マスメディアの注目を一身に集めた連合初の女性会長、芳野友子氏の素顔が次第に明らかになってきている。毎日新聞の大型連載記事(5月4~7日)〝労組分断〟は、大手紙では初めて本格的な調査報道に基づく政治記事であり、芳野氏が起用された背景とその後の行動を詳しく分析している。なかでも印象的なのは、連合の歴史に詳しい労働問題の専門家、高木郁郎日本女子大名誉教授の発言だろう(連載第4回)。
高木氏は、「昨秋、連合の会長に芳野友子氏が選出された時、どんな印象を抱きましたか」とのインタビューに答えて、こんな発言をしている。
――期待がありました。初の女性、初の中小企業を中心とした産業別組合の出身です。事務局長に選ばれた清水秀行氏も、初の官公労系。これまで大企業の労働組合が中心だった連合に、いっぷう違った存在感をもたらせると思いました。地域共闘、中小共闘、ジェンダー共闘といった弱い立場の労働者の連帯を作り出す可能性を感じました。
長年、労働組合との付き合いが深い高木氏でさえがこんな期待を抱いたのだから、これまで大企業経営者と公然と馴れ合う連合幹部を苦々しい思いで見つめてきた者にとっては、それ以上の期待を持ったとしても不思議ではない。連合は変わるかもしれない、変わらなければならないと思ったのは、決して私一人ではなかったのである。
だが、高木氏が「ところが、まだ期待した方向には行っていません。これまでの大企業中心の視点から抜け出せていません」と続けたように、その後の芳野会長の行動は真逆の方向に走っている。今年2月の小淵優子自民党組織本部長との会食を皮切りに、3月には麻生太郎自民党副総裁とは酒食の席をともにするまでにエスカレートした。麻生氏の側近から「芳野氏は日本酒好き」と聞いた麻生副総裁が会談を呼び掛け、春闘のヤマ場の「集中回答日」だったにもかかわらず、芳野氏がそれに応じたのだという(連載第1回)。
呆れるのは、芳野会長ばかりでなく清水事務局長(日教組出身)までが行動を共にしていることだ。連合内部には「参院選までは自民党幹部との会食は控えるべき」と自重を促した幹部もいるようだが、清水事務局長は芳野会長と二階幹事長(当時)との会食を計画するなど、いっこうに自重する気配がない。二階幹事長との会食は結局取りやめになったというが、事程左様に連合と自民幹部との濃厚な接触が常態化しているということだろう。
なぜ、連合は芳野氏を会長に選出したのか。連合の会長にはこれまで、政治的な影響力や労使交渉をリードする力を期待される電機や鉄鋼などの大企業労組の会長経験者が就任してきた。なのに、なぜ芳野氏が抜擢されたのか。毎日新聞はこの点を次のように解説している(連載第1回)。
――神津前会長は「女性」「中小企業」「高卒」が芳野氏を選んだポイントだったと明かす。だが、連合会長という「火中の栗」を拾う人がいない中で、「初の女性会長という話題性で乗り切ろうとした」(関係者)という見方は根強い。
この指摘は実に鋭い。「女性」「中小企業」「高卒」というトレードマークは、高木氏が言うように一見「弱い者の味方」のように映る。連合幹部の特権的イメージを象徴する「男性」「大企業」「大卒」に代わって、これとは逆のイメージを兼ね備えた芳野氏が起用されたのは、確かに話題性に富む。だが、これで世間を乗り切れるなんて思うのはいささか甘すぎるというものだ。このイメージはあくまでも〝外形標準〟的なものであって、中身をあらわすものではない。事実、芳野氏は相当な強か者で、「誰もが初の女性会長を引きずり下ろす悪者になりたくない」のをよくわかっていて、「好き勝手にやっている」と言われている(連載第1回)。
