翁長知事に対する国土交通大臣の「指示」(2016年3月16日「公有水面埋立法に基づく埋立承認の取消処分の取消について」)は、埋立の「公共性の高さ」について知事は(例外的に)「国防・外交上の事由を考慮しうる」とした上で、辺野古新基地建設には、「日米間の信頼関係の維持という公益」と「抑止力の維持が図られるという公益」があると主張する(「指示」p5)。しかし以下に見るように、「公益」とは逆にそれは日米両国に損失を与えるばかりでなく、東アジアをはじめ国際社会全体の「公益」を害する。
なお、米国政府関係者の中には辺野古新基地建設についても、米軍の沖縄駐留についても、日本の要望によるという発言がある。古くは「天皇メッセージ」、その後は‟思いやり予算”など、日本政府の対米姿勢から、それは否定できない。そうだとすると、辺野古新基地建設によって国際社会の「公益」を損なうことは、主として日本の責任によることになり、長い目で見ると米国の日本不信をも増幅することになるだろう。
I. 「辺野古新基地建設」と日米間の信頼関係
(1)沖縄の民意無視
民意に反する埋立の強行は、地位協定見直しの拒否や米兵による凶悪犯罪と合わせて、県民の反米感情を高め、「海兵隊撤退」や「全基地撤去」を求める声をいっそう強めている。その結果、「日米間の信頼関係という公益」は、すでに損壊の過程に入っている。
(2)継続的な沖縄差別
日本政府が、米軍基地の沖縄への集中と新基地建設を続行することは、「琉球処分」、捨石としての沖縄戦、独立時の沖縄切り捨て―などと同様、継続的沖縄差別の一環である。日米安保体制は、このように沖縄差別を基盤とする限り、内外から存続の意義が疑われ、したがってこの体制を前提とする「日米間の信頼関係」は、長期的・安定的なものとはいえない。
(3)生物多様性の損害
埋立対象地域には、262種もの絶滅危惧種を含む5800種以上もの生物が生息している(2016年5月24日知事側の「相手方回答書への反論書」p9)。このため埋立は、自然環境を重視する米国民ばかりでなく、地球環境の深刻な状況を自覚する国際世論の反発を招き、結果として長期的・安定的な「日米間の信頼関係」をも損なうことになる。
II. 「抑止力の維持」と国際社会の信頼関係
(1)東アジアの緊張と軍拡の要因
駐留米軍による「抑止力の維持」は、日米韓による軍事力一体化や、大規模な合同軍事演習などと相まって、中国・北朝鮮両国の軍事的包囲網を形成し、両国の「脅威」となっている。つまり「抑止力の維持」が、東アジアの軍事的な緊張要因を高め、両国の軍拡の口実となり、結局それは沖縄の不安・負担を増大する。このことは、中国・北朝鮮に対するだけでなく日米両国の「抑止力」論に対する沖縄の不信も増幅している。
(2)東アジア共同体構想との矛盾
ASEANと日中韓の13ヵ国(ASEAN10ヵ国プラス・スリー=APT)は、2001年第5回サミットで「東アジア共同体へ」(東アジア・ビジョン・グループ報告)を採択した。それ以来、APT は「東アジア共同体」を共通の長期目標、ASEANをその「推進力」とし、そのことをサミット共同声明などで繰返し言明している。「抑止力の維持」は、この構想とは矛盾するため、東アジア諸国間の信頼関係を醸成する妨げとなっている。
(3)国連憲章および日米安保条約との矛盾
そもそも「抑止力」は、近隣諸国に脅威を与えなければその効果を期待できない。つまり、憲法だけでなく国連憲章の禁じる「武力による威嚇」であり、国連加盟国に課せられた国際紛争の「平和的解決義務」に反する。つまり「抑止力の維持」は、国際社会の共通目標と信頼関係の阻害要因である。
しかも日米安保条約(第1条)は、国際紛争の平和的解決義務の遵守だけでなく、「国際の平和及び安全を維持する国連の任務が一層効果的に遂行されるように国連を強化する」努力まで両国に命じている。したがって駐留米軍の「抑止力」への執着は、条約の趣旨にさえ反していることになる。
III. 結び:沖縄の基本的な利益
日本政府の主張する「公益」と沖縄の基本的利益は、米国をはじめ国際社会の信頼重視という点では共通している。しかし、①長期的・安定的な日米の信頼関係、②東アジア共同体の形成努力と憲法・国連憲章の遵守による国際社会の信頼獲得――この二つの視点においては、乖離がある。二つの視点から見ると、辺野古新基地建設は「抑止力の維持」とともに、日本の対外的な信頼を損なうと同時に、沖縄の基本的な利益、言いかえると翁長知事の「誇りある豊かさ」を害するといわざるをえない。
その理由の核心は、辺野古新基地建設も「抑止力の維持」も、日本政府による継続的な沖縄差別を基盤にしていることである。政府はそれを厳しく反省し、何よりもまず米軍基地の大規模な縮小撤去(県外・国外移転)を最優先すべきと考える。
(文責:河野道夫、読谷村、international_law_2013@yahoo.co.jp、080-4343-4335)
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