みなさまへ
今月2日、 イラン核問題の6月最終合意にむけた「ローザンヌ枠組み合意」が発表された。世界 はイランの譲歩に注目したが、その直後、世銀に30年務めたエコノミストで地政学 アナリストのペーター・ケーニッヒ氏が、背後にあるドル覇権の凋落に注目すべしと帝国アメリカの病巣を突いた論考をインフォメーション・ クリアリング・ハウス誌に投稿した。
時期を重ねて、すでに57か国が参加しているAIIBにも注目が集まったが、ペーター・ケーニッヒは、この AIIB(アジアインフラ投資銀行)とBRICS開発銀行、中南米圏のバンコ・デル・スールをあげて「IMF,世銀、米州開発銀行に直接 挑戦するもの」であって「事実上、帝国の腐敗した宮殿は崩壊している」と警告している。拙訳ですが紹介させていただきます。(2015年4月30日記)
【訳者注記:原著者が文中で( )に挿入したところ はすべて[ ]に、訳者が 挿入したところはすべて( )とした。またhydrocarbon(炭化水素) は、「石油・天然ガスなどの炭化水素」と表記した。】
Dollar Hegemony and the Iran Nuclear Issue: The Story behind the Story
物語の背後に物語あり:ドル覇権とイラン核問題
Url of this article:
http://www.informationclearinghouse.info/article41512.htm
By Peter Koenig
ペーター・ケーニッヒ(松元保昭訳)
2015年4月10日
インフォメーション・クリアリ ング・ハウス(ICH)誌
「国際協定は西側の人質となっている。イラン内部にはワシントンから多くの干渉があった。核問題 はまさにイスラム共和国を貶める口実であって、ほかに関係することなどほとんどない。」ソラヤ・セパプール・ウルリッヒ[RTインタ ビュー、2015年4月6日](このインタビュー動画(英語)のURL:https://youtu.be/88WmJ4Zv5EY )
この発言は、まったく当を得ている。故意につくられた核問題は―まさにレジーム・チェンジのための口実であり…たぶんそうだろう。だがそれ以上のことでもある。実際もたらされた最近の「ローザンヌ(枠組み)合意」に表明された見解にかんしては、イランと5+1(安保理常任理事国+ドイツ)の関係国のあいだでかなりの違いがあるだろう。物語の背後のもうひとつの物語に気づく必要がある。
だれも詳細については語らず、おそらく大部分の専門家たちが―正直な人たちでさえ―気づいていない。2007年にイランは、イラン国営石油証券取引所(IOB)を開設しようとしていた。―石油・天然ガスなど炭化水素の国際取引および同種品目の備蓄交換が、生産者であろうとなかろうとあらゆる国が[依然とした]この主要エネルギー資源をUSドルに代わる手段としてユーロで取引できるものであった。
これはもちろん、ドル締め付けからの世界の解放、―ドル覇権の終焉を意味した。ワシントンはこれを承服できなかった。世界の主要準備通貨としてのドルの終焉、またいたるところで制裁を加える道具でありワシントンの指令を受け入れるよう世界に強要する手段の放棄、を意味することなど―とんでもない!
石油・天然ガスなどの炭化水素は何千億ドル相当の価値で、米国経済では何ら正当化する理由を見いだせ ない膨大な量のドルで毎日取引されている。しかし―彼らはFED(連邦準備制度)に自在に紙幣を乱発させており―すべての新ドル紙幣は国際債務のドルである。それが世界中の国家の準備金財源を満たしており、その結果また、徐々に米国通貨価値を切り下げてまともに米国経済に 跳ね返ってくることになる。
石油とガスに限り―カーター政権下の70年代前半、軍事的保護と引き換えにサウド家の友人である父ブッシュによってサウジアラビアに課された「取り決め」で―世界がその産業に燃料を補給する炭化水素が必要なかぎり、また世界の意志がドルをそれもばかげた量のドルを必要とするかぎり―ドルで取引される。いわゆる量的緩和政策[QE]は、地球上のいたるところで戦争と紛争に融資するため、また無慈悲なシオニスト=アングロ=サクソンの嘘とプロパガンダの機関に資金供給するため、何兆ドルとまでいかないまでも何千億ドルもの紙幣乱発を米国に許してきた。いいじゃないか。それはただの負債だ。結局はその備蓄のためにドルを保有する国々に対し帝国が戦いかつ嘘をつくのだが、まさにそういう国々によって負債が―逆説的にもたらされてきた。