連合の自民への接近は、全国的にも広がっている。日刊ゲンダイ(4月27日デジタル)は、「5.12新潟知事選で『自公国』+連合がタッグ…“同じ構図”が今後の選挙の定番に?」と次のように報じた。
――新潟県知事選(5月12日告示、29日投開票)で自民・公明両党が推す現職の花角英世知事(63)について、国民民主と連合新潟も「支持」することを決めた。新潟には世界最大規模の柏崎刈羽原発がある。知事選の大きな争点が原発再稼働問題だ。「自公国連」の枠組みは、強力に原発再稼働を推し進めていく原動力になる。これに対し、野党第1党の立憲民主党は、なんと独自候補を擁立できなかった。新潟は本来、野党系が強い地域なのに不戦敗というのだ。脱原発派では、新潟経済同友会副代表幹事で新人の片桐奈保美氏(72)も立候補を表明。共産党と社民党はすぐに推薦を決めたが、ここでも立憲は及び腰だ。
新潟知事選挙の構図については、私も柏崎刈羽原発の再稼働問題を審議する有識者会議のメンバーから別の場所で同じことを聞いた。現職知事は再稼働問題に関する審議が進むことには極めて消極的で、審議は実質的に休止状態にある。その一方、知事選に勝利すれば、県民の承認が得られたものと見なして「ゴーサイン」を出す魂胆だそうだ。関係者の間では、「2期目を狙う現職に自公だけでなく連合までついてしまったら勝ち目がない」ので、立憲は情けないことに自主投票になると言われている。
京都でも、別の形で立憲の苦戦が際立っている。5月7日の各紙は、「国民、『立憲と決別』決定的」(毎日新聞)、「京都選挙区、推薦維持で決着、参院選、維新と国民民主」(朝日新聞)など、維新と国民が中央レベルでは相互推薦を撤回したにもかかわらず、京都選挙区では国民が維新候補を推薦することが決まったと伝えている。両紙は、5月6日の日本維新の会の馬場伸幸共同代表と国民民主党の前原誠司選挙対策委員長の記者会見の模様を以下のように伝えている。
――ただ、馬場氏と前原氏はこの日の会見で「非自民・非共産」の重要性を強調するばかり。文書での政策協定は交わさないといい、「日本の課題と処方箋を議論し、問題意識もほぼ共有する」(前原氏)などと口頭での一致にとどまった(朝日新聞)。
――京都での維新候補の推薦については、前原、馬場両氏が中心となり、国会内で政策勉強会重ねてきたことを挙げ、前原氏は「維新とは共通のベースがある」と説明。馬場氏も「紙は交わさず、互いの信頼関係で国民民主の力を拝借する」と語った(毎日新聞)。
国政選挙での政党間の候補推薦が、明文化された政策協定も結ばず、口約束で決まるというのは極めて異例のことだ。維新はかねがね立憲や共産などの野党共闘を「野合」だと批判してきたが、口約束だけで国民の推薦を受けるのは、そこに明文化できない何某かの「裏取り引き」があるからだろう。巷間の噂によれば、前原氏は自民との連携に走る玉木雄一郎代表との路線対立から、「第二保守党」の設立を目指す維新との連携に踏み切ったと言われている。国民民主の前原一派と維新が「第二保守党」を設立するためには、まず立憲を「野党第一党」の座から引きずり降ろさなければならない。そして、その第一歩が参院選京都選挙区での議席獲得というわけだ。
京都は、立憲代表の泉健太氏(衆院京都3区)、前幹事長の福山哲郎氏(参院京都選挙区)の〝牙城〟だ。これまで幾多の対立を含みながらも、連合京都の仲立ちで辛うじて分裂を免れてきた立憲と国民がここにきて遂に袂を分かつことになった。勢いのある維新と前原一派が合流すれば、選挙結果はどちらに転ぶかわからない。立憲は、連合と国民の両方から刻々と足元を崩されている。これに維新が加わるとなると、日本の政局は一気に流動化する。(つづく)
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