東北フォーラムホームページNo.4 井上元東北大総長の研究不正疑惑の解消を要望する会 新着情報 No. 1

著者: 大村泉 おおむらいずみ : 東北大学名誉教授
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新着情報 No. 1, 2019413日 (forumtohoku-4thとして新たにNo.1から)

日本金属学会欧文誌編集委員会は2019325日付で井上明久東北大学元総長の3つの論文撤回を公表した。しかし論文筆頭著者による論文「取り下げ」=撤回の手続きが完了しているにもかかわらず、まだ撤回されていない重大論文がある。2007年の匿名投書事件で東北大学が井上元総長の研究不正疑惑を打ち消す際、最大のよりどころにした横山嘉彦東北大学元准教授(金属材料研究所・当時)を筆頭著者とする2007年論文である。この新着情報は、HP 3rdの新着情報No.36から始まった関連連載記事の第5号である。

1.匿名投書事件

東北大学の研究不正への対応が本質隠蔽的になったのは2007年に生じた井上元総長の研究不正疑惑に関する匿名投書事件以来である。この投書で問題になったのは井上元総長が1990年代半ばに公表した4つの論文の再現性であった。これらの論文はいずれも大きな直径をもつ金属ガラス(バルク金属ガラス、以下BMG)の開発を主題にしていた。1990年代初頭までは、貴金属を主原料とした特殊な合金を除き、BMGは厚さμm単位のものしか作れなかった。井上元総長は1996年に直径30mmBMGの製作に成功したと言う。しかし再現性は全くない。これが投書の趣旨であった。

2.製作試料現物・実験ノートは天津湾に水没

匿名投書が文科省やマスコミ各社にも配布されたことから、東北大学は特別の調査委員会を立ち上げ、2007年末に調査報告書が公表された。しかしこれは学術機関の報告とは思えない代物であった。報告書は、「製作試料現物は、実験ノート共に海難事故で天津湾に水没、当時の実験装置や原料素材が存在しないので再現実験が出来ない」、との井上元総長の言い分をそのまま認めた。疑惑論文以外に成果を証明するものがないのは、小保方晴子元理化学研究所助教のSTAP論文捏造事件と構図は同一である。理研は小保方元助教も参加させて再実験し、再現できなかったことを踏まえて不正を結論づけた。

3.東北大は1996年論文の再現性は2007年論文で担保されると主張

しかし東北大は再実験を命じることなく、1996年論文と同一直径(長さ不記載、実際は60%程度)のBMG試料が当時とは異なる製法ではあるができたとする2007年論文で1996年論文の再現性が確認され,捏造改ざんはないと結論した。実験科学における再現性とは、論文記載の方法と科学的に同等の方法で同等の素材を用いて実験誤差範囲内で同一の結果を得ることだ。この再現性理解はSTAP論文の研究不正疑惑でも再三強調され、いまや国民的常識でもある。匿名投書に関する東北大の調査報告書に連署した研究者にBMGの専門家はいなかった。しかし大学の報告書をレビューした弘津禎彦阪大教授(当時)は、製法が異なることを無視して1996年論文に再現性があることを追認した。弘津教授は井上元総長の共同研究者で、調査報告書が公表された20083月末に阪大を定年で退職。退職後は井上元総長の大型研究プロジェクトで雇用されたことが確認されている。

1996年論文の再現性は本フォーラムの関係者と井上元総長との名誉毀損裁判でも主論点の1つとなり、裁判では、2007年論文の筆頭著者で実験担当者の横山嘉彦東北大元准教授は、両論文の試料製作法には本質的な違いがあることを認めたばかりか、2007年論文は製作試料のBMG同定に明瞭な欠陥があり論文「取り下げ」=撤回の手続きを取ったことを明らかにする一方、東北大学が、BMGの同定をしておらず横山元准教授が「文鎮にでも使って欲しい」と言って井上元総長に提供した金属塊を1996年論文の再現性の証拠としてHPに掲げていること等、驚愕すべき証言を行った。これらは地元紙でも大きく報道されたが、大学は無視した。

地元紙報道PDFのダウンロードは以下をクリック:

4. 日本金属学会は2007年論文の撤回措置を早急に実施すべきである

背景を含めて若干詳しく述べたが、この横山元金研准教授の2007年論文の「論文取り下げ」=撤回の申し出は、20131210日付で提出され、福富洋志日本金属学会欧文誌編集委員会委員長名で、同年1213日付で受け取っていることが判明している。しかしながら、日本金属学会は同論文の撤回措置をまだ講じていない。

2019325日付の3論文の論文撤回がそれらの筆頭著者で連絡著者でもある井上元総長の同意のみによってなされているのであるから、この2007年論文の撤回措置が講じられていないことは奇異と言うほかない。日本金属学会欧文誌編集委員会は、この論文の撤回措置を早急に講ずるべきである。

東北大学は、今回撤回された3論文に関する学術的に信頼できる調査に着手すべきであり、同時にまた2007年の大学調査報告書の撤回と再調査に踏み切るべきである。東北大学でこの問題にもっとも責任がある部局は、間違いなく当該論文の研究が実施された金属材料研究所(略称:金研)である。井上元総長が新たに設立し研究展開を精力的に進めた「金属ガラスセンター」は既になく、横山准教授も責任を取り辞職した。しかし、金研には井上元総長が担当していた「非平衡物質工学部門」は、井上元総長の共同研究者の一人が後継となり、研究が継続されている。したがって、金研は、この問題を放置し続けるのではなく、自らの責任で最終的な学術的決着を図り、必要な教訓を整理することを学術研究機関として果たすべき使命と考えるべきであろう。

初出:「東北フォーラムホームページNo.4 井上元東北大総長の研究不正疑惑の解消を要望する会」より許可を得て転載:https://sites.google.com/site/forumtohoku4th/

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔study1032:190417〕