米国で「自治体社会主義」の実験が始まった。ニューヨークでゾーラン・マムダニ氏が、ワシントン州シアトルでケイティ・ウィルソン氏が市長選で勝利した。キリスト教福音派や「テクノロジー右派」、「MAGA(アメリカを再び偉大に)」を唱える熱狂的な支持者に支えられたトランプ政権に対抗する「左派」による反乱だ。富裕層が権力を握る国で、民衆のための政治を求める世論と運動が米国中に広がっている。
「今夜、あらゆる逆境を乗り越えて、私たちはそれをつかんだ。未来は私たちの手の中にある。我が友よ、私たちは政治の王朝を打倒した」。11月4日、ニューヨーク市長選で勝利した直後の当選演説で、マムダニ氏はこう胸を張った。しかもトランプ氏に対する言葉は極めて攻撃的だ。「独裁者を最も恐れさせる方法があるとすれば、それは彼が権力を握ることを可能にした条件を取り除くことだ」
マムダニ氏にとって世界金融市場の中心地であるニューヨークは、億万長者が課税を逃れ、税制の抜け穴を悪用してきた「汚職文化」の街でしかない。だから、トランプ氏のような超富裕層を打ち負かす方法を示すことができるのは、ニューヨークしかない。そのため労働組合とともに立ち上がり、労働者の権利保護を拡充する。労働者が確かな権利を持つとき、労働者を搾取する雇用主は小さな存在になるーーと主張する。
ウィルソン氏が勝利したシアトルは、アマゾンやマイクロソフトといった大手テクノロジー企業が本社を置き、グーグルやメタなどの支社も集まる。テクノロジー分野での好景気と高収入によって支えられる経済は、富裕層にとって大きな魅力で、米国国勢調査によるとシアトルの世帯収入の中央値は12万4473ドル(約1900万円)と全米50都市の中で3番目に高い(11月19日付長周新聞)。
ウガンダで生まれたマムダニ氏は7歳でニューヨークに移住した移民で、学生時代はパレスチナの正義を求めるキャンパス支部を共同設立するなどパレスチナ問題に強い関心を抱いてきた。勝利演説の中の「ニューヨークはこれからも移民の街であり続ける。移民によって築かれた街、そして今夜からは移民によって導かれる街になる」と述べたが、トランプ氏への明らかな挑戦状だ。
ホームレス問題に加え、物価高や住宅費高騰が深刻化する中、ウィルソン氏は「安価で安定した住まいを」と訴え、市民ボランティアによる草の根運動で勝利を手にした。「私たちの街の労働者は疲弊している。彼らはより希望に満ちた公正で公平なものを求めている」。ウィルソン氏は公営住宅の整備や、労働者の生活の質の向上、市の財政基盤を強化するため大富豪に対する累進課税の導入を進める。
米国の地方自治体で始まった「社会主義」的改革の取り組みは、英国元前労働党党首ジェレミー・コービン氏が結成した左派新党「Your Party(あなたの党)」とも共通する。新党結成の理由についてコービン氏は「富と権力を握る者たちに立ち向かい、富の再分配を訴えるため」と説明。米国のウェブサイトで「問題は、超富裕層の利益を守るために不正に操作された経済システムによって引き起こされている。だからこそ、450万人の子どもたちが貧困に苦しんでいる」と主張している。
◾️英仏で連携する「社会主義」的政策
英国でも極右ポピュリズムの台頭が著しい。コービン氏によると、労働党が人種差別の炎を煽り、国中で極右勢力を勢いづかせているという。世論調査では、「反移民」を掲げる極右政党「リフォームUK」が労働党や保守党の支持率を上回っており、2029年までに実施される総選挙で政権を奪取する可能性も出てきた。
一方、フランスでは、2027年に実施される大統領選で極右「国民連合(RN)」党首のジョルダン・バルデラ氏が当選する可能性が強まっている(フランス上院向け世論調査)。急進左派「不服従のフランス(LFI)」のジャン=リュック・メランション氏は極右勢力に対抗するため、コービン氏との連携を図っているが、左派連合が復活する以外に「極右」を相手に勝ち目はない。
LFIのリーダーのメランション氏は、国民議会の解散や首相任命権など大統領権限の強すぎる第5共和政から、より民主的な第6共和政への移行を訴えている。「社会主義」的改革に向けて一切の妥協を許さないメランション氏は政権与党や右派からは「共和国の敵」として攻撃され、メディアでは体制打倒を志向する「degagiste(排除主義者)」というレッテルを張られた。
より深刻なのは左派連合の分裂だ。メランション氏は、「交渉型左派」として政権与党にすり寄る社会党(PS)を「裏切り者」と罵倒した。LFIとPS、緑の党、フランス共産党との左派連合が復活しない限り、イタリアに続いてフランスでも「極右政権」が誕生することになる。それだけに、米国の「自治体社会主義」と欧州の「社会主義」的実践は「極右」に対抗する希望の灯なのだ。「新しい左派オルタナティヴ」が世界的潮流となる日まで声を上げ続けるしかない。
土田修 ル・モンド・ディプロマティーク日本語版編集委員 ジャーナリスト(元東京新聞記者)
※救援連絡センターが発行する月刊紙「救援」第680号(12月10日発行)より転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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