「履行しない義務」から成り立っている実際の米国負債が過去7年 間で約48兆ドルから、2014年 の[GAO(米会計検査院)]に よれば130兆ドル、米国GDPの約7,5倍に達していることをほとんどだれも知らない。比較して言うと、ギリシャを苦しめ打ち砕いた「トロイカ」[EU-IMF-ECB(欧州連合-国際通貨基金-欧州中央銀行)]のそれよりも倍以上の負債である。
石油・ガス取引用のドルを放棄する主権決定の行使は米国覇権の権力基盤を破壊するものでありイランのような国に許すことなど―とんでもない。ジョージ・W・ブッシュによって、核の脅威以上のもの―当然イスラエルの全面的支援をともない悪の枢軸の環となったその国を推し測って口実がでっち上げられねばならなかった。メディア操作によって強化されて、イスラエルとその地域すべてにとってだけでなくアメリカ地域の合州国にとってもまた、イランは核の脅威となった。約15000キ ロ離れた帝国にとってのその脅威は、その時点でイラン最強の長距離ミサイルはわずか2000キ ロの射程能力だった。
合州国に対する差し迫った脅威だとベネズエラを非難した最近の[不愉快な]オバマのジョークは同じように聞こえる。実際、そんなに犯罪的で嘆かわしいことでないなら、そんな非難は馬鹿げたことであろう。この嘘は対ロシア制裁と同類の経済戦争に続いたものだったので、―それは―結局は「制裁する側」自身に裏目に出た懲罰となった。ヨーロッパの場合、とくにそうであった。 「制裁」の実際の影響が明らかになったとき、MSM(主流メディア)は要するに沈黙してしまった。人々は簡単に忘れる。目を開かない限り彼らは次の嘘に騙されるままなのだ。
ドルは帝国の世界覇権の最終的な支柱である。それなくして、命運は断たれる。ワシントンはそれを知っている。ひとはイランのそれに類似した例を探すためにわざわざ遠くへ行く必要はない。1990年代後半にサダム・フセインがイラクの石油をユーロで売却すると公表したとき、2000年 にはすぐにも通商禁止が終わりを迎えた。理由は彼の国の侵略が悟られる必要があったからだ。けっして存在しなかったWMD(大量破壊兵器)の脅威が、国連安保理をはじめ世界中に宣伝された。そして―ビンゴ―西側メディアの殺人機構はイラク侵略とサダム殺害の動機を発明した。これで十分ではないかのように、サダムは突然9・11の―巨大なミラクルに結びつけられた。アメリカ人はさらにこの嘘に騙された。
ムアンマル・カダフィは、自国の主権を主張したためにもうひとりの犠牲者となった。彼はアフリカのために確固とした新たな通貨、ディナール金貨をリビアの金で保証したと発表した。リビアとアフリカの石油など炭化水素は、ドルに代わる通貨、ディナール金貨で取引されるはずだった。カダフィはまた、リビアが支援した低価格モバイル・ネットワークをアフリカ中に導入して、西側の略奪巨大電話企業からアフリカを解放するつもりだった。2011年10月20日、カダフィはCIAの手先によって残虐に殺害された。今日、リビアは市民の不安と殺害の温床である。(地中海ではリビアからヨーロッパへ逃亡しようとする膨大 な難民の犠牲者が難破している。=訳者)
イランのケースはもうすこし複雑だ。イランはロシアと中国の支援を受けている。それにもかかわらず、 プロパガンダ機構に世界への核の脅威だと塗りつぶされてイランは屈服させられた、よろしい。たとえどれほど論理的に語っても、まだ言い続ける。米国の15の主要諜報機関がイランには核兵器製造計画などまったくない、イランはその濃縮ウランを電力発生と医療目的に利用することでは誠実だった、と当時のブッシュ政権に保証したことなど(彼らにとって)たいした問題ではない。
イランの濃縮プロセスがたった20%の純度に近づいた。医療目的に十分としても97%を必要とする核兵器にはほど遠い。たとえそうであっても…イランは圧力を甘受しなければならなかった。そして嘘で張りめぐらされた罠を背負って世界にとって危険なのけ者国家にさせられた。それが平均的なアメリカ人、ヨーロッパ人が現在信じていることである。恥ずかしいことだ。中東における唯一の核の脅威、イスラエルについてだれも公然と語らない。それがもうひとつの恥だ。
たとえ、ローザンヌ合意がきょう、または次の6月、 緊張の3か月よりもっと後であっても、無駄な交渉だ。たとえ、国連決議が合意について制裁解除について何かを語ったとしても―ワシントンはイランを圧迫し続ける口実をつねに探し出すだろう。ソラヤ・セパプール・ウルリッヒが語ったように、「国際協定は西側の人質となっている」―世界で唯一のならず者国家、残虐で犯罪的な米帝国が、その哀れな貪欲を満 たすその道を圧し潰して行くのを阻むような国際協定も国際法も存在しない。
