福島第1原発事故時の民主党政治家を責める前に,東京電力,原子炉メーカー,原子力安全委員会と原子力ムラ御用学者,原子力安全保安院,経済産業省の委員,御用学者や官僚どもの責任を問え

昨今発売された下記新刊書(下記(1))の最後の部分には,2011年3月11日

に起きた東日本大震災が契機となった福島第1原発事故の現場の様子を,3月16日以降,すなわち,1~4号機がそれぞれ爆発した後の(但し,2号機格納容器(サプレッション・チェンバー(SC)付近)が本当に爆発・破損したかどうかは???),3月16日,17日頃の,東京・東京電力本店における「政府・東京電力事故対策統合本部」の民主党幹部政治家達と,事故対応にあたる福島第1原発現場,及び東京電力本部の実務スタッフとの間でおきていた,「どの対策を優先して実施するのか」をめぐる混乱の話である。

 

(1)福島第一原発事故7つの謎-NHKスペシャル『メルトダウン』取材班/著(講談社現代新書 2015年1月)

http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033203896&Action_id=121&Sza_id=C0

 

(2)メルトダウン連鎖の真相-NHKスペシャル『メルトダウン』取材班/著 (講談社 2013年6月)

http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032938010&Action_id=121&Sza_id=E1

 

具体的には,福島第1原発の吉田所長以下現場や東京電力の技術系スタッフたちが,各号機の使用済み核燃料プールの水はあることがほぼ確実なので,まず,電源の復旧を最優先にしたいと,作業班まで編成して,この工事に着手しようとしていたのに対して,統合本部の民主党政治家達がそれにストップをかけ,まず,3,4号機の使用済み核燃料プールに,自衛隊のヘリコプター使って水を散布注入し,その後,警察及び消防庁による放水車による使用済み核燃料プールへの注水を繰り返して,各号機の使用済み核燃料プールが冷却水不足で冷却不能となって核燃料がメルトダウンしないよう,万全を期すべきだと,横やりを権力的に入れてしまった,ということである(結局,この使用済み核燃料プールへの,空と陸上からの注水は全く効果がなく,時間の無駄に終わっている:当時,TVで放送される映像を見ていた私には,やる前から分かっていたように思われた=アリバイ行為?? そして,ついに打つ手がなくなったのか,と思った)。

 

この本では,この間のいきさつを取材結果に基づいて少し詳しく説明した後,この件に関して次のように結論を締めくくっている。

 

(一部抜粋)

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(中略)こうした結果を見る限り、官邸主導による放水車やヘリコプターによる核燃料プールに対する散水作業は、米国や日本国民に対するデモンストレーシヨン以上の効果は事実上ゼロに近かった。放射性物質の飛散を食い止めるという最も優先すべき課題は先送りされ、結果として被害を拡大させたことは否定できないであろう。

 

しかし、官邸が主導権を発揮しようと決意した背景には、それ相応の理由もあった。菅直人総理、枝野幸男官房長官をはじめとする官邸の政治家たちには、困難を極めた現場のオペレーションの実態がほとんど伝わらず、彼らは東京電力の能力を疑っていた。必ず実行するというベントは遅れに遅れ、1号機、3号機、4号機が次々に水素爆発していく展開に官邸スタッフは苛立ちを強め、「福島第一原発作業員が事故の収拾作業を放棄し、全面撤退する」という「誤解」で、その怒りは頂点に達する。その結果が東京電力に設置された統合本部であった。

 

ベントの遅れや原子炉建屋の爆発が起きたのには、必然的な理由があったが、東京電力には、いきり立つ政治家を冷静にさせる説明能力を持つものがいなかった。不幸なことに、官邸に専門的なアドバイスをする立場の斑目春樹原子力安全委員会委員長、そして経産省の原子力安全・保安院の官僚たちも、適切な助言ができなかった。

 

しかしながら、いかなる事情があったにせよ、高度な専門知識がない政治家たちが、現場の技術者の意見に十分に耳を傾けることなく、事故対策の主導権をとることにどのよう影響があったのか、さらに検証すべきではないだろうか。福島第一原発の技術者たちが懐疑的だった放水作業を優先させ、電源復旧が遅れた結果、被害が拡大した可能性もある。これは、放射性物質の飛散状況の解析結果から導き出される答えである。

 

鹿児島県の川内原発の再稼働が射程距離に入ってきたいま、政府や原子力規制委員会は、万全な危機管理体制を構築したと本当にいえるのだろうか。

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上記の短い文章の中にも,ひっかかるところ(???と思うところ)がいくつかあるが(例:3号機は水素爆発なのか? 「ベントの遅れや原子炉建屋の爆発が起きたのには、必然的な理由があった」はどうかな?),それは今回の議論の主旨からはずれるので,とりあえず捨象して,本題の「原発ドシロウト民主党政治家による非常時での現場無視の横やり=横暴=権力濫用が,福島第1原発事故をより深刻なものにしてしまった」論について,若干,申し上げたい。簡潔に結論だけを箇条書きとする。

