次期NHK会長は、政治権力に毅然と対峙できる人物を。

NHK経営委員会御中

「次期NHK会長選考にあたり
独立した公共放送に相応しい会長の選任を求める緊急要請」

2019年12月4日

呼びかけ人(五十音順。*印は世話人)      
梓澤和幸(弁護士)             
浮田 哲(羽衣国際大学教授)          
岡本 厚(元『世界』編集長)          
小林 緑(国立音楽大学名誉教授/元NHK経営委員)
澤藤統一郎(弁護士)              
杉浦ひとみ(弁護士)              
*田島泰彦(早稲田大学非常勤講師/元上智大学教授)
*服部孝章(立教大学名誉教授)  

 来年1月に上田良一会長の任期が満了するのに伴い、経営委員会は次期NHK会長の選考を進めています。
 現在の上田会長、石原進経営委員会委員長の体制の下で、かんぽ生命保険不正販売を報じた「クローズアップ現代+」(2018年4月24日)に対して、日本郵政からの理不尽異様な抗議を受け入れて、経営委員会が会長を厳重注意し、会長も日本郵政に謝罪することになりました。こうしたなかで、肝心の続編の放送は1年数か月も延期され(2019年7月31日)、情報提供のための2種4本(更新版も含む)の動画も削除されました(その後、1年以上過ぎた2019年10月18日から公開に)。
経営委員会や会長のこうした行動は、番組編集の自由をないがしろにし、ひいては視聴者・市民の知る権利を損なう深刻な事態に他なりません。この点で、石原委員長率いる経営委員会とともに、上田会長の責任も重大です。
籾井勝人前会長も、「国際報道については政府が右ということを左とは言えない」、「原発報道はむやみに不安をあおらないよう、公式発表をベースに」など、NHKをまるで政府の広報機関とみなすような暴言を繰り返し、視聴者・市民の厳しい批判を浴びてきたことは、まだ記憶に新しいところです。

報道機関や公共放送の観点からすれば、先に記した現会長や前会長に窺われる姿勢や言動および資質を、私たちは断じて是認するわけにはいきません。以上のことなども踏まえて、次期会長の選考にあたって、私たちは次の諸点を強く求め、望みます。

1 ジャーナリズム精神を備え、政治権力や社会的強者に毅然と対峙できる資質をもつ人物を選任すること。
2 憲法と放送法に示される放送の自由、権力からの独立・自立、および公共放送の理念を深く理解し、それを実現できる能力・見識のある人物を選考すること。
3 選考について、透明な手続きと自由闊達な論議が確保されること、また、会長候補の推薦・公募制も含めて、視聴者・市民の意思を広く反映できるような回路と方法を用意すること。

[賛同者名簿 117名(略)]

**************************************************************************

本日(12月4日)、上記の緊急申入書を代表者がNHK経営委員会に持参して提出し、その後衆議院第2議員会館で記者会見を行った。
記者会見出席は、田島泰彦・部孝章・小林緑・小田桐誠の各氏と私の5名。それぞれが自由発言して異例の長時間会見となった。

NHK会長の任期は3年である。現在の上田良一会長の任期は、来月(2020年1月)24日で切れる。その後任人事は、経営委員12名が決める。単純多数ではなく、9人以上の賛成が必要。

放送法(第3章)が公共放送NHKの設立と運営の根拠法である。その法は、経営委員の選任を最重要事としている。「第31条 委員は、公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。この場合において、その選任については、教育、文化、科学、産業その他の各分野及び全国各地方が公平に代表されることを考慮しなければならない。」

会長の資格については何の定めもない。政府も議会も関与しない。本当は、会長を選出する権限をもつ経営委員の選任にこそ、人を得なければならない。これが、「元安倍晋三の家庭教師」だったり、「安倍晋三応援団」を自称する長谷川三千子だったり。とうてい、公正・公平な選任となってはいない。

12名のうち6名が財界から出ている。労働界からは一人もない。ジャーナリストも、市民運動活動家も、弁護士もない。反権力・在野の立場で知られる人は、一人もいない。

現経営委員会委員長は、石原進。元九州旅客鉄道相談役・元日本会議名誉顧問で、籾井勝人前会長を推薦した人物として知られる。NHKの「クローズアップ現代+」による「かんぽ生命不正販売」報道が問題とされるや、加害者日本郵政の側に立って、こともあろうにNHK会長を厳重注意とした元兇。

経営委員の選任に目を光らせなければならない。石原進や長谷川三千子などを経営委員にしてはならないのだ。

その石原の任期が、今月10日である。その前日、9日に経営委員会の会長指名部会が開かれるという。誰が、会長候補にあがっているのか。どんな選考の議論が進展しているのか、まったくの闇の中である。

NHKこそは,国内で影響力最大のメディアである。その放送番組の内容の傾向や質はけっして一色ではない。しかし、これまでNHKは総体として民意を操作し誘導して腐敗した安倍政権を支えてきた。政権とNHKとの関係は、NHK上層部が政権におもねっているだけではない。官邸が積極的に経営委員会人事に介入することで、支配・被支配の関係を作っている。さらには、総務省による監督・指導を通じての日常の締めつけが存在する。

そのような政権とNHKの腐れ縁であればこそ、会長人事は「ジャーナリズム精神を備え、政治権力や社会的強者に毅然と対峙できる資質をもつ人物」でなくてはならない。「憲法と放送法に示される放送の自由、権力からの独立・自立、および公共放送の理念を深く理解し、それを実現できる能力・見識のある人物」でなくてはならない。しかも、その選任過程は、「透明な手続きと自由闊達な論議が確保されること、また、会長候補の推薦・公募制も含めて、視聴者・市民の意思を広く反映できるような回路と方法を用意すること」が必要なのだ。

(2019年12月4日)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2019.12.4より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=13885

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

〔opinion9237:191205〕