田中一郎氏の15回福島県健康調査検査委員会の記者会見報告を拝読させていただいたが、同委員会の受け答えが、田中氏の報告の通りだとしたら、大変心もとなく彼らの分析と総合判断能力にはっきりと疑問を呈さざるを得なくなる。要はポイントがどこにあるのか判然としないような受け答えに終始しているようにしか思われないのである。
同委員会はこの間の一次調査の結果で見つかった甲状腺がんを、感度の高い超音波検によって見出されたもので、従来言われている100万人に1人云々の発生確率が何らかの症状の発現やたまたま受けた健康診断による診断に基づいているのとは、確率的に飛躍的に高くなるのは当然である(スクリーニング効果)としている。これに対して記者会見の現場では、スクリーニング効果であると断定できる材料がないのではないかと、2人の記者から質問あったようだが、その後の委員会からの受け答えが何だかよく分からない。
すでに平成24年度に福島第一原発事故に起因する放射線被曝の及ばなかったと考えられている、青森・山梨・長崎の3県で対照検査が行われて、一次の結果としては福島の発生プロフィールと有意差がないと判断されている、つまりスクリーニングすれば福島と同様の結果になることが判明しているのである。その報告も同委員会のホームページに掲載されている。だからこの検査結果を示せばそれで足りるはずだが、どうしたものなのか。またこの3県の調査も継続して行われることになっていて、あくまでスクリーニング効果は現時点のものとしている。これはある意味科学的調査では当然のことで、科学的な判断というのは常に仮説的な部分が含まれるので、特に放射線被曝のようなデリケートなケースでは、継続調査は必須だろう。
それでも、なお3県調査の結果は、直接に放射線被曝による甲状腺がん発症を否定するものではない、という反論も勿論ありうる。この反論を仮に認めた場合福島のケースについてまずはどう推論を立てることが出来るのか。
色々な経路がありそうだが、スクリーニング効果はゼロですべて放射線被爆に起因する、とすると、元々の放射線被曝以外の原因(特定は完全には出来ていないようだが)については、その発生機序は完全に抑圧されて(ホルミシス効果??)、放射線被曝だけが支配するというような仮説に行きつきそうである。あるいはホルミシス効果なんてものはトンデモで到底認められないという立場もあり得そうだから、その時は現在までのところでは、福島では非放射線被曝原因と等価の放射線被爆による甲状腺がん発生が起きているという仮説が立てられよう。
いずれにしても、現在までのところがんそれ自体をいくら観察しても原因を突き止めることは出来ていないようだから、こうした仮説を立証するにはあらゆる英知を結集して当たる必要があることは言うまでもない。
ただ、放射線被曝原因説ではもっと難しい課題に立ち向かう必要が出てくる。というのは、なぜ被曝時0‐5歳レンジでは現在までのところ甲状腺がんが見つからず、ずっと放射線感度が低くなっている16-18歳をピークにそれが発見されるのか、というこれまでの放射線医学の知見を根底から覆すような事象をどう説明付けるのかという問題に突き当たるからである。
もちろん被験者一人ひとりのリアルタイムでの被曝線量が知られている訳ではないので、もしかすると何らかの機序により年齢選択的に被曝線量(正確にはヨウ素131の吸収量なのか)が異なるというような事態が起きていたのかもしれない。静止したコップの中の水が自然に外にあふれ出る確率も分子運動論的にはゼロではない。これはこれで、解明には大変な才知と労力を要するだろうが、先の問題も併せて必ずしやゴールに到達する有意の人々が現れると信じたい。
こうした課題についても同委員会はきちっと説明すべきではなかったのか
最後にもう一つ同委員会の挙措で釈然としないのが、チェルノブイリ後4年という決まり文句なのだ。要はチェルノブイリ事故発生時の幼児層に4年たってから甲状腺がんが多発するようになったから、これから本格調査しなければならないとしているわけだが、4年以降の多発というのは何らかの症状が出てその結果甲状腺がんの診断が下されたケースが多くを占めていて、笹川財団が超音波診断器を持ちこんで検診を行ったのはすでに発症者が多くで始めてからであり、その範囲も被曝対象者数の一部でしかない。もし事故直後から超音波検診を今回の福島のように進めれば、4年よりずっと以前に、たとえば0-5歳層に多数の甲状腺がんが見つかったであろうということ、この点について言及しているのかどうか、そこがよく見えないのである。仮定の話なのであまり強調は出来ないだろうが、福島では全くそのようになっていないのだから、このことも被曝原因否定論の根拠にしてもよさそうではないか。それを敢えてしないのは、何かそうすると大きな不都合を明るみに出さざるを得なくなることを恐れているからなのだろうか。
なんにせよ同委員会の信頼度と透明性には大きな疑問を抱かずにはいられないし、今後もその動向については、細大漏らさず監視していく必要があることは言うまでもない。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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