<リベラル21 編集委員会から>
岸田政権が原発の再稼働と新増設を打ち出しました。しかし、東京電力福島第1原子力発電所の事故から11年たっても、事故によってもたらされた諸問題は解決されていません。メディアもこうした現状を的確に伝えていません。そこで、福島で反原発運動を続けている武藤類子さんが、8月6日に広島市で開催された「8・6ヒロシマ平和へのつどい2022」に寄せた「福島からのメッセージ」を紹介します。転載にあたっては「8・6ヒロシマ平和へのつどい事務局」の許可を得ております。
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終わらない核被害
8・6ヒロシマ平和へのつどい」に繋がる皆さまのたゆまぬ活動に、感謝を申し上げます。
原爆投下から77年の月日が経ちますが、核のもたらす被害は、今も福島へと続いています。
福島原発事故から11年、未だに「原子力緊急事態宣言」は発令されたままです。
福島第一原発は、冷温停止状態と発表された2011年の12月から、30年後ないし40年後までに廃炉にするというロードマップが示されていますが、実際には廃炉の最終形がどんな状態を示すのかすら提示できていません。ごく最近に1号機の圧力容器を支える土台の一部で、炉心溶融の高温でコンクリートが溶け鉄筋がむき出しになっていたことが分かり、原子力規制委員会も「安全な状態ではない」と言っています。高い放射線量に阻まれ、遠隔操作でも思うように作業は進まず、結局人が放射線量の高い非常に危険な場所での作業に駆り出されています。
避難区域の解除は、事故前の許容被ばく限度の20倍の放射線量で行われ、そこで子どもを含む住民が日常生活を過ごすことが促されています。
事故から10年を契機に、行政による避難者の切り捨てが顕著になり、提供された避難住宅をさまざまな事情で出ることができない避難者に対し、福島県が損害金としての2倍家賃を請求したり、裁判に訴える事態にもなっています。戻らない避難者の代わりに県外からの移住者支援に予算を付けて力を入れ、故郷はもはや違う人が住む違う町へと変わって行きます。
原発事故の被ばくによる健康被害は事故直後から徹底的に否定され、事故後多発している小児甲状腺がんさえ因果関係は認められていません。今年3月に当時6歳から16歳の甲状腺がん当事者が裁判を起こしました。そのような重荷を背負わさざるを得なかったことに心が痛むと同時に、大人としてできる限りの支援を呼びかけたいと思います。
原発構内に貯められているALPS処理汚染水を薄めて海洋放出する計画は、漁業者をはじめ農林業、観光業界なども反対をしていますし、福島の7割以上の地方自治体議会も、反対の意見書を国に送っています。多くの県民も反対し、さまざまなアクションを起こしていますが、東電は一部の工事を「認可が必要ない箇所だ」と言って強引に工事を始めています。
除染で集められた汚染土は「再生資材」と名を変えて、農地などで再利用する計画が進められています。汚染された樹木を、除染を兼ねると謳って木質バイオマス発電所で燃やすなど、本来閉じ込めて管理すべき放射性物質を意図的に環境に拡散しようとしています。
事故当時の東京電力経営陣の刑事責任は、強制起訴裁判で明らかにされた多くの証拠にも拘らず、東京地裁で無罪判決が下され、つい先日控訴審が結審したところです。判決は来年の1月に下されます。6月17日の民事の損害賠償裁判の最高裁の統一判断は信じがたいことに国の責任が認められませんでした。司法までもが、原子力行政に飲み込まれているのかと思わざるを得ません。
原発事故の被害はより見えなくされ、「復興」へと邁進する姿だけが取り上げられ、人々は事故の被害や不安について口をつぐむようになり、放射線防護への関心や対策は大きく後退しています。これが現在の福島の姿です。
原発は原爆と同じ技術を使った発電方法であり、原爆が抱えてきた「圧倒的な力のためには犠牲を厭わない」という冷酷な思想が受け継がれていると感じています。
ロシアのウクライナ侵略戦争により、原発が核兵器になり得ることを世界中の人が認識できたにも関わらず、この国の首相は、この冬に原発9基を再稼働する方針を発表しました。
今、世界中に核分裂による放射性物質が生成され、残され、放置され、漏れ出し、知らぬ間に命を脅かしています。人類は本来共存できないものと、ともに暮らしていかなければならなくなりました。
私たちは、今こそ世界の被ばく者と繋がり、力を合せて、この状況を少しでも良い方向に向けていかなければ、子どもたち、未来の人々に更に重い荷物を背負わせることになります。
広島で、長きに渡り大変な闘いをされ、少しずつ少しずつ道を開いて来られた皆さまと繋がり、ともに闘っていきたいと心から願っております。
本日の盛会を祈り、福島からの連帯のご挨拶とさせていただきます。
〈追記〉
1)7月22日、原子力規制委員会が「福島第1原子力発電所特定原子力施設に係る実施計画」の変更認可申請について認可し、8月2日、内堀雅雄福島県知事と吉田淳大熊町町長、伊沢史朗双葉町町長が、小早川智明東京電力社長と福島県庁で面会して、周辺地域の安全確保に関する協定に基づき「事前了解」を伝えた。8月3日より本格的な工事が始まった。
2)7月13日、東京地裁は東電株主代表訴訟で東電旧経営陣の責任を認め、会社に13兆3210億円の支払い命じる。
<武藤類子(むとう るいこ)さんの略歴>
1953年福島県生まれ。福島県三春町在住。版下職人、養護学校教員を経て、2003年に里山喫茶「燦(きらら)」を開店。チェルノブイリ原発事故を機に反原発運動にかかわる。福島原発告訴団団長、原発事故被害者団体連絡会代表。3・11甲状腺がん子ども基金副代表理事。著書に『福島からあなたへ』『10年後の福島からあなたへ』(大月書店)、『どんぐりの森から』(緑風出版)
初出 :「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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