湯島天神菊まつりでの天皇談義

(2021年11月13日)
 抜けるような青空。高い空というべきか、深い空というべきか。風はなく、寒さもない。今後のことはいざ知らず、コロナも小康状態である。こんな日は、アリも巣穴から這い出してくる。鳥も鳴き交わす。人も同じ。外へ出て、人と話しをしたくもなる。時には会話も弾む。

 湯島天神は菊まつりで賑わっている。妻にくっついて菊の品定めをしていると、少し年嵩の男性との会話になった。

「その花めずらしかないよ。こっちの方がいいんんじゃない」
「そっちは、去年買ったもので」
「じゃあこれは? でもこの鉢、持って帰るのたいへんじゃないの」
「いえ、ウチはすぐ近くですから」
「電車に乗るわけじゃないんだ。わたしはスカイツリーの方だ」
「そちらも菊まつり盛んじゃないですか」
「いや最近どこもダメ。ここ湯島の菊まつりが一番だね」
「亀戸天神はお近くじゃないですか」
「昔は立派だったけど今はちょっとね。両国の慰霊堂公園なんかも盛んだったけど今はダメだ」
「横網町の慰霊堂ですね。あそこには、毎年9月1日に行くように心がけているんですよ。虐殺された朝鮮人の追悼式にね」
「おや、そうなの。私も、その式典には多少関わりがある。日本人は朝鮮人に対してひどいことをしたもんだ。あのとき罪もないたくさんの人が殺されている」
「やっぱり間違ったことは、ごまかさずにきちんと認めて謝罪をしなくてはならないと思うんですよ」
「そのとおりだ。ところが小池百合子だよ、ひどいのは。これまでは追悼式に知事の追悼文が届けられていた。あの、石原慎太郎ですら、追悼文を送っていたのに、小池百合子はやめたんだ。石原慎太郎にも劣るひどいやつだ」
「おっしゃるとおり、右翼とつるんだあんなひどいのが知事になっているんだから、東京はおかしい」
「もっとひどいのが安倍晋三だよ。戦争の反省をまったくしていない。あんなのに長く首相をやらせたんだから、東京だけじゃない日本全体がおかしい」
「植民地に対する反省も、戦争の反省もしていないから、安倍なんかを首相にしちゃうし、いまだに天皇が威張っている社会になったまま」
「そうだよ。あの戦犯、数え切れない人の命に責任をとらなきゃならない立場じゃないか。本当なら処刑されて当然なのに、部下を犠牲にして自分は生き延びた」
「ところが、そんな天皇の責任を追及しようという声がなかなか大きくならない」
「今度の選挙には期待したんだけれど、結局負けちゃって…」
「だけど、めげていてもしょうがない」
「そうだよ。安倍は派閥の親分になって、また3度目の首相復帰を狙っているというじゃないの。そんなことをさせちゃいけない。粘り強く、がんばらなくっちゃ」

握手して、お別れ。お互いに名乗り合うこともなかったが、励まし合って気分は爽快。

 そのあと、菊を売っていた「文京愛菊会」の女性が、二鉢の菊を買ったサービスに、スマホの写真を見せてくれた。自分の家の屋上に並べたみごとな菊の鉢の数々…、まではよかった。が、その写真の最後に、皇室の菊のマークが出てきた。

「せっかくの菊の美しさが、天皇のお陰でだいなしだね。この菊のマークを見ると不愉快この上ない」
「えっ? そんなに皇室が嫌いなんですか」
「だいっきらい。侵略戦争の責任者で、何百万、何千万の人々の死に責任負わねばならないのに、みんな部下のせいにして、ちっとも責任とらなかったでしょう」
「でも、しょうがなかったんじゃないですか。東条英機など、周りが悪かったから戦争になったんで、天皇のセイじゃないように思ってますけど」
「東条英機もお気の毒。たしかに、彼は東京裁判では、全部自分のセイで天皇に責任はないと言ってますよ。だけど、別のところでは自分は天皇の命じるままに行動したまでで、天皇の意向に背いたことは一度もない、とも言っている」
「天皇は、戦争のことなどなんにも知らされていなかったんでしょう」
「それはない。むしろ、陸軍と海軍は仲が悪かったから、それぞれ相手のことはよく知らない。全部のことを、一番よく知っていたのは天皇ですよ。開戦の前には、陸軍にも海軍にも、何度も『それで勝てるか』『本当に勝てるか』と念を押してから、ゴーサインを出している。それは天皇の伝記を読めばすぐに分かる」
「でも、今の天皇や皇室は、戦争当時とはまるっきり違うでしょう」
「戦争の指導はしていないし、政治に口出しは出来ない。でも、エラそうにしているのは戦前と同じ。そして、国民の税金で喰っていることにも変わりはないと思いますよ」
「まあ、あの人たちには、自由も権利もないから、お気の毒と言えばお気の毒だけど」
「宮内庁の経費も含めれば、皇室の予算は年額200億円を超しますよ。あの広い皇居や赤坂御所を占拠もしている。兎小屋に住み、低賃金の中から税金を納めている国民が不満を言わないことが、私には不思議でならない」
「あの人たちは雲の上の人ですから、自分と較べることなんて出来っこないんじゃないですか」
「天皇の地位は国民が認めているからあるので、自分と較べてもいいんです。あんなのに税金を使いたくないと国民多数が言えば、天皇制をなくすることも出来るんですから」
「そう言う話はどこまで行っても尽きないんでしょうが、今日は菊を買っていただいてありがとうございました」

握手することはなく、お別れ。もちろん、お互いに名乗り合うこともない。気分は爽快とまではいかないが、天気のせいか、菊のおかげか、あるいは弾んだ会話の効用か、特に不愉快ということもなかった。

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.11.13より
http://article9.jp/wordpress/?p=17954
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion11483:211114〕