以下は、弁護団会議の議論にもとづいて、私が起案した飽くまでもドラフトである。もちろん、まだ弁護団の正式文書ではない。これが正式文書になるまでには、幾重もの加除添削が行われることになる。その議を経ていない、私個人の考え方を示すものとしてご理解願をお願いしたい。
私としては、またまたの都教委の理不尽な蠢動をこの時点で、多くの方に知って欲しい。
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私どもは、都立校において教職員に対する国旗・国歌(日の丸・君が代)への敬意表明強制の事態を深く憂慮する立場の弁護士で構成している弁護団です。
「10・23通達」発出以来の、入学式・卒業式における国歌斉唱時の起立・斉唱命令に従いがたいとする教職員の皆さんからの委任を受け、「職務命令予防訴訟」、「懲戒処分取消訴訟」、「再雇用拒否違法訴訟」を始めとする数々の訴訟を受任してまいりました。
多くの教職員が、「国旗(日の丸)に正対して起立し国歌(君が代)を斉唱せよ」との命令に従うことは、自らの思想・信条・信仰に照らして、大きな精神的苦痛を感じているところです。
また、教員という職能は、次代の主権者を育てる職責でもあって、生徒の教育を受ける権利に照応して、生徒たちに憲法に保障された人権擁護の実践を示さねばならない立場にもあります。
私たち弁護団の弁護士は、そのような教員に共感し、これまで国旗・国歌(日の丸・君が代)の強制、ならびに強制に服さないことを理由とする懲戒処分を始めとするあらゆる不利益を違憲・違法と主張する法廷活動を重ねてまいりました。
長年にわたる諸訴訟の結果、処分量定が重きに失するとした多くの勝訴判決を重ねて、懲戒処分の量定は実質的な不利益を伴わない戒告に限定しなければならないという判例法を確立し、東京都教育委員会の違法な暴走には然るべき歯止めを掛けてきたところです。とはいえ、すべての処分を違憲と断じる最高裁判決を未獲得であることにおいて必ずしも満足すべきものではなく、今後の課題として戒告処分についても、違憲ないし違法として取消しを命じる判決を獲得すべく決意を新たにしているところです。
そして今、私どもは、減給処分の取消しを命じる判決が最高裁で確定したT教諭の事案において、これまでの例から懲戒量定を戒告とした再処分がありうるものとして、同教諭からの依頼によって、その処分手続の全過程に関わる所存です。
ところで、これまで「国旗・国歌(日の丸・君が代)」強制に服さなかったことを理由とする懲戒処分には必ず「事情聴取」と称する聴聞の機会が設けられてきました。行政処分において不利益を被る者の防御権保障の一般論からも、また行政手続法13条1項の類推からも、当然に履践されて然るべき手続と考えられます。
当弁護団は、T教諭の聴聞手続(「事情聴取」)に同席して、T教諭の発言をサポートし、法的な助言をすることを予定しておりました。
ところが都教委は、去る12月18日(水)の午後、おそらくは再処分を前提として、T教諭に都庁教育庁までの呼出を通知しました。驚くべきことに、その指定時刻が翌19日(木)午後4時ということでした。しかも、同教諭の授業の差し支えなどに対する配慮はまったく無視してのことです。同教諭は、授業への差し支えを理由に、別の3日程を提案しましたが、都教委が耳を傾けるところではありませんでした。
また、同教諭は弁護士の立ち会いを求めましたが、これも都教委の承諾するところではなかったと聞いています。
あらためて本書面をもって、同教諭の聴聞手続(「事情聴取」)への当弁護団所属弁護士の同席を求めます。19日の聴聞手続(「事情聴取」)は未了となっているようですので、続回には席を設けてください。
弁護士とは、法の支配が貫徹する現代社会において、国民の人権を擁護するための法律専門職です。とりわけ、市民が公権力と対峙する局面において、その依頼があれば、現場で法的な助言をすることがその職責とされています。国会で発言する参考人や証人の側に、発言者の要請ある限り弁護士がアドバイスできるよう同席しているの?、そのような理念の表れにほかなりません。
この弁護士の職責は、弁護士法の根拠をもつもので、T教諭の防御の権利の保障のために、弁護士の同席が不可欠なものとお考えください。同教諭の弁護士を依頼し、最も困難な場で弁護士の法的助言を受ける権利を奪うことは許されません。
19日の呼出を18日に通知するという性急さは、実質的に弁護士同席の機会を奪うためとしか考えられません。翌日の呼出ではなく、せめて4~5日の期間をおいての呼出であれば、当弁護団の誰かが、聴聞手続の席に伺うことが可能です。そのようにして、懲戒を受けようとしている教員の事前の言い分や意見を、依頼する弁護士の助言も含めてよく聞いていただき、間違った処分に至ることのないよう、十分な配慮を願う次第です。
また問題は、当弁護団所属の各弁護士の立ち会いの権利が全うされているか否かという視点からも吟味されなければなりません。同教諭から委任があった以上は、各弁護士は、その裁量において弁護士法に則った最善の義務を尽くすべき義務のみならず権利をも有することになります。刑事訴訟における弁護人の弁護権に類似するものとお考えください。弁護人に弁護のために必要な権利が保障されるように、懲戒処分に関して委任を受けた弁護士は、受任弁護士として弁護士法が要請する義務遂行のための権限がなければなりません。懲戒処分に先立つ聴聞の機会への弁護士の同席は、被聴聞者の権利であるとともに、依頼された弁護士の権利でもあると考えられます。
以上のとおり、事実上弁護士の同席を拒絶している東京都教育委員会に対して、当弁護団として抗議の意を表明するとともに、弁護団に属する弁護団の同席を実質的に保障されるよう、強く要望いたします。
(2019年12月23日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2019.12.23より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=14017
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion9294:191224〕