福島第1原発事故の原因の究明もしないで原発再稼働に突き進んでいいのか(4):(第2回)「原発再稼働を考える超党派の議員と市民の勉強会」報告

昨日夜、参議院議員会館にて「(第2回)原発再稼働を考える超党派の議員と市民の勉強会」が開催され、元原子力安全委員会事務局技術参与の滝谷絋一氏が、加圧水型(PWR)原子炉の再稼働審査に係る諸問題の解説をされました。また、それに続いて、フクロウの会の阪上武さんが、福島第1原発汚染水問題に関連して、現在進められている原発再稼働審査上の「手抜き」とも言うべき不備を指摘しています。

 

●【院内集会】4・10川内原発再稼働問題で議員と市民の勉強会 福島老朽原発を考える会 (フクロウの会)

http://fukurou.txt-nifty.com/fukurou/2014/04/4-ee5b.html

 

滝谷絋一氏の説明は、2014年4月1日付の私のメール「福島第1原発事故の原因の究明もしないで原発再稼働に突き進んでいいのか(3)」でご案内した岩波書店月刊誌『科学』(2014年3月号)に掲載された井野博満東京大学名誉教授と滝谷絋一氏の共著レポートに即したものでした。その『科学』掲載論文も再度、別添しておきます。

 

(1)新規制基準に関する適合性審査の問題点:PWR(滝谷絋一 2014.4.10)

(2)重大事故の拡大防止と汚染水(阪上武 2014.4.10)

(3)不確実さに満ちた過酷事故対策(井野博満・滝谷絋一:『科学 2014 3』)

 

当日は、社民党の福島みずほ議員、吉田忠智社民党党首、菅直人元首相、平野達男議員、山本太郎議員らが参集し、それぞれ発言をしていました。

 

1時間半程度の勉強会でしたが、非常に有意義で、かつ川内原発、玄海原発、伊方原発、泊原発など、原発再稼働審査の先頭を走る、いずれも加圧水型の原子炉が、福島第1原発のような沸騰水型原子炉とは違う特性と危険性を持ち、とても過酷事故を回避できるような安全設計・安全設備にはなっていないことが確認されました。既に、ずいぶん前から田中俊一委員長以下の原子力「寄生」委員会・「寄生」庁は、自分たちが行っている再稼働審査は、原発・核燃料施設の安全性を担保・確認するものではなく、あくまでも2013年7月に自分たちが決めた新「規制基準」なるものに適合しているか否かをチェックしているにすぎないとし、仮に自分たちの審査をパスしても、原発・核燃料施設は今後も過酷事故を起こしうると公言しています。つまり、原発・核燃料施設再稼働はもちろんのこと、原発の安全性に関しても、自分たちにその担保責任もチェック責任もないのだと、それは政府や立地自治体の判断と責任で決めてくれと、開き直っていると言っていいでしょう。

 

しかし、この加圧水型原子炉の危険性は、まだまだ原発立地自治体の住民には伝わっておりません。たとえば鹿児島・川内原発について、多くの地域住民の方々は「日本一、世界一安全な原発だから、真っ先に再稼働されるのでしょう」という受け止め方をしている人が多いと言います。これではいけません。あらゆる手を尽くして、この(三菱重工設計・製造の)加圧水型原子炉の危険性を立地自治体の方々や日本全国の有権者・国民に伝えていきましょう。

 

三菱重工設計・製造の加圧水型原子炉については、関西電力・美浜原発が1991年に蒸気発生器細管破断事故を起こして大量の放射能を海に垂れ流した他、2004年には定期点検の手抜きが原因と思われる冷却水配管の減肉破断事故を起こし、5名の作業員がなくなりました(他に重軽症者数名)。また最近では、下記サイトにあるように、アメリカ・カリフォルニア州・サンオノフレ原発(加圧水型原発)が、蒸気発生器や冷却水配管等の欠陥が理由で廃炉とされてしまい、これを設計・製造した三菱重工がサンオノフレ原発を運営する電力会社から巨額の損害賠償訴訟を提訴されるという事件も起きています。また、今から40年ほど前には、スリーマイル島の加圧水型原発が炉心溶融事故を起こして一大事となり、その後アメリカでの原発建設が止まってしまったという過去も思い出す必要があります。

 

これらの事故は、加圧水型原子炉の構造的な欠陥・弱点を示すものと言っていいでしょう。加圧水型原子炉は、冷却系が二次に分かれていて設備が複雑であることに加え、一次系から二次系へ熱を伝える蒸気発生器の配管が細くてもろく(細く=もろくしないと熱伝導の効率が極端に落ちる)、大きな地震や経年劣化に弱いと言われています。こうしたことは、ずいぶん前から指摘されてきたことですが、これまで原子力安全神話に胡坐をかいて、この加圧水型原子炉の欠陥に対して、ほとんど何の対策・対応もなされてきてはおりません。むしろ原子炉が老朽化することで、その危険性は益々高まっていると言っていいでしょう。

 

また、福島第1原発事故の教訓として、水素爆発防止の問題がありますが、驚くべきことに、加圧水型原子炉は沸騰水型に比べて格納容器が大きいので、水素爆発についてはほとんど心配はいらない、かのごとき言論が跋扈しており、沸騰水型原子炉のように格納容器に水素爆発防止のための窒素ガスを入れるというような基本的なことさえも、コストと手間暇を忌諱して手抜きしている有様です。そして、原発再稼働審査では、この手抜きが「モデル解析」だとか「シミュレーション」などの(実証性を持たない)「机上の空論」で合理化されています。しかし、事はまさにその逆で、格納容器が大きいということは、水素ガスの充満の規模もそれだけ大きくなり、従ってまた、それが爆発する際には、沸騰水型原子炉に比べて何倍もの威力で巨大爆発するということを意味しています。原発の危険性は、加圧水型の方が沸騰水型よりも、より危険で事故が巨大化する可能性が高いのです。