 

1.上記文章の中にも若干書かれているが,そもそも事故直後から,東京電力が首相官邸に対して,まともな情報をほとんど入れていない。菅直人首相他,民主党幹部の多くは,東京電力がTV会議で本部と現場とがやりとりをしているということについても,かなり遅くまで知らなかったのではないか。また,本来であれば,こうした原発ドシロウト民主党政治家たちの周りにいて,それを補佐すべき原子炉工学の専門家その他の科学者・技術者・理系官僚達が,全くと言っていいほど,首相官邸の政治家達を補佐し,サポートしていなかった。原子力安全保安院の寺坂信昭院長などは,僕は文系ですから,などと言って,そそくさと首相官邸から退去してしまい,その後のフォローも何もしていない様子だ。

 

この結果,菅直人首相をはじめ,民主党政治家達には福島第1原発事故の現場情報が全く入らなくなって,現場がどうなっているか,何をどう手を打っていいか,全く分からなくなって,ただ,事態がどんどん悪くなっていく結果だけが伝えられる状態が続いていたのではなかったのか。こういう状態で,堪忍袋の緒が切れた菅直人首相が,福島第1原発の現場に乗り込んで行くのは,私は当然であり,また,致し方なかっただろうと思う。しかも,その後も,この「なしのつぶて」状態はずっと続き,結局,東京電力や原子力安全委員会や原子力安全保安院は全く信用できない,ということになったのではないか?

 

だとすれば,責めるべきは,民主党政治家よりも,まず真っ先に,東京電力幹部(及びその背後にいる原子炉メーカー),原子力安全委員会の委員たち,そして経済産業省,及び原子力安全保安院ではないか。菅直人の事故直後の,やや乱暴とも言える行動パターンは,一部の人達がやっている「ためにする批判」ではなく,むしろ評価すべきではないかと,私は思う。何故なら,菅直人首相があのように乱暴にしなかったら,東京サイドは首相官邸も東京電力本社も「総無責任」状態となり事態はもっとひどくなっていたように思われるからだ。

 

2.しかし,民主党の政治家にも色々と問題があった。私は,NHK著のこの本が言うようなことよりも,次の3点を強調したいと思う。

 

(1)菅直人首相をはじめ,民主党の幹部達は,早い段階で,東京電力(及びその背後にいる原子炉メーカー),原子力安全委員会,原子力安全保安院,経済産業省などの連中が,まったくアテにならないことを悟ったはずである。ならば,それに代替する人的体制をどうしようとしたのか?

私の印象では,この「危機管理体制」の事故発生直後の抜本的な立て直しを少しでも考えたのは,菅直人首相しかいないのではなかったか,という印象を受ける。つまり,民主党の幹部政治家達は,次々と起きる事態の連鎖にウロウロするばかりで,何の有効な「政治家としての使命」も果たすことができなかったバカばかりだったということだ。海江田万里経済産業相などはその典型だ。

 

(2)菅直人首相以下,民主党の政治家達が,3,4号機の使用済み核燃料プール(特に4号機)の危険性にこだわった最大の理由は,アメリカ=在日米軍からのコメントだったと思われる。当時,アメリカは4号機の使用済み核燃料プールの水がなくなり,まもなく燃えだして大変な事態になると予測し,自国関係者を80km圏外へ出るよう指示していた。そして返す刀で,日本側に対して,福島第1原発の使用済み核燃料プールを,まず真っ先に何とかしろ,と強力・強行に申し入れしてきていたはずである。既存の原発関係スタッフに対する信頼を喪失していた当時の民主党政権の幹部達は,この話に飛びついたに違いない。少なくとも,アメリカに対して,事実確認に基づいて,きちんと説明・反論できるような人間は,日本政府の中にはいなかった=そんな官僚は皆無だった,ということだ。この段階で,日本の原子力ムラは,トータルで無能と無責任の悪人たちの集合体であることが明らかとなったのだ。

 

(3)菅直人首相他,民主党幹部政治家達の最大の責任は,①住民の避難対応が全くの出鱈目で,多量の被ばくをさせた上に,事故後の賠償・補償の足切り・削減を念頭に入れたような避難区域区分まで持ち出して,被害者住民を翻弄し,最後は,加害者・東京電力を救済しながら,被害者・地域住民を切り捨てる「原子力損害賠償支援機構法」という,背信的なスキームを創り上げたことである。そして,②放射線被曝の防護についても,放射線安全神話構築を始めるなど,福島第1原発事故後の対応・対策が,出鱈目を極めたことである。これはどのように弁明・言い訳しようとも,絶対に許されない。菅直人首相も含めて,許されないのだ,ということを強調しておく。

 

