どうにも分からない。不思議の国―朝鮮民主主義人民共和国、一般には北朝鮮と呼ばれる国である。豊かとは言えないのに、世襲の国家指導者は核兵器やミサイルなど、お金のかかる物騒な兵器が好きと見えて、作ってはさかんにそれを誇示する。地続きですぐ南に兄弟分というか親戚というか、同じ民族の国、韓国があるのだが、70年余も昔に両者の国土が3年ほど激しい国際戦争の舞台となって以来、両者は対立を続けているからだ。
当時は世界が東西両陣営と言われる形で分裂、対立していて、そのいわば果し合いの場が不幸にしてこの国だったのだが、その対立そのものはすでに解消してしまったのに、戦場になった国の人間たちだけが対立を抱えて今に至っている。
勿論、これまでにも両者の間でさまざまな話し合いがあり、首脳会談も行われたのだが、なかなか統一の回復というところにまでは到達しないまま、今日に至った。
そこで不思議の件だが、去る17日、北朝鮮は憲法を改正して、韓国を「敵対国家」と規定したことを国営の朝鮮中央通信社が伝えた。その2日前の15日には、韓国に通ずる道路と鉄道線路を爆破しており、その記事がやはり17日の新聞紙上に掲載された。
「敵対国家」と規定して韓国相手に戦争でも始めようというのなら、黙って準備をすればいいので、相手に向かい合う自分の玄関先を壊してどうなるというのだろう。しかも、その爆発を映した写真は韓国側が撮った写真のほうがはっきりしているというので、外国通信社からそれを購入して自国の新聞に掲載したということだ。重大決意の表明にしては、写真班の配置に手抜かりがあったらしい。
この憲法改正が果たして現実政治を動かすのかどうか、それを判断する材料は別にないが、ひょっとすると関係があるのではないかと思われる出来事はある。ロシアのプーチン大統領がさる6月に平壌を訪問したことに現れたロシアとの関係の緊密化である。
2年前の2月、プーチン大統領は突如、ウクライナに対して「特別軍事行動」なる軍事攻撃を開始、同国へ地上軍を送って東部4州を占領、そのほか各地をミサイルやドローンで攻撃して、ウクライナに大きな物的、人的被害を与え続けている。
ウクライナはかつてソ連邦の一員であったとはいえ、すでに別の国になったことはロシアも勿論、認めているにもかかわらず、理不尽な侵攻を始めたわけだから、プーチンの国際的な評判、評価は当然、すこぶる悪い。加えて戦いがすでに2年を越える長期に及んだために、攻めているロシアも兵員、弾薬の不足に悩まされていることは確かだろう。
そこで今年6月のプーチンの北朝鮮訪問が行われた、と見るのは自然な推理である。会談の本当の内容は明らかではないが、伝えられるように、北朝鮮から弾薬、兵員などを提供し、見返りにロシアからは石油ほか北朝鮮に足りないもの、あるいは外貨などが提供されたと見て間違いあるまい。
とくに兵員の派遣については、北朝鮮は否定しているが、さまざまな目撃証言から、すでに戦場に出ているかどうかはともかく、ロシアにむけてかなりの兵員が向かっていることは確からしい。
21日の国連安保理でウクライナの国連大使は「ロシア東部で約1000人の北朝鮮兵が訓練を受けている」として、11月1日までに実戦投入される見通しと述べた。これに対してロシアの国連大使は「劣勢のウクライナが、ロシアとNATOの直接対決を引き起こそうとしているのだ」と反論したというが、朝鮮兵がウクライナへ派遣されたとすれば、近いうちに戦場に登場するはずだから事実ははっきりする。
それにしても、ウクライナに兵を派遣するだけであったら、北朝鮮だってなにも韓国をことさら敵視して、鉄道線を爆破するなどという奇妙な振舞をする必要はないのではないか。とすれば、私は北朝鮮のこうした振舞には、じつはロシアのプーチン大統領の意向が反映していると思えてならない。
プーチンがウクライナへ侵攻してからすでに2年半以上、ロシア側には出兵を正当化できる口実はないのだが、ウクライナを応援している西側の国々にも戦線を拡大して、ロシアと正面から戦うつもりはないから、なかなか停戦交渉を始めるに足る切羽詰まった状況とならない。
そこでプーチンが考えたシナリオは、朝鮮半島で北朝鮮に韓国との間で事を起こさせて、とにかく東西の戦火を消せという世界の世論を踏み台に、第三者を交えた停戦交渉の場を設ける。そこでのすったもんだの中で正当な理由のないままにいくらかでもウクライナの領土をかすめ取って、ことを収めようという筋書きではないだろうか。
22日からロシア西部のカザンで開かれたBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカほか)の首脳会議がどのような雰囲気で進むか、つまりウクライナにおけるロシアの手詰まりを別の場所で緊張をおこすことで打開するという策略が見えるかどうかに注目している。
初出:「リベラル21」2024.10.24より許可を得て転載
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