福島事故・避難区域を3段階に見直し

著者: 池田龍夫 いけだ たつお : 毎日新聞ОB
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 政府は12月26日、原子力災害対策本部の会合を開き、東京電力福島第一原子力発電所の事故で設置した避難区域について、住民の早期帰宅を目指す区域や長期にわたって居住を制限する区域など3つに見直す方針を決定。来年3月末をメドに、作業を急ぐことになったが、果たして被災住民への朗報と言えるだろうか。

         放射線量の多寡で〝線引き〟

 原発事故収束に向けた工程表の「ステップ2」の完了を12月16日に宣言したのを受けて、避難区域の見直しを協議した結果、放射線量の高さに応じて、3つに分類し直した。

避難指示解除準備区域=年間の被ばく線量が20㍉シーベルト以下になることが確認された地域で、住民の早期帰宅を目指す。②居住制限区域=20㍉シーベルト超・50㍉シーベルト以下の地域で、引き続き避難を求める。③帰宅困難区域=50㍉シーベルトを超える地域で、長期にわたって居住を制限する――という方針で臨むことになった。また、福島第二原発について、冷温停止を維持するための安全対策も十分に行われているとして、半径8㌔圏内に出していた避難指示の解除を決定した。

        住民が暮らせる環境の整備を       

 野田佳彦根首相は「区域の見直しに当たっては、市町村や住民の意向を十分把握しながら、きめ細やかな対応を行っていく。また、放射線に対する健康不安の払拭を含め、さまざまな課題に、国が最後の最後まで責任持って取り組む覚悟だ」と述べ、住民の帰宅や支援に全力を挙げる考えを強調しているが、来年3月末までに避難区域の具体的な線引きが行えるだろうか。枝野幸男経産大臣は「長期化する避難生活や生活再建の在り方、自治体機能の維持などについて、国として責任を持って対応していく。こうした区域の不動産の取り扱いについても、県・市町村、住民と密に意見交換を行い、区域内の住民に対する支援パッケージ全体を議論するなかで検討を進める」と述べているが、個別・具体的な交渉がスムーズに運ぶとは思えない。

       〝帰りたくても帰れない〟苦しみ

 福島県川内村では村民約3000人の大半が避難、現在の居住者は139人。遠藤雄幸村長は、仮設住宅などへの〝帰還〟を呼びかけているが、余り効果はないという。「住民が戻れば店も開き、働く場もできる。放射能も怖いが、故郷に戻りたいという村民の気持ちが萎えていく方が怖い」と語っていた(毎日新聞12月27日付朝刊)。双葉町、飯館村などの悩みも全く同じで、「生活できる環境も、仕事もない故郷には〝帰りたくても帰れない〟」現実が、住民の心を切り裂いているのである。

 原発事故から間もなく10カ月、政府の事故調査委員会中間報告は「東電と政府のミスによる複合災害」と厳しく断じているが、首相が「東北の復興なくして、日本の再生はない」とお題目を唱えるだけでは、故郷再生は望めない。「国民が安心して生活できる町づくり」に全力を尽くすことこそ、政治の基本姿勢だと痛切に思う。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1758:111230〕

(いけだ・たつお)1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを
歴任。著書に『新聞の虚報と誤報』『崖っぷちの新聞』、共著に『沖縄と日米安保』。