた街」と言えば、開拓の碑文も、大通公園でリラの花に囲まれている。

開拓の碑文を遺すリラの花

リラの花は、ライラックとも言うけれど、北国の季語だ。六月にストーブが必要なほど冷え込むことを、「リラ冷え」と言い、これも春の季語になっている。

そんな季節に、札幌へ移住した。さっそく、新しい街の様子をお伝えしたい。まだ抜けない旅の気分とともに。

リラ冷や異国の言葉通り過ぐ (名寄 鈴木のぶ子

この時期は、ちょうど観光シーズンの始まりでもある。リラの次には、ラベンダーも控えている。札幌では、よさこいや北大祭も相次ぐ。外国人観光客も増えるわけだ。

蒲公英の絮のゆくへや甃(いしだたみ) (札幌 諸中一光

そう、大通公園の甃の上にも、綿毛が舞い落ちる。こちらの蒲公英は数が多く、背は低くて、咲く時期は遅く長く、思い思いに絮となって、風に舞う。

六月は、ちょうどポプラの絮も飛ぶ季節で、白いもやもやとなって、道端に溜まる。今年は、道立美術館の敷地に、3センチも積もって雪のようだ、とニュースになった。

七月の末には、旭川を訪れ、句会に参加させていただいた。車に乗せてもらい、隣町を見下ろすキトウシの山の展望閣まで。

どこまでも青田に人のなかりけりキトウシの葉のゆったりそよぐ

緑の青田に、緑の木々が、印象的であった。

妖精の古里知りぬ糸とんぼ (旭川 谷島展子

アイヌ語で「神々の庭」(カムイミンタラ)と呼ばれる、大雪山系。そこには、コロポックルでなくとも、なんらかの妖精が住んでいてもおかしくない。ちょうど、細いとんぼも飛んでいた。どこかへ招くように。

いま、カムイミンタラと書いたけれども、ただの伝承ではなくて、大雪山は霊峰であるように思う。いつも、旭川で特急を降りるたびに感じるのだが、空気がきつく澄んでいる。夏も、冬もそうだ。清い大気は、霊気を帯びるかに思われてくる。

新しくなった駅舎には、今年、石川啄木の銅像が建てられた。没後百年、旭川の地では四つの歌を詠んだらしい。

東京の友啄木にふれし夏 (旭川 華風女

幾たびかお会いした風女さま。もう、札幌の友になってしまった。

八月になるが、暑い日は数えるほど。今朝は、長袖で北海道神宮へお参りに行った。東京なら、秋と言いたくなる風が吹き、桔梗の花が目に留まる。そばの碑石には、札幌市の創建120年を祝う文字が並ぶ。

ゆめ桔梗むらさきならん碑石の辞

こちらも、そろそろ生活の礎を築きたい。

初出:ブログ【珈琲ブレイク】http://idea-writer.blogspot.jp/2012/08/blog-post_6.html 

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion951:120807〕