民主党政権とマスメディアへ深まる失望感 -2012年の年賀状にみる国民意識-

著者: 岩垂 弘 いわだれひろし : ジャーナリスト・元朝日新聞記者
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 今年も大勢の方から年賀状をいただいた。そこに書かれた文章を読むと、東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所の事故による被害に心を痛め、震災からの復興と原発事故の早期収束を願うものが多かったが、それと共に民主党政権とマスメディアへの失望、落胆、幻滅を吐露したものが目立った。国民の間では日本の現状に対する憂慮と危機感が深まりつつあるとみていいようだ。

 国民の間で民主党政権に対する失望、落胆、幻滅が深まっているのは、同政権に対する期待が裏切られたからだろう。
 2年半前の2009年8月の総選挙で、国民が民主党に308の議席を与えて圧勝させたのは、国民が、戦後の日本を長年にわたって統治してきた自民党政治に代わる政治を民主党に期待したからだった。が、この総選挙で誕生した鳩山政権、その後の菅政権が行い、後継の野田政権が行いつつある政治は、その期待を裏切るものだった。民主党が総選挙で掲げたマニフェストはほとんど破棄または変更されてしまった。米軍普天間飛行場移設問題しかり、TPP(環太平洋経済連携協定)問題しかり、武器輸出3原則問題しかり、消費税増税問題しかり……である。

 埼玉県在住の協同組合研究者は、年賀状にこう書いてきた。「昨年の年賀状には冒頭に『菅内閣の“第2自民党化現象”は明白です』と述べました。1年が経ち、野田内閣はマニフェストをことごとく捨て去って政権交代の意味を反古にし、菅内閣より更に人びとの希望を踏みにじりました」
 「普天間問題でくやしいのは、日本政府が米国の言いなりになっていることです。民主党ならと、変化を期待して私も投票したのですが、がっかりです」と書いてきたのは、沖縄県糸満市に住む友人だ。
 京都在住の大学教授から来た年賀状には、こう書かれていた。「まともな復興策もとられず、地震・津波・原発事故を奇貨として、『危機便乗型資本主義』(disaster capitalism)ともいえる新自由主義が台頭して、震災特区の新設、TPP、税と社会保障の一体改革など目白押しです。日本は品性のない国家に成り下がったと慨嘆しています」
 米軍普天間飛行場移設問題、TPP問題、消費税増税問題ばかりでない。野田内閣が推進している原発輸出政策への反発も強い。
 都内在住の元新聞記者は、書く。「昨年は思いもよらない大災害に見舞われ、大自然の巨大さと人間の卑小さを痛感させられました。そして、人間の傲慢さも改めて問い直されたと言えましょう。にもかかわらず、よその国なら良いととばかりに、原発を輸出しようなど正気の沙汰ではありません」

 ある文芸評論家の年賀状には「天災か人災か、先人の遺訓や過去の惨禍に学ばず、あれほどの損傷を受け、現在も継続中なのに、なお未完成な技術にとどまる原発を外国に売り込もうとする人々の無責任、無神経さに驚くばかりです」とあった。
 「広島、長崎 ああ福島。今も原発で苦しむ国が、企業利益のために原発輸出の愚を冒そうとしている日本」と書いてきたのは、埼玉県在住の元電機メーカー従業員である。

 東京都内在住のジャーナリストの新年の挨拶には「政権交代の興奮が二年半で“夢まぼろし”に……」とあった。やはり都内在住の元新聞記者は書く。「変わるはずの政治が、変わらぬどころか、もっと悪い」
 都内在住の鍼灸師は嘆く。「自民党も民主党もだめとなると、いったいどうしたらいいんでしょう。これでは投票する政党がなくなりますから」

 1月13日、野田政権は内閣改造をおこなったが、その直後の各紙による世論調査では内閣支持率が低下した。民主党政権への失望はいよいよ深い。
 
 マスメディアにの現状を憂える年賀状も年を経る毎に増えてきたような気がする。
 「テレビ 週刊誌 また狂い 新聞の腰のふらつき」と書いてきたのは、元出版社長だ。また、「昨年は本当にショッキングな年でした。今年は静かな年になってほしいものです。戦後政治のつけが表に出ただけなのに、自民党の反省も謝罪もなく、マスコミのひどさもあきれるほどで……。腹がたつやら情けないやら。日本の後進性をイヤというほど見せつけられた気がします」と書いてきたのは、大阪市の主婦である。
 協同組合関係の研究所員からの賀状には、こんな一文もあった。「福島第1原発崩壊による大気、土壌、海洋汚染はなお日々深刻に進行中、収束の見込みはたちません。未来の人々(生きもの)に国家破産以上の修復不能な莫大な負債を負わせ、子どもの人体実験を進め、海汚染では国際的に犯罪国家となってしまった。東電と政官財学そして大手メディアのペンタゴンと既得権益がいかに強力かを知覚しない限り、次のステップに踏み出せるわけもなく、この国はアウトでしょう。真意を飛ばして『放射能つけちゃうぞ』で集中砲火を浴びせる手法が今の新聞テレビの大勢です」

 もっとも、元新聞記者から来た賀状には、こんなものもあった。
 「(朝日)夕刊連載の『原発とメディア』、先を見抜く力がジャーナリズムには欠かせない事を改めて痛感させられますね」 
 「(原発問題では)『危険と背中合わせ』というニュースや『敦賀原発の過ち』と題した連載記事を同僚と書きましたが、その場限りのキャンペーンに止まりました。以後、『原子力村』と国の情報隠蔽を見破る努力や、原発の危険性について警鐘を鳴らし続ける務めを果たしたか……忸怩たる思いがします。思考停止に陥っていたジャーナリズムの蘇生と力量が今問われています」
 かつてマスメディアに身を置いていた者による自己批判と言っていいだろう。でも、こうした自己批判が、果たして現役記者に引き継がれるかどうか。

 政治とマスメディアへの失望が深まりつつあることを感じさせた今年の年賀状だが、中に印象に残った一通があった。元新聞記者からのもので、そこには、こう書かれていた。
 「日本政治の劣化状況、ドイツ・ワイマールの議政制デモクラシー崩壊過程に重なって見えてきます。特にジャーナリズムのシニシズムと、大衆の指導者待望論―ポピュリズムへの急傾斜が気になります」
 彼はワイマール共和国の歴史に詳しい記者だっただけに、私としては、この記述がとくに印象に残った。ワイマール共和国崩壊過程を勉強せねば、と思う。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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