1.拡大された価値形態の逆転による説き方
2) n個ある拡大された価値形態のうちただ1個が逆転する生起確率が1、つま
り第三形態生成が必然である特殊ケースについて
前稿1-1)ではn種の商品がそれぞれに展開するn個の拡大された価値形態が相互に独立自由に逆転する事象の全体に対してただ1つだけ逆転する事象の生起確率を求め、複数の逆転が生じる事象を排除出来ないゆえその分だけその生起確率は1より小さくなる、すなわち第三形態生成の必然性は論証出来ないことを見た。
では問題となっている生起確率が1、すなわち第三形態生成が必然である特殊ケースはどんなものだろうか。
これまで述べてきたことから直ちに言えるのは複数の逆転が生じるとその時それらの間で一般的等価形態をめぐる競合が生じるがゆえに第三形態生成が否定されていたのだから、そのような事象を含まない、いってみれば1)で与えられた事象全体の集合の部分集合の内部で生起確率を求めればよい、ということだ。
すなわち
n個ある拡大された価値形態のうちただ1つだけが逆転する事象の総数
でもって
n個ある拡大された価値形態のうちただ1つだけが逆転する事象の総数
を除すればよく、前半と後半は全く同一の集合だから同義反復的にその値は1となる。この時個々の事象の生起確率の分布は、p1+p2+・・・pn=1でさえあればよく、p1=p2=・・・=pn=1/nである必要は全くなく、それはさらに特殊なケースの一つに過ぎない。
しかしこうした同義反復命題によって何かが証明されたと考えるべきなのかどうか。
分かりやすい例に置き換えてみるとこのことがはっきりする。
1枚だけが当たりの宝くじが100万枚ある。
だから
この宝くじ100万枚のなかから当たりくじが必ず1枚でる。
これは何かを証明しているのだろうか。結果は前提に含まれている。
情報理論によればある確率を持って生起する事象の生起をあらかじめ知りえた場合に得られる情報量は、生起確率の逆数で表わされることが知られており、
Qinf=1/P-1
で定式化され、P=1の時は情報量ゼロとなる。つまり必ず生起する事象について予めその生起を知ることが出来てもその情報はゼロなのである。
ここで真に考察すべきは、ある一つの拡大された価値形態の逆転がなぜ他の逆転の自由を「抑圧」するようになりうるのか、その契機と過程を商品の価値表現の発展の内部でどう規定するのか(そもそも可能であるのか)、そのことであって、これについては依然として不問に付されているのではあるまいか。
2.拡大された価値形態の交点から第三形態生成を説く方法について
1.で見たように逆転の論理には簡単には解決できない難点が付いて回ると見て
宇野理論の内部では拡大された価値形態の重なり合う部分、交点の中から一般的
等価形態すなわち一般的価値形態が生成するのだという見解が示されてきた。
次にこの見解を検討してみよう。
この場合n個の拡大された価値形態とすべて重なり合う商品の数が1になる必
然性が説けるのかどうかという問題に帰結するのだが、その商品の集合をGとし
その性質を調べてみよう。
ある任意の商品Wt(1≦t≦n)としその拡大された価値形態Ftを観察するな
らば、当然相対的価値形態に立つ商品Wtは等価形態に立つ商品列には含まれない
つまりこの時点ですでにWtはすべての拡大された価値形態相互の重なり合いGに
含まれない。
これは任意の商品Wtについて言えることであるので、すべての商品W1,W2
WnについてどれもGには含まれない。つまりGは空集合(=φ)であり、一般
的等価形態に立つ商品は存在しないことが判明する。
3.一般的考察
(命題)
ある同質な要素からなる集合の要素全てに対して非選択的に(無差別に)ある作
が加わることを考えたとき、その結果の間にある非等質性が生じることはあり得ない。
これはかなり頑堅な命題ではないか。
地球重力場におかれた質点はすべて同一加速度gで落下する。
が一つの例ではあるが、
価値(実体だろうと形態だろうと)という規定性において同質な商品の価値表現という同一の場から非等質性=一般的価値形態が生じることはあり得ない。
このことを1.2.という具体例をとって証明したのが当論稿の内実なのである。
以上のことから価値形態をどんなにせんさくしてみても、そのなかから貨幣形生
成の道筋を見出すことは不可能である、がここでの結論となる。
貨幣存在について何らかの生成を追求する試みは無意味であり、そうした神学
的思考と絶縁し、むしろ現に目の前にある歴史的に転変を遂げて来た貨幣の機能
を論理的に明らかにすることこそが重要なのではないか。(完)
記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔study683:20151212〕