沖縄の誇りと自立を愛する皆さまへ:第40号 沖縄独自外交の必要性(3₋2) 米軍が残した史上最強の毒物(中)

辺野古・大浦湾から 国際法市民研究会

 米兵の間で沖縄は“太平洋のゴミ棄て場”と呼ばれていた(1 。米軍は沖縄で枯葉剤(オレンジ剤)を保管使用、埋立廃棄し、一部は米領ジョンストン環礁2) などに廃棄。枯葉剤には2・4-D、2・4・5-T、そして“史上最強の毒性”といわれる2・3・7・8-TCDDといったダイオキシン類が含まれている。
 これらはジョン・ミッチェル著・阿部小涼訳「追跡・沖縄の枯葉剤」3) に詳しい。著者は、被曝したベトナム帰還兵の被害について、アメリカ政府とメーカー(ダウケミカルやモンサント)の補償責任に肉迫。ベトナム人300万人がいまなお障害に苦しむ姿や、沖縄の米軍基地と周辺の汚染をも暴露した。人体への影響は、被曝の程度や個人の耐性などで異なるが、初期症状は、皮膚トラブル、嘔吐・下痢、頭痛、手足の麻痺など。その後ガン、糖尿病、喘息、免疫不全などを発症する。死産・先天異常など次世代も影響を受け、被曝者の子供の2/3以上が重度の健康障害を抱えているという(p30~1、p44)。

沖縄は“太平洋のゴミ棄て場”
 本書によると、帰還兵など250名以上が沖縄での枯葉剤使用を証言(p75)。伊江島(真謝地区)住民が1973年、米軍に枯葉剤散布への抗議と使用中止の要請をしたことも報道された(沖縄タイムス73年10月31日)。
 アメリカは、枯葉剤が沖縄に存在した「記録がない」とする。しかし本書の著者は、証拠の公文書をいくつも入手(2003年米陸軍化学庁「ジョンストン環礁の生態アセスメント」など―p161∼4、p190~3)。それでも米政府は2013年、「記載は不正確」「事実を反映していない」として、沖縄での保管・使用を認めない4) 。

急性毒性と慢性毒性
 2・3・7・8-TCDDの急性毒性(半数致死量)は、青酸カリの1万倍、サリンの17倍といわれる。半数致死量は、体重1㎏のモルモットに0.0006mg(60kg換算で 0.036㎎)。慢性毒性については、WHOが1997年発がん性物質に指定。アメリカ環境保護庁は2012年になって、ようやく2・3・7・8-TCDDの危険性を見直し、発がん性、免疫毒性、環境ホルモン毒性などを認定した(池田こみち「米軍による沖縄県内における枯葉剤問題への適切な対応についての意見書」KK環境総合研究所2012年p30、著者は当時、副所長)。

有害化学物質の大量廃棄
 「沖縄・生物多様性市民ネットワーク」は2014年「枯葉剤被害の可能性がある地域」をまとめた(前出ミッチェル本p198~9)。埋立廃棄されたのは、北谷ハンビー飛行場、普天間飛行場、嘉手納基地、キャンプシュワーブ。貯蔵は、牧港補給地区、普天間飛行場、嘉手納基地など9ヵ所。散布は、北部訓練場(ヤンバル)、伊江島、キャンプシュワーブ、読谷ドッグスクールなど15ヵ所。

 以下は、有害化学物質の大量廃棄の実例である(新聞報道などに基づく)。
・1996年、米軍恩納通信所跡の汚水処理槽の汚泥(ドラム缶約700本)から、沖縄防衛施設局がPCB、カドミウム、水銀、鉛などを検出。米陸軍のナイキ基地跡(73年から航空自衛隊恩納分屯基地、02年上記物質を検出)でも、同様に汚染された汚水処理槽の汚泥(1100本)があり、合わせて1800本がこの分屯基地に保管されていた。2013年、沖縄防衛局と航空自衛隊が福島県いわき市のクレハ環境で焼却処分した。

・2002年、北谷町美浜基地の瑞慶覧射爆場跡などから発掘された約200本のタール状物質は、詳細に分析されないまま5) 、沖縄防衛施設局が同年、沖縄市登川の産廃処理施設で焼却処分した。腐食したドラム缶28本から、内容物がすでに流出していた。
・2013年、沖縄市サッカー場(87年嘉手納基地の一部返還跡に96年建設)における芝の張替工事中、数次にわたって合計80数本のドラム缶を発見。沖縄防衛局、県、沖縄市がそれぞれ分析し、いずれにおいても2・3・7・8-TCDDをはじめ、環境基準を超えるダイオキシン類が検出された。

安全・安心のためには?
 以上の事例には、住民の“安全・安心ファースト”の視点がほとんどない。なぜなら、土壌・水を含む多項目調査が行なわれたのは沖縄市だけ。住民参加による情報収集や調査企画の例は皆無。ドイツの土壌保護法では、子供の遊び場におけるダイオキシン類の環境基準を日本の1/10に設定しているが6) 、日本にその発想はない。
 1999年ダイオキシン類特別措置法は「ダイオキシン類」をWHO基準に従い、①ポリ塩化ジベンゾ・パラ・ディオキシンPCDD、②ポリ塩化ジベンゾフランPCDF、③コプラナーポリ塩化ビフェニルDl-PCB(ダイオキシン様PCB)の総称と定義した(400種類以上の異性体を含む)。そして排出規制、検査体制、都道府県の常時監視を規定する。「常時監視」は実質的にできるのだろうか。全国の研究者・専門家に協力を求めないかぎりムリと思われる。 

                             次号に続く   
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1) 琉球朝日TV 2012年「枯葉剤を浴びた島:ベトナムと沖縄・元米軍人の証言」、15年「枯葉剤を浴びた島2:ドラム缶が語る終わらない戦争」。いずれも民放連最優賞。ディレクター=島袋夏子。
2) ハワイ諸島の西方約1400km。第2次大戦中に埋立て、滑走路を建設。1971年から化学兵器保管庫、93年から化学物質廃棄施設、03年解体後、無人化し立入禁止。
3) Jon Mitchell、高文研2014年。著者はイギリスのウエールズ人、フリーのジャーナリスト。
4) 2013年1月の米政府調査報告「日本国沖縄における枯れ葉剤の申し立てに関する調査」によると、03年の陸軍化学庁「ジョンストン環礁の生態アセスメント」は陸軍独自の調査で、しかも「枯葉剤に関する履歴を記録することを目的にしたものではない」から不正確という趣旨。
5) 前頁最後の池田こみち「意見書」p21によると、ドラム缶1本のみが調査され、油脂、炭化水素類、ダイオキシン類などは調査されなかった。
6) 池田「旧嘉手納基地返還跡地から発見された有害物質分析調査についての暫定評価報告書―沖縄防衛局と沖縄市の調査の比較を中心に」KK環境総合研究所2013年p13。著者は当時、顧問。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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