3.それで,なお,次の3点を申し上げておかなければならない。特に,政権が自民党・安倍晋三政権となって以降は,目を覆いたくなるような状態で,このままでは,おそらく,再びの原発・核燃料施設過酷事故の際には,福島第1原発事故の時よりも一層悲惨なことになってしまいそうな雰囲気である。日本政府の原発・核燃料施設に関する危機管理体制は,今持って全然だめで,かつ,おそらくは民主党政権時よりもひどい(地域住民が切り捨てられるという意味で「ひどい」)に違いない。

 

(1)あの信用できないことが明らかとなった,東京電力(その背後にいる原子炉メーカー),原子力規制委員会・規制庁(旧原子力安全委員会と原子力ムラ御用学者,原子力安全保安院),経済産業省,文部科学省,及びそれらの関連組織などが=原子力ムラ総連合が,ほぼ完全に復活し,福島第1原発事故のことも忘れて,堂々,ぬけぬけと,やりたい放題を始めている。福島第1原発事故の実態解明や原因究明を棚上げにした新規制基準など,原発・核燃料施設の安全確保のためにはクソの役にも立たないことも,ほぼ明らかとなった。このままでは,近未来に日本の破滅がやってくることになる。

 

(2)福島第1原発の二次被害防止対策も,全国の原発・核燃料施設の使用済み核燃料プールの安全対策も,何も手がつけられていない。原発・核燃料施設が再稼働しなくても,核燃料は過酷事故を招く可能性があり,破滅的な危険性は放置されたままだ。

 

(3)原子力規制委員会が「安全は保障しない」と明言している原発・核燃料施設を,原発・原子力に関して民主党幹部政治家以上に,おバカで,不勉強で,間抜けの安倍晋三・自民党政権幹部政治家達は,「世界一厳しい規制基準」などと大ウソをついて,多くの有権者・国民・市民が反対している世論を無視して,再稼働を強行しようとしている。ドシロウトの政治家が再稼働の判断を,原子力ムラの原子力専門家(似非だけれど)の言うことを無視して,勝手に権力濫用をしようとしているのである。現状における事態は,NHKが本書で警告しているレベルどころの話ではなくなっている。

 

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上記にご紹介した,いずれもNHK著作の2冊の本は,批判的にご覧になる限りでご推薦できる良書だ。多くの市販文献があるけれど,具体的な形で福島第1原発事故を考えられるのは,この2冊の他には心当たりがない。しかし,その内容は「批判的に読む必要性」を申し上げているように,問題が多いように思う。

 

政府事故調の言うことや,東京電力,あるいは原子力ムラの怪しげな科学者・技術者の言うがままをそのまま信じ込んでいたりしていて,どうも危ない感じがしてならない。この2冊を読んですぐわかるのは,少なくとも,原発・原子力に批判的な人達が福島第1原発事故の実態や原因について語っていることを全く取材していない=耳に目に入っていない,という点だ。これでは,福島第1原発事故の「相対化」(突き放して物事を考える基礎条件)ができておらず,おそらくは真相に近づくことはできないばかりか,下手をすると,福島第1原発事故の原因をつくった原子力ムラの連中に,うまく丸めこまれて,でっち上げの,虚構の,福島第1原発事故を描いてしまうことになりかねない。

 

(たとえば,主蒸気逃げ愛安全弁(SRV)が各号機とも正常に動いていたかのごとき認識=特に1号機,あるいは,水位計には問題がなかったかのごとき認識,あるいは,非常用復水器(IC)や高圧注水系(HPCI)の配管等には問題がなかったかのごとき認識,あるいは3号機の爆発と1号機の爆発の違いについての問題意識が希薄等)

 

巷では,吉田昌郎元福島第1原発所長を,福島第1原発の危機を救った「英雄」であるかのごとく書きたて,言いつのる人たちが少なからず現れ,事実究明をそっちのけにして,不毛な言い争いを始めている様子もうかがえる。しかし,実際問題,NHKの放送・報道姿勢も,どちらかというと原子力ムラ権力に対して妥協的であり,あるいは追従的で,この本の中でも,たとえば東京電力の原子力部門の技術系トップの武藤栄副社長を,原発のことは最もよく理解していて,事故当時も冷静・適切に判断をしていたなどという,ずいぶんと持ち上げた書き方をしている。福島第1原発事故の実態に迫るため,東京電力幹部や現場作業員を含む原子力ムラの人たちに「入り込み」「刺さり込む」ことなくしては,いい取材ができないので,あえてウソでもいいから「持ち上げて」おいて,情報収集を図る,という面もあるのかもしれないが,それにしては「やりすぎ」の観が強い。

 

故に,上記2冊は,原発・原子力に批判的な科学者や技術者の主張にもしっかりと耳を傾けて,それと比較考量しながら,仮説として厳しい批判の目を持ちながら読んで行って,少しずつ福島第1原発事故の実態の全体操をつかまえていけばいいのではないかと思う次第である。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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