帝国が生き残る限り、常に―こうである。そう、経済が生き延びることはたんに時間の問題に過ぎない。15年前、世界中の準備保有資産のほぼ90% が米ドルまたはドル表示の有価証券で保たれていた。2010年には比率が約60%に減少し、今日それは50% に近づいている。それが50%以下に落ち込むなら、過去100年間あったと考えられてきたドル紙幣がもつ信用は世界中の政府から徐々に失なわれるだろう。いずれにせよ、それはシオニストに支配された西側金融システムの召使いが詐欺に用いるミッキー・マウス(シンボル)貨幣、まったく役立たない紙切れ同然の貨幣、勝手気ままに「非-同盟」世界を貧窮させることに 悪用されてきた貨幣、にほかならない。
イランはこれを知っている、ロシアも理解している。―直接対決しなくても、イラン合意が最終的に予定 している約20~30年もの長いあいだ帝国の統制力は持ち応えないかもしれない。 したがってイランが「和平」に向かわなければならなかった大きな譲歩―その濃縮プロセスを核燃料プラントに十分な3,37%に減速すること、また20%に濃縮した医療用ウランのその備蓄を海外に売却または移転すること―というこの「輝 かしい」暫定合意に達するこれらの譲歩はさほど重要ではない。イランのモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ、同じくロシアのセルゲイ・ラ ブロフ両外務大臣が公表したように、勝者はイランの側にある。もしワシントンがつぎの3か 月以内に、あるいはありうることだがいつでも気ままに合意を頓挫させるなら、イランは世界的な信用という闘争に勝利したことになる。イランがすでに署名した合意を進んで固守するなら、たとえどれほど妨害されようと問題ではない。
事実上、これらの方向が印刷されようとしているとき、帝国の腐敗した宮殿は崩壊している。過去2年のあいだに、アジアを基盤とした新たな二つの国際的な開発・投資銀行が創設された。2014年7月に、BRICS開発銀行が―ブラジル、ロシア、インド、中国、および南アフリカ―BRICS5か国の 指導者によってブラジルで成立した。今年初めには、中国と他の20か国に出資され上海で開業するアジア・インフラ投資銀行―AIIBが創設された。イランはAIIBの創設メンバーである。
また、ベネズエラが出資したバンコ・デル・スール―ラテンアメリカ半球のための開発銀行―が、2015年中に操業開始になるだろうと、ちょうどエクアドルの外務大臣が公表したところ だ。これら三つの銀行は、ワシントンが支配するIMF、世界銀行、そしてIDB[米 州開発銀行]に直接挑戦するものだ。考えても見よ、ワシントンのもっとも悪名高い 「同盟国」の者たちが、ホワイトハウスの意志に逆らってAIIBの約40か国の創設メンバーに合流しているではないか?それらの国々―英国、フランス、ドイツ、イタリア、およびスイス―は、ネオリベ・ヨーロッパの縮図 だ。
ワシントンの見せかけの覆いと不合理な傲慢は、もっとも緊密な同盟国を「敵」の陣営に追いやっている。2015年4月2日、FED(連邦準備銀行)は、ワシントンが制裁した国々―キューバ、スーダン、および イラン―との取引の廉でドイツのコメルツ銀行に17億米ドルの罰金を科したと発表 した。
これは、すべての国際銀行業務が米国の銀行を通して運用される限り、またロスチャイルド支配の BIS―国際決済銀行によって管理される必要がある限り生じたことに過ぎない。ロシア、中国と他のSCO[上海協力機構]提携諸国は、石油・ガスなど炭化水素取引を含む国際契約およびマネー移転のためにすでにドル・システムから離脱している。彼らは、西側が支配し非公式に所有しているSWIFT(国際銀行間通信協会)移転方式に代わるものを開始しようとしているのだ。新たなシステムには、略奪するドルの鉤爪から自由になることを望むどんな国でも合流するにちがいない。
帝国のもっとも信頼に足る手先でさえ東側で提携を求めるとき、経済の風向きは変わっており、構造上の 大変革がやがて起こりうるという不吉な前兆もあるが、いずれにせよ予見できる将来、イラン核合意は実際にはなんら重要ではない。
(以上、翻訳終わり)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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