青山森人の東チモールだより 第381号 (2018年10月3日)
東チモール、「グレーターサンライズ」開発側へ参入
さらば「12分算方式」、2018年度予算よ、こんにちは
フランシスコ=グテレス=ル=オロ大統領(以下、ルオロ大統領)は、9月27日、総額12億7740万ドルの2018年度国家一般予算案を承認・公布しました。AMP((進歩改革連盟)政権は、ルオロ大統領が国会で可決された予算案を公布するのか、それとも拒否権を行使するのか、そしてそれはいつなのかが読めないとして、9月21日、9月分の「12分算方式」として8月に「石油基金」から緊急に引き出した分から8000万ドルを計上することを閣議決定したのですが、幸いにも取越し苦労に終わり、政府は胸を撫で下ろしたことでしょう。国家予算案が発布されたことにより、今年1月から採用されてきた東チモール憲政史上初の「12分算方式」とようやく別れることができるのです。
AMPとフレテリン(東チモール独立革命戦線)の対立の流れからすればルオロ大統領が予算案にたいして拒否権を行使することも十分に考えられましたが、両者のあいだに何かしらの妥協案が見出され歩み寄ったか、それともルオロ大統領が歩み寄りをまず示し、何らかの見返りをAMPに求めようとしているのか……それはわかりません。
ともかく、もしこのまま「12分算方式」が続くと、発電所の燃料を買うお金がなくなり再び大停電(ブラックアウト)の危険性が迫ったといわれ、政府と契約する多くの職員や会社とその労働者への給与・賃金の未払いが続くことになり、経済はさらに停滞に沈んでしまいます。それは誰にとっても本望ではないので、ルオロ大統領の判断は誰にとっても好ましいことです。政府は大統領にたいし賛辞をおくっています。大統領の発布に応えて、大統領が注文をつけていないのにもかかわらず就任を拒んでいる3名の閣僚候補者(アルフレド=ピレス石油自然資源相、サムエル=マルサル計画戦略投資相、ロジェリオ=メンドンサ農水副相)が素直に宣誓就任式を受ければ、両者のギスギスした空気は和んでくることでしょう。いまだに宙ぶらりんとなっているAMP内の最大政党CNRT(東チモール再建国民会議)からの閣僚名簿9名(前号の東チモールだよりで7名と書いてしまった)を別の者たちに代えれば本当はなおよいのでしょうが。
問題なのは両者の代表、つまりCNRT党首でシャナナ=グズマンAMP代表とフレテリンのマリ=アルカテリ書記長が面と向かって話し合いをしない疎遠な関係にあることです。この二人が歩み寄らなければ政治的袋小路を引き起こす問題構造は解消されないことでしょう。
それでも、ルオロ大統領が予算案を発布し、政府は大統領に賛辞を送ると、マリ=アルカテリ前首相はビケケ地方で開かれた党大会で、シャナナ=グズマン氏を代表とするチモール海交渉団がバリ島で9月28日、チモール海の「バユウンダン」(Bayu-Undan)田の石油を掘るアメリカの「コノコフィリップス」 (ConocoPhillips)社と合意・調印したことにたいし祝辞を送りました。このように双方から褒め言葉が出てきた機会を両陣営は捉え歩み寄り、正常な与党・野党の関係になってほしいものです。
指をくわえるだけでなく、出せる口も持ったか東チモール
さて、東チモール交渉団と「コノコフィリップス」社は何の合意をしたのかというと、東チモールが同社の有する「グレーターサンライズ」田における利益配分の30%を3億5000万ドルで購入することで合意したのです。
今年3月、東チモールとオーストラリアは「国連海洋法条約」に基づいた領海画定条約を締結し、長年続いた両国の海域論争に終止符が打たれました(東チモールだより第366号)。この条約によって、「グレーターサンライズ」田から得られる利益は、東チモールにパイプラインがひかれた場合は東チモールに70%、東チモールにパイプラインがひかれない場合は東チモールに80%、それぞれ残りは複数の企業で構成される共同開発企業側に配分されることになりました。なお共同開発企業内での配分は、「ウッドサイド」社の33.4%、「シェル」社の26.6%、大阪ガスが10%、そして「コノコフィリップス」社が30%となっています。
東チモールが「コノコフィリップス」社の有する「グレーターサンライズ」田における利益配分(30%)の30%を買うということは、わたしの解釈で間違いなければ、30%の30%ですから、東チモールは「グレーターサンライズ」田から共同開発企業側として30%×30%=9%の利益配分を得ることになったわけです。東チモール9%は大阪ガス10%と拮抗勢力になったと単純に解釈してよいものかどうかはわかりませんが、東チモールが開発側に参入したとはいえるはずです。
気になるのは、東チモールは3月にオーストラリアと結んだ領海条約によって「グレーターサンライズ」田から利益の70%か80%を得ることは決まったわけですが、指をくわえてただ回ってくる利益を待つばかりではなく、「コノコフィリップス」社を通して開発側としてどれほどの口出しができる立場になったかどうかということです。東チモール財政の頼みの綱である「バユウンダン」田の石油は2022年までに枯渇するといわれています。それをよいことに例えば、経済的に効率が悪いとして東チモールにパイプラインをひきたくない共同開発企業がノロノロと開発を遅らせ時間稼ぎをして財源の無くなる東チモールが音を上げてパイプラインが来なくてもよいと妥協するのを待つという持久戦が考えられますが、共同開発側に入り込んだ東チモールがその作戦を企業内部から阻止しようとすることができるようになったのか。そして東チモールは共同開発側としてパイプラインを東チモールにひいて早く開発するように圧力をかけることができるようになったのか。もしそのようなことができる立場になったとしたら、企業と国家の契約はそう単純ではないでしょうが、東チモールはパイプラインを呼び寄せる実質的な手掛かりを得たことになります。
報道によると、「ウッドサイド」社は「コノコフィリップス」社による東チモールとの合意への動きについて非公式に認識していたものの、共同開発企業として公式には事前に知らされていなかったといいます。「コノコフィリップス」社以外の共同開発企業3社は、「コノコフィリップス」社の単独行動に動揺しているのか、たいしたことではないと平然としているのか、正直な“心情“を知りたいものです。
また、東チモールは中国の投資家と「グレーターサンライズ」田の開発にかんして話し合いをしていると一部報道されています。わたしも東チモールのジャーナリストから東チモール政府が中国と接触していると聞かされています。東チモールに中国の経済圏構想「一帯一路」の拠点をつくられたくないであろうオーストラリアは(同盟国のアメリカ、そして日本も)、この話には内心穏やかではいられないはずです。
~次号に続く~
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion8048:181004〕