こんなことは、私の経験では、希有なことである。この正月に私が友人・知人らからもらった年賀状(寒中見舞いも含む)に時の政権に対する批判が溢れていたことだ。中には、怒りや憤りをぶちまけたような激しい調子のものもあった。時の政権とはもちろん、安倍政権のことである。
年賀状の文面といえば、「謹賀新年」とか「賀正」とか「明けましておめでとうございます」といった常套句の後に、「今年もよろしくお願い申し上げます」とか、「ご健勝を祈ります」、あるいは「ご多幸を祈ります」と続けるのが普通だ。これが、いわば年賀状の定番ともいうべきもので、日本では、これが何十年間も続いてきたわけである。もちろん、こうした常套句に、自分の身辺のことや、家族の消息、今年の抱負などを伝える短文を添え書きした賀状も少なくない。
ところが、私の場合、今年は、本文や添え書きで安倍政権を批判する文章を刷り込んだり、書き込んだ年賀状が多く、私を驚かせた。数えてみたら、安倍政権に批判的な文が載った年賀状は全体の24%にのぼった。こんな経験は初めてだ。
これらの年賀状は、何を憂い、何に怒り、何を憤っていたのか。
一言でいえば、安倍政権がこの2年の間にやってきた一連の施策に対して、であった。具体的にいえば、集団的自衛権行使を改憲という手続きを経ずに閣議決定で容認したこと、集団的自衛権の行使を可能にする安保関連法を強行採決という手段で国会で成立させたこと、知事以下の広範な沖縄県民の反対を押し切って米軍普天間飛行場の辺野古移設を進めつつあること、東京電力福島第1原子力発電所の事故が収束していないのに原発を再稼働させたこと、日本のTPP(環太平洋経済連携協定)加入を推進したこと、野党の要求を押し切って臨時国会を開かなかったこと等々である。
千葉県流山市の老人施設に入居中の元大学教授からきた年賀状は、“安倍政権批判年賀状”の典型的なものと言っていいだろう。
「肉体的な苦痛より、精神的な打撃の方が大きい1年でした。敗戦以来70年間築いてきた私の価値観が根元から覆されてしまいました。憲法違反と言われながら、安保法制で憲法9条が骨抜きにされ、民主主義や個人の尊厳もないがしろにされました。アベノミクスによる格差拡大、非正規労働者の増大、原発再稼働と輸出指向、辺野古移設の強行、臨時国会開催の無視など神経を逆撫でし続けました」
とりわけ、安倍政権が成立させた安保法制への反発は極めて高かった。いわく……
「昨年は国会に何度も足を運び、あげくのはて、足首をひねってしまいました」(横浜市・主婦)
「安保法制に怒り通しだった昨年でした」(さいたま市・元新聞記者)
「昨年は安保法制が通りましたが、大きく変わろうとする国のあり方にはとても納得がいきません」(さいたま市・青年関係の団体職員)
「2015年の出来事の中で私の心を最も強く捉えたのは安保関連法でした。新しい安保関連法は、日本が将来、ふたたび世界戦争に巻き込まれる可能性を示唆しています」(東京都杉並区・元大学教授)
「現政権は『戦争法』を強行成立させ、<戦争できる国づくり>を急いでいます」(東京都世田谷区・元教員)
「政府は憲法の縛りを無視するかのように『安保法制』(戦争法)を成立させてしまいました。前回の総選挙で消費税10%を延期することを表明して選挙を行い、国民の支持を得たとして強行採決しました。これはナチスが政権基盤を固める手法を想起させるものです」(東京都昭島市在住の夫妻)
「『憲法謀殺政権』の横暴に憤激し、新年を寿ぐ気分になれず、賀状を欠礼しました」(千葉県浦安市・元新聞記者。寒中見舞いから)
「安倍政権は、すでに特定秘密保護法を施行しました。これによって、現政権は、都合が悪い真実を国民から隠すことができます。政権が国民に嘘をついても、罰せられることはまずありません。日本は、国民に対して『大本営発表』という大嘘をついていた頃と同じ状況になりました。これだけで、日本は戦争を始めることができる国になってしまいました」(東京都町田市・研究者)
「軍国日本を再デビューさせた安倍首相とその一派を許す訳にはいきません」(長野県諏訪市・大工)
「過去の亡霊が再現しそうな最近の政治の動向に、心穏やかでありません」(東京都杉並区・元新聞記者)
