活発化する国際協同組合年にちなむ活動 -協同組合陣営が多彩な計画-

著者: 岩垂 弘 いわだれひろし : ジャーナリスト・元朝日新聞記者
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 今年は、国連が定めた「国際協同組合年」(IYC)。各国政府と国民が協同組合の役割について認識を深め、その発展を促進しようという狙いから設定された国際年だが、それもほぼ半年が過ぎ、日本でもようやくこの国際年にちなんだ活動が、協同組合陣営で活発化してきた。が、1992年に東京で開かれた国際協同組合同盟(ICA)東京大会時に比べると熱気はいま一つ。残る半年で生協組合員と国民にIYCの意義をどこまで浸透させることができるかが、協同組合陣営に課された課題だ。

 国連が推進する国際年とは、各国に共通する特定のテーマに国際社会が1年間を通して集中的に取り組む企画。最初の国際年は1957年の「国際地球観測年」。その後、「国際婦人年」「国際児童年」「国際平和年」などが設定された。そのテーマに協同組合が選ばれたのは初めてで、2009年の国連総会で決議された。

 世界には農業、漁業、林業、信用、保険、保健、住宅、エネルギー、消費者、労働者などあらゆる分野の協同組合があり、ICAに結集している。ICAの本部はジュネーブにあり、現在、96カ国、266の協同組合全国組織が加盟している。傘下の組合員は10億人を超える。世界の主要協同組合300団体の2006年の供給高は約1兆ドルとされているが、これはこの年のカナダのGDPに匹敵する。ちなみに、カナダのGDPは世界13位(2005年)である。

 国際協同組合年に関する国連決議は、以下の3つの目標に向けて国連、各国政府、協同組合関係者が活動するよう奨励している。
 ① 協同組合についての社会的認知度を高める
 ② 協同組合の設立や発展を促進する
 ③ 協同組合の設立や発展につながる政策を定めるよう政府や関係機関に働きかける

 協同組合年が設定された背景には、国連が、経済社会開発や世界の食料問題、雇用問題、環境問題などで協同組合がこれまで果たしてきた役割を評価したからだ。加えて、2008年のリーマン・ショックを契機とする世界的な経済危機で、協同組合がその影響を最小限に抑え、私企業に比べて安定的な経済システムであることを示したことが、国連関係者の注目を集めた。つまり、国連が、世界経済を再生させるためには協同組合が極めて有用な経済システムの一つであると注目し、その活動に期待をかけるに至ったとみていいようだ。協同組合年のスローガンは「協同組合がよりよい社会を築きます」となっている。

 国連決議に呼応して、日本では、2010年に「2012国際協同組合年全国実行委員会」が結成された。結成にあたって中心的な役割を果たしたのは、日本協同組合連絡協議会(JJC)である。 これは、14の協同組合組織で構成されている。全国農業協同組合中央会、全国農業協同組合連合会、全国共済農業組合連合会、農林中央金庫、家の光協会、日本農業新聞、日本生活協同組合連合会、全国漁業組合連合会、全国森林組合連合会、全国労働者共済生活協同組合連合会、日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会、全国大学生活協同組合連合会、全国労働金庫協会などだ。JJC傘下の組合員は延べ9800万人にのぼる。全国実行委の代表は経済評論家の内橋克人氏。

 協同組合憲章草案の起草
 全国実行委が最初に取り組んだのは、政府に「協同組合憲章」を制定させようという活動だ。
 協同組合関係者の間には、これまで長く抱き続けてきた悲願がある。「統一協同組合法」ともいうべき法律を政府につくらせようという願いだ。世界の大半の国には、統一協同組合法があり、協同組合に対しては統一的な施策がなされている。ところが、日本では各種の協同組合ごとに法律があり、政府側の対応も各省庁ごとのバラバラ対応となっている。このため、日本では協同組合について包括的な政策がなく、このことが協同組合の成長、発展を阻んできたというのが、協同組合関係者の主張だ。 
 そこで、協同組合陣営としては、統一協同組合法の制定を政府に求めたいのだが、政治の現況からして当面は無理とみて、その一歩手前の措置として協同組合憲章の制定を政府に迫ることにした。これだと、閣議決定ですむ。

 全国実行委の下に協同組合関係者、学者らを委員とする協同組合憲章検討委員会(委員長、富沢賢治・聖学院大学大学院教授)が設けられ、憲章にどんな内容を盛り込むかを検討してきた。その結果、昨年7月に、協同組合のあり方や、協同組合に対して政府が行うべき政策を盛り込んだ草案の第1次案ができた。これを各協同組合組織の討議に付し、また一般からこれに対する意見を募った結果、今年1月13日に「協同組合憲章草案」がまとまった。
 1月31日には、全国実行委の副代表である萬歳章・全中会長、浅田克己・日本生協連会長ら全国実行委の代表9人が首相官邸を訪問し、藤村官房長官にIYCにあたっての要望書と協同組合憲章草案を手渡した。これに対し、官房長官からは「協同組合年にあたって政府としての広報を検討する」との発言があったという。

 目白押しのIYC記念イベント 
全国実行委はこれに先立ち、1月13日、東京・渋谷の国連大学で、IYCキックオフイベントを開催した。協同組合関係者ら約350人が参加し、生源寺眞一・名古屋大学教授、堀田力・さわやか福祉財団理事長、小川泰子・いきいき福祉会専務理事によるパネルディスカッション「これからも協同組合がよりよき社会を築けるか」に耳を傾けた。
 
 これから先、全国実行委はJJCとの共催で、今年の国際協同組合デーを記念して、来る7月18日、東京・中野の「なかのZERO大ホール」で中央集会を開く。
 さらに、11月17、18両日には、埼玉県さいたま市の大宮ソニックシティで「協同組合フェスティバル」を開催する。協同組合が生産する食品や製品の試食や販売、東日本大震災被災地の製品や野菜の販売、協同組合活動の紹介、映画上映、防災カフェ(防災についての学習会)などが予定されている。

 全国実行委参加の各連合会も、それぞれさまざまな行事を計画している。
 日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会や日本医療福祉生活協同組合連合会(医療福祉生協連)など広範な団体と個人からなる実行委員会が、「いま、『協同』が創る2012全国集会」を11月17、18両日、埼玉県さいたま市の大宮ソニックシティで開く。全体会では海外の経済学者、大学教授の講演、哲学者、有機農業者、信用金庫理事長らによるパネルディスカッションなどが予定されている。
 奇しくもこの両日には同じ会場で、全国実行委主催の「協同組合フェスティバル」が予定されており、大宮ソニックシティは「協同」一色になりそうだ。
 
 生協5団体はエピソード募集 
日本生協連、医療福祉生協連、大学生協連、全労済、コープ共済連(日本コープ共済生活協同組合連合会)の生協5団体は、合同企画「つながるっていいね!エビソード募集」を6月1日から始めた。日々の暮らしの中で出会い、感じた人とのつながりへの思い、助け合ってよかったことなど、人とのつながりにまつわるエピソードを、文章あるいは絵で募集しようというもので、締め切りは8月31日。だれでも応募でき、生協への加入有無は問わない。入選者には賞が出る。

 協同組合を研究する学者の集まり「日本協同組合学会」は昨年5月、東京で春季研究大会を開いたが、テーマは「協同組合の社会的価値を問う――国際協同組合年と協同組合憲章――」だった。学者の間でも協同組合年に対する関心が高まりつつあることをうかがわせた。

 IYCにちなむ一連の活動を総括するような形で、11月28日、兵庫県の神戸国際会議場でICAのアジア太平洋地域総会が開催される。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0909:120608〕