沖縄の誇りと自立を愛する皆さまへ:第35号(2016年7月) なお続く「先住民族」をめぐる混乱 政府の意図的な誤訳が招いている

辺野古・大浦湾から

 The right of peoples to self-determinationは、民族自決権または人民自決権と訳される。「民族」を強調する場合はthe right of nations/ethnics to self-determination。したがってindigenous peoplesは、外務省訳の「先住民族」でよいのか、それとも「先住人民(または先住の人々)」なのか、再検討されなければならない。

当事者の自己決定権
 そもそも、独自の民族性があるかどうかは、最終的には当事者の自己決定権によるべきで、その同意なく他者が決めることはできない。政府は2014年6月13日「アイヌの人々は、日本列島北部周辺、とりわけ北海道に先住し、独自の言語、宗教や文化の独自性を有する先住民族である」と閣議決定した。これは当事者団体の要請によって、衆参両院が2008年6月6日「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」を全会一致で採択したためである。
 沖縄における「当事者団体」は、知事と県議会に代表される沖縄自身だが、民族性については合意が形成されていない。歴史的事実は、大多数の沖縄の人々が、ヤマトよりも先に琉球弧に「先住していた人々(または先住人民)」の子孫だということ。したがって政府が「沖縄の人々は先住民族ではない」とすることも、国連勧告を「琉球・沖縄の人々は先住民族」と訳すことも、当事者の意思を無視した「不当介入」になっている。

政府の意図的な誤訳
 自己決定権は、国際人権規約(自由権規約と社会権規約)共通第1条で明らかなように、きわめて重視されている。このため、当事者の意思を確認しないまま、国際機関が加盟国内の特定集団を「民族」と断定することはできない。自由権規約委員会は、2008年に「アイヌの人々および琉球・沖縄の人々は、特別な権利と保護を付与される先住民族(外務省訳)」と日本に勧告したが、それはこの人々を「先住の人々」として尊重せよ、という趣旨である。それにもかかわらず「先住民族」と訳すのは“沖縄には無関係”と思わせるための意図的な誤訳ではないだろうか。

“独り相撲”の豊見城(とみぐすく)市議会意見書
 沖縄県豊見城市議会は、2015年12月22日「国連委員会の『沖縄県民は日本の先住民族』という認識を改め、勧告の撤回を求める意見書」を採択した。しかし、国連機関は「琉球・沖縄の人々は先住の人々」と認識しているのであって、「沖縄県民は日本の先住民族」とは言っていない。「意見書」は、県外移住者をも含む「沖縄県民」とし、また外務省の「先住民族」を踏襲することによって、それを批判し、撤回を求めている。つまり「沖縄県民は日本の先住民族」と勧告されたことを偽造して、反撃したものだ。
 これは典型的な“独り相撲”ないし“自作自演”であって、批判対象とされた見解は、もともと存在していないのである。

その後の勧告
 政府は自由権規約委員会に、2008年勧告の修正を求めてきた。そこで同委員会は、2014年7月23日「日本の第6回定期報告に関する最終見解」原文において「先住民族」と解釈されるのを避けるため、あえて indigenous groups を使った。外務省はこれを「先住民グループ」と訳しながらも、見出しの the rights of indigenous peoples をこれまで通り「先住民族の権利」としたため、「先住民族」に関する勧告かのような“装い”は、これまでと変わらないことになった。「意見書」はこれを受けたものである。
 「最終見解」の外務省仮訳における問題部分は、次の通り。「委員会は、アイヌの人々の先住民グループとしての承認を歓迎する一方、琉球および沖縄人というものを認めていないこと、ならびにそれらのグループの伝統的な土地や資源に対する権利、あるいは彼らの児童が彼らの言葉で教育を受ける権利が認められていないことに関して懸念を改めて表明する(自由権規約第27条)」。
 このままなら「民族」問題は起こらないはずである。ところが、上述の見出しの訳によって、問題は継続することになってしまった。

「琉球および沖縄人」とは!
 問題個所の原文は、While welcoming the recognition of the Ainu as an indigenous group, the Committee reiterates its concern regarding the lack of recognition of the Ryukyu and Okinawa, as well as of the rights of those groups to their traditional land and resources and the right of their children to be educated in their language (art. 27).
 ここで the Ryukyu and Okinawa が「琉球および沖縄人」とされているが、沖縄の反発を誘うための表現と感じるのは、筆者だけだろうか。

Minorities 固有の文化享有権の誤訳
 外務省の公定訳が、自由権規約(第27条)のminoritiesを「少数民族」としていることも、自由権規約委員会勧告を誤訳した原因だろう。独自の文化を持つ少数集団であれば、「民族」であってもなくても、同条の「固有の文化享有権」は保護されなければならない。したがってminoritiesは「少数集団」とし、当地では「沖縄固有の文化享有権」と解釈すべきである。

 要するに、政府は当事者の自己決定権の見地から「少数民族固有の文化享有権」「先住民族の権利に関する国連宣言」の訳を改めなければならない。
(文責:河野道夫、読谷村、international_law_2013@yahoo.co.jp、080-4343-4335

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion6201:160730〕