「安倍政権は着々と古い日本を取り戻しているようで、不安です」(東京都小平市・在日朝鮮人の学者)
「日本の政治ますます怪しくなる一方。長生きしたくもあり、したくもなしの心境になってきました)(東京都小平市・主婦)
国民の間に、こうした批判、怒り、憤りが渦巻く一方で、安倍内閣への支持率が暮れから新年にかけて上昇しつつあることにいらだつ人もいた。
「今年はいよいよヘタをすると安倍天下を強める年になりかねません。こんな酷い、醜い安倍首相を、何故勤労者が支持するのか不思議です。なんとかまともな世の中に戻さなくてはなりません」(東京都世田谷区・元新聞記者)
「今の日本の社会は、現政権とそれを支える人たちのために危ない時代になりました」(神奈川県伊勢原市・会社員)
では、これから私たち国民はどうしたらいいのか。
「夏の参院選挙における国民の選択が、極めて重要な意義を持つ状況になろうとしています」(東京都練馬区・元大学教授)
「参院選での国民の良識に期待します」(横浜市・元新聞記者)
「今年も一層『戦前』への歩みを早めるのではないかと案じられます。来たるべき参院選挙では、その流れを少しでも押しとどめることが出来ないものだろうかと、願うばかりです」(横浜市・元会社員)
「今年は、国政選挙があります。憲法を守らず国民の、命や暮らしを犠牲にした政治が闊歩している日本。『アベ政治を許さない』の声を大きくして社会を変えたいですね」(埼玉県熊谷市・元会社員)
「夏の選挙で与党が勝てば、戦争法が発動され、南スーダンの少年兵に自衛隊の銃口が向けられるかもしれぬ。あるいはシリア、あるいはイラクの無辜の民に……と。この国は、沖縄戦で護郷隊に少年を駆り出した過去をもつ。だから、ぼくはデモに出る。駅頭に立つ。戦争法廃止、立憲・民主の統一候補を。野党は共闘!」(東京都杉並区・元労組書記)
「老若総がかりの、また新種改憲派を含めた多様な行動で暴政に抗しつづけ夏の選挙を勝たねばなりません。辛勝であるにしても……」(神奈川県鎌倉市・図書編集者)
「平和憲法とともに育ってきた僕には現憲法を蔑ろにする安倍政権が許せず、金子兜太さんの筆によるプラカード『アベ政治を許さない』を掲げることにしました。残る時間を『憲法9条を守る』ことに使いたいと思っています」(埼玉県越谷市・がん患者)
「『安保関連法』成立などで、さらに加速して戦争への道を突き進もうとしている日本。それを止めるためにも日本が過去にどのような過ちを犯したのかを、多くの人が具体的に知ることが重要だと思っています」(三重県桑名市・写真家)
「昨年の政権の横暴は目にあまるものでしたが、市民はバカではなく、勉強を始め、そして諦めていません 」(横浜市・主婦)
「少しでもマシな社会を子どもたちに残したいです」(兵庫県西宮市・国立大学准教授)
「日常の生活を通じて、民主主義のネットワークが働くような社会を目指して、誰でもが人間として互いに尊重しあえる関係を築くことが大切だと思われます」(東京都八王子市・元大学教授)
沖縄の友人からは、こんな賀状が届いた。
「人間はどのようなことがあっても、戦死してはいけないのである。命は国家を超えるものであり、命に勝る価値あるものはどこにもないのである。ヌチドゥタカラ(宝)戦死してはいけないのである」(浦添市・大学客員教授)
「沖縄はここしばらく毎年毎年正念場を迎えています。皆様の暖かい目線が励みです。“正義は勝つ!!”」(北谷町・元自治体職員)
マスメディアへの批判もあった。
「官邸筋から偏向報道とおどされ、自己規制するマスメディア。ジャーナリズムが泣きます。『中立』とは思考停止のこと」(東京都世田谷区・元新聞記者)
「新聞・テレビの知的優位性が失われ、新聞がインターネットを追いかけているようではジャーナリズムを論ずること自体こっけいなものかもしれません。(昔は)いい時代でした」(東京都日野市・元新聞記者)
「マスメディアのあり方に? です」(東京都荒川区・団体役員)
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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