 

更に、昨今話題となり始めているコア・コンクリート反応による一酸化炭素の大量発生の問題(一酸化炭素は爆発性の気体であるとともに、人体に有害な毒ガスであるという危険性もあります=一酸化炭素が出てしまうと、作業員が危険にさらされる)、福島第1原発3号機の使用済み核燃料プールにおける核爆発の可能性の問題も未解決です。要するに、福島第1原発事故の原因究明がおざなりである、ということです。それでどうやって原発・核燃料施設の安全性を担保するのでしょうか。福島第1原発の過酷事故を経験し、未だ持って被害者が救済されずに棄民されているような状態で、嘘八百といい加減と無責任を積み重ねて原発・核燃料施設を再稼働することなど、許されるはずもないのです。

 

●【原発】「アメリカ」三菱重工に4000億円の賠償求める

http://blog.livedoor.jp/aokichanyon444/archives/54640603.html

 

●関電美浜発電所3号機二次系配管破損事故について (02-07-02-23) – ATOMICA –

http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=02-07-02-23

 

<参考1:田中一郎から滝谷絋一氏への質問>

1.資料の4枚目・左下「TMI-2事故では水素爆発で圧力パルスが発生」(NO.15)の図についてタービントリップの10時間後に格納容器圧力が一瞬だけ急上昇しているが、これは何か?

 

(滝谷絋一氏回答)⇒ 事故を起こしたスリーマイル島原発の格納容器内で局所的な水素爆発があったものと思われる。しかし、事故当時の同原発では、炉心溶融は50%程度であり、また圧力容器や格納容器は健全に保たれていたために大事には至らなかった(不幸中の幸い)。

 

(田中一郎 感想)⇒ スリーマイル島の原発事故では、水素爆発回避が最も重大かつ焦眉の問題として、事故対応にあたった科学者・技術者や規制当局を悩ませていたと聞いている。しかし実際には、格納容器の中で局所的・部分的な水素爆発があったというのは驚きである。つまり、同じことが、近い将来日本で事故を起こすであろう加圧水型原子炉で起きるということを意味している。

 

<注> タービントリップ

通常運転時には、発電機を回転させる蒸気タービンに蒸気が供給されていますが、原子炉を停止する場合や何らかの異常があった場合などには、蒸気を供給する配管に設けられている弁を閉鎖して発電を停止する。特に、異常時には弁が急閉鎖してプラントに大きな過渡が生じるため、運転時にはこの状態を模擬して問題なく原子炉が停止できることを確認する。((独)日本原子力研究開発機構)

 

2.資料の一番最後「重大事故対策の有効性評価の検証結果」(NO.21)の最後に「規制委員会は、大規模実証試験の公開実施を求めるべき」と書かれているが、ここで言う「大規模実証試験」とは、たとえばどのうようなことか?

 

(滝谷絋一氏回答)⇒ TMI-2原子炉で起きたような水素ガスの局所的爆発の実験や、炉心溶融時のコア・コンクリート反応を実際の規模の1/4~1/3くらいでやってみるなどの実証実験のこと

 

●炉心溶融時のコア・コンクリート反応(要するに溶けた灼熱の核燃料と原子炉格納容器のコンクリートでできた床や壁とが熱化学反応を引き起こすこと)

<畑のたより 虹屋’s blog 柏崎刈羽6、7号機でメルトスルーしたら 東電vs泉田知事⑫>

http://pub.ne.jp/hatakenotayori/?entry_id=5027527

 

3.昨今、コア・コンクリート反応で大量発生する一酸化炭素の危険性を指摘し、かつ福島第1原発3号機の爆発が1号機の水素爆発と異なる点を、この一酸化炭素の爆発で説明するレポートがあると聞いている。これについてどう思われるか?

 

(滝谷絋一氏回答)⇒ 岩波書店月刊誌『科学』の2014年3月号に論文が出ているので読んでみてください。また3号機の爆発の正体については、福島第1原発事故の原因究明ができていないからこそ、それが何だったのかがはっきりしていないと言えます。

 

<参考2:当日出席していた菅直人元首相の発言で、特記すべきことがありました。下記に略記しておきます>

 

1.(事故)原子炉の中の様子をうかがい知るためには必須の「水位計」が、温度が上がると狂ってしまうことが福島第1原発事故の教訓としてあります。これがその後どう改善されたのか、未確認のままです(これは水位計に限らず、圧力計その他の、いわゆる原子炉内計測機器類がすべて「耐震、耐圧、耐熱」などの頑強さを持っているかどうかの問題で、かねてより市民団体が大問題だと指摘してきている問題です:水位計に限らない)。

 

2.(NHKでも放送されましたが)事故直後の数日間、原子炉に大量に注水をしていた、その冷却水が、原子炉炉心へ向かわずに、複雑な経路を通って復水器(炉心から離れたところにある)の方へ流れ出てしまっていた。もしあの時注水した冷却水が炉心に全部届いていたら、2号機や3号機の原子炉の破壊はもう少し時間稼ぎができたかもしれない(ということは、電源確保等により大破損には至らなかった可能性が高くなる)。この非常時の冷却水の注入経路の問題はどうなっているのか、未確認のままではないか。

 

<参考3:当日出席していた平野達男議員からの発言>

福島第1原発事故で避難された方々に何が起きたか、何が起きているか、について、きちんと調査し総括したものが存在しない。政府は福島第1原発事故に関する避難者・被害者の問題の総括ができていない。(全くその通りだが、平野達男氏自身が福島の復興担当大臣だったわけで、何故、その職にある間に自分自身でしなかったのかという大問題があります)

記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion4808:140412〕