中国の対日印象、急速に悪化
日本の民間非営利団体「言論NPO」と中国国際伝播集団は、12月2日両国で実施した共同世論調査の結果を発表した。この調査は20回目。10~11月、日本側が全国で1千人、中国側が北京や上海など10都市で1500人の18歳以上を対象に実施された。
日本の印象について「良くない」「どちらかといえば良くない」と答えた中国人は昨年よりも24・8ポイント増の87・7%と急速に増加。2005年の調査開始以来、尖閣諸島国有化を巡り最悪となった2013年の92.8%に次ぐ高さとなった。
中国の印象が「良くない」とした日本人は、3・2ポイント減の89・0%でやや改善したが、日中双方のほとんどの国民が相手を「悪もの」とみていることになる。
中国人が日本によくない印象を持つわけは、日本が尖閣諸島を国有化したことによって「対立を引き起こした」が最多の45%。今年は「一つの中国原則への消極的態度(台湾問題)」や「中国侵略の歴史への謝罪・反省がないこと」、「日本メディアの中国の脅威の喧伝」が前年を上回ったという。
日中関係の発展を妨げる問題として「東京電力福島第一原発処理水の放出問題」35・5%が最多で、前回より30ポイント近く増加。日本のナショナリズムや反中感情、歴史認識・教育を挙げる人も前年より増えた。日本側は尖閣問題が50.6%が最多だった(以上2024/12/2 産経・信濃毎日)。
反日感情はつくられる
末尾の『相手国に対する印象図』(各紙から引用)」を見ると、中国人の対日好感度(嫌悪感)の上下が著しい。これを見ただけで、中国世論が操作されていること、いいかえると中国政府の世論操作能力が高いことを示している。
日本にいいイメージを抱いている中国人の割合が2013 年に急落したのは前年の尖閣諸島をめぐる両国の衝突があったのに加えて、安倍内閣閣僚数人の靖国神社参拝に中韓両国が猛烈に反発し、中国政府が反日キャンペーンを打ったからであろう。
また2018、19、20年と日本に対する好感度が高まったのは、18 年に安倍首相の訪中などがあり、反日キャンペーンが引っ込んだこと、さらに訪日中国人観光客の急増が影響したかもしれない。というのは、中国からの観光客は2013 年の130 万人だったものが2019 年には959 万人と増加した。日本への渡航歴のある中国人の50%以上が日本に好印象を持っているという。
東京電力福島第一原発処理水の海への放出について、中国政府がそれは核汚染水ではなく、科学的に見て人体に害のない程度の処理水だと評価を変えれば、好感度はかなり上昇する。またSNS上の「日本鬼子を殺せ」といった文言を中国当局が放置せず、中傷誹謗がひどいものだけでも取り締るならば、嫌悪感が減少するのも明らかである。
日本人も中国人も、相手国に良くない印象を持つのは尖閣諸島問題が最多である。これなど双方領土問題は棚上げし、尖閣近海の共同開発などが行われるとなれば問題はなくなる。だが、その前提は日中両国関係が友好的になることであるから前途多難である。
反日感情の底流
反日感情悪化の理由として挙げられている「中国侵略の歴史への謝罪・反省がないこと」すなわち日中戦争への反省については、すでに日本政府も公式に何回か謝罪している。「これ以上日本が何をせよというのか」というのが日本人の平均的感情であろう。
しかし中国では日本政府から謝罪があった事実はほとんど知られていない。しかも、日本政府の公式的態度について中国人の多くが知ったとしても、中国庶民のレベルで対日感情が好転することはまずないと思う。中国東半分を日本軍が占領あるいは爆撃した地域には至るところ侵略の爪痕がある。残虐行為の記憶が残っているところも少なくない。反日感情は、中国政府の時々の反日キャンペーンや学校教育によって醸成されているが、それがなくなると庶民の反日感情が消えるかといえばそんなものではない。
中国で暮らしていた時、ときどき知らない人から「九一八(柳条湖事件)をどう思うか」「南京事件では何人殺されたと考えているか」「靖国神社についての考えを述べよ」などと議論を吹っ掛けられることがあった。
また、「中国は日本から戦争賠償を一言も取らなかった、こんな寛大な国がどこにあるか」などとも言われ、「賠償は払ってないが、国交回復交渉のおり、周恩来首相が認めたことだ」「そのかわり日本は中国に4兆元余の借款を送っている」「現在の北京空港も日本側の借款で作られた」などと反論したら、つかみかからんばかりに言いつのられたこともある。そのたび、先祖が悪いと子孫はじつに苦労をすると実感したものである。
これについて中国天津の「中学」に在職中の若い副校長の話は忘れられない。彼は選ばれて仲間とともに1980年代日本に留学した。ある時年配の女性と話す機会があった。その人は彼が中国人留学生だと知ると、「日本はさきの戦争では中国で悪事を働きました。まことに申し訳ありませんでした」といい、深々とお辞儀をした。このとき同行の中国人留学生らはみな驚いたという。「日本では庶民まであの戦争の責任を感じている」と。
副校長は「それで私たちはみんな日本が好きになったのです」と言った。この話を聞いて間もなく、1988年竹下内閣の奥野大臣が「日本に侵略の意図は無かった」と発言して批判を浴び、国土庁長官を辞任した。このとき副校長は、「日本も1億の人口があるからバカが一人や二人いても不思議ではないが、それが閣僚とは・・・・・・」と嘆いた。わたしは一言もなかった。
昔、私の村では小さい子が夕方遅くまで外で遊んでいると、大人が「早く帰らないと『ボーコ』にさらわれるぞ」と脅した。「ボーコ」とは950年前の「蒙古襲来」のことである。これからすれば、中国人の日本に対する「恨み」が百年単位で続くことは想像がつく。
友好度はこの程度のものか
日本人の中国に対する感情が良くない理由は、数々ある。中国への言い分もある。だが、それは別途議論したい。ひとことでいえば、現今の情勢では対中国感情がこの程度であるのはやむを得ないと思う。
しかし、中国のSNSは政府の統制下にある。ここに、日本人学校を「スパイ養成拠点だ」とか、日本人児童の刺殺事件が起きた日が「満州事変」発端の柳条湖事件93年目の9月18日(中国では一ニ九記念日)であることから「(侵略の)報いだ」と、日本人襲撃を支持するものがあったという(北京共同)。
中国政府が意図的にこうした根拠のない書き込みを容認し、日中関係の世論を操作していることは明らかだ。日本政府がこれをやめさせるよう強く求めるのは当然のことだと思うが、やっているだろうか。きちんと対応しないと、相手になめられることは経験済みである。
一方、あらためて強調したいことがある。「中国侵略の歴史への謝罪・反省がないこと」は、近現代史をまったく学ばなかった人ならばとにかく、今日でも政治エリート層に存在することは問題だ。閣僚の靖国参拝をふくめて、彼らの心無い発言が中国で伝えられるたび、中国世論は悪化する。隣国との関係をあえて悪化させる意図がないならば、対中国関係をどうするか、国会でも徹底的に議論してほしいと願っている。
(2024・12・07)
初出:「リベラル21」2024.12.09より許可を得て転載
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-category-7.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion13999: 241209〕