福島県の「帰還困難」地域住民が2万5000人

  政府は昨年暮れ、福島第一原発事故周辺の警戒区域を放射線量によって、①50㍉シーベルト以上を「帰還困難区域」②20~50㍉シーベルト未満を「居住制限区域」③20㍉シーベルト未満を「避難指示解除準備区域」に3分類した。このことは、12月28日付の当「メディアウオッチ」第182号で指摘した。この問題について、読売新聞1月8日付朝刊は、帰還まで5年以上かかると予想される「帰還困難区域」対象者は2万5000人に上ると特報した。福島県の関係11町村などを取材した結果、7市町村で高濃度汚染地域が確認されたことに、衝撃を受けた。

大熊町、双葉町は存続の危機

  文部科学省が12月11日までに警戒区域の約3000地点で、地上1㍍の空間放射線量や土壌汚染を調査したところ、約700地域で「50㍉シーベルト以上」を観測。福島原発に最も近い大熊町で1万人(人口の約9割)、双葉町では4800人(人口の約7割)が「帰還困難」となり、30㌔圏外の飯館村でも人口約1割強の約900人に上るというから大変な事態である。

 帰還見通しについて政府は「5年以上かかる」と説明しているものの、何年後になるかは誰も確約できまい。除染作業が遅々として進まないばかりか、回収した放射線物質の中間貯蔵施設も決まっていない現状では、「住み慣れた土地」に戻れない住民は、更に増えそうである。井戸川克隆・双葉町長は「仮の町を求めていかなければ…」と悲嘆に暮れており、新天地での定住を決断せざるを得ない局面に追い込まれてきたと、思わざるを得ない。

 野田佳彦首相は8日、佐藤雄平福島県知事訪ね、双葉郡内に「中間貯蔵施設」設置を再要望したが、前向きな返答は得られなかった。首相は「除染、賠償、住民の健康管理」の重点施策3点を強調したが、佐藤知事は逆に「冷温停止、事故収束宣言」に不快感を示すなど、打開の道が険しい印象がむしろ際立っていた。

      

「政府の言葉を信用しなくなった」現状を憂慮

 気鋭の評論家・東浩紀氏は「いま深刻な問題は、日本政府の言葉を日本人が信じられなくなったことです。政府は福島第一原発の冷温停止状態と事故収束を宣言しましたが、その言葉を信じている人がどのくらいいるでしょうか。政治家の言葉が軽くなると何も決まらなくなります。一時的なパニックを招いたとしても、政府は初期段階でメルトダウンを公表しておけばよかった。そうすればここまで信頼を失うこともなかった。初期段階で事故の規模を見誤った。意図的な情報操作もした。……日本政府は謝罪すべきだ」(毎日新聞1月6日付夕刊)と指摘しているが、その通りではないか。

  山口二郎・北大教授は「私たちは本当に多様な意見をぶつけ合っているだろうか。原子力ムラの実態は、重要な政策が一様な集団で壟断されていたことを教えた。多様な民主政治は、私たちの意志でこれから作り出すものである」(東京新聞1月8日付朝刊)と警告。日本政治を戦中・戦後貫通する「無責任の体系」からの脱皮こそ、新生・日本が目指すべき道であろう。

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