みなさまご承知の通り、1カ月ほど前に朝日新聞が、故吉田昌郎福島第1原発所長に対する政府事故調のヒヤリング結果(「吉田調書」)をスクープして報道しましたが、下記はその報道の一部で、福島第1原発事故当時に危機的状況に陥った3号機の話です(下記「広報などは知りません(住民は避難できるか)」)。なお、この「吉田調書」に関する報道は、新聞記事とネットサイトで内容が異なっていて、ネットサイトの方は、朝日新聞の無料ネット会員になることで誰でも見ることができます。皆様にもご一読をお勧めいたします。
● 広報などは知りません(住民は避難できるか)
http://digital.asahi.com/special/yoshida_report/2-2m.html
● 吉田調書(福島原発事故 吉田昌郎所長が語ったもの)
http://www.asahi.com/special/yoshida_report/
書かれている話のストーリーは簡単なもので、危機的状況に陥った3号機について、ウェットベントがうまくいかないので、やむなくドライベントの準備を始めたところ、原子力安全保安院から「3号機の危機的状況のプレス発表等をするな、事態は伏せておけ、ドライベントが成功して原子炉内の圧力が下がり(従ってまた格納容器内の圧力も下がり)、冷却水が注入できるようになって、人間がこの3号機という事故原子炉をコントロールできている状態下にある段階でプレス発表する」という指示があったというものだ。国民を無用の不安に陥れてはならないから、情報発信はコントロールするというものだった(しかし、実際には、その後まもなく、NHKが3号機の危機的状況や作業員の撤退などを、それとは知らずに報道してしまった)。
念のために、言葉解説をしておくと、ベントとは、原発が事故を起こし、原子炉圧力容器内や格納容器内で水蒸気などの気体が大量に発生して圧力が上がり、放置すると、その圧力で圧力容器や格納容器を破壊してしまいかねなくなったとき、内部の気体を外部に放出して圧力を下げ、圧力容器や格納容器を破壊から防ぐことを言う。
ウェットベントとは、原子炉圧力容器内の水蒸気などの放射能含みの気体をSC(圧力抑制室:サプレッションチェンバー=フラスコ型の沸騰水型原発の下部にあるドーナツ型の設備で、中には水が入れてある)を通じて原子炉の外に放出すること。SC内の水のプールを通すので、ある程度、放射能が水に溶けて除去されて環境に出てくるので、放射能汚染の度合いはその分低くてすむ。今般、新規制基準で沸騰水型原子炉に設置が義務付けられた「フィルター付きベント装置」の「フィルター」とは、SCとは別にもう一つの「水のプール」を設置して、そこを通してベントができるようにせよ、ということだ。しかし、原子炉内の放射能を含む気体は猛烈に放射能を含んでおり、水のプールを通すくらいでは放射能を除去しきれない(たとえば放射性キセノンなどの不活性ガスは全量出てしまう)。
ドライベントとは、原子炉圧力容器内の水蒸気などの放射能含みの気体を、そのまま環境に放出するという排気の方法のこと。原子炉内の猛烈な放射能が周辺環境にばら撒かれてしまう。こんなものを認めてまで、何故に原子炉で電気をつくらなければならないのか。
さて、それで、この記事及び新聞報道等によると
1号機=ウェットベントのみTRYして成功(原子炉は助かったが建屋が水素爆発)
3号機=ウェットベントは失敗したのでドライベントに挑戦し成功した ⇒ 今回の記事は、これについて原子力安全保安院の隠蔽方針・指示命令を問題にしている2号機=ウェットベントもドライベントも成功せず、3/15早朝に原発下部のSC付近で爆発して格納容器に穴が開いた。
上記でお分かりの通り、ドライベントをするのであれば、原発からは原子炉内の猛烈な放射能があたり一帯に放出され危険な状態になるわけですから、かなり広範囲の原発周辺住民に対して「ドライベントをやりますよ、風向きによっては放射能が飛んでいきますよ、安定ヨウ素剤を飲んでください」くらいの連絡・広報は絶対にしなければならないはず。そうしないと、地域住民はそれとは知らずに野外にいて無用に大量被ばくをしてしまうことになる。
それを原子力安全保安院が、不安をあおるからという理由で、3号機の危機的状況も含めて、ドライベントをする予定でいることなど全てを隠蔽せよ、プレス発表するな、と指示して隠してしまった、それがとんでもないことではないのかと、この記事は告発している。まさに、とんでもないこと、である。
しかし、私はこの記事読んで、なんだか「怪しい」と思ったことがいくつかある。
(1)吉田昌郎所長がこのドライベントの危険性を知らないはずはなく、住民への広報の必要性は感じていたはずだが、ドライベントを準備した時には、それについてノーコメントの態度をとったのではないのか。つまり、この吉田もまた、同じ穴のムジナであって、住民の危険性のことなど二の次の次だったに違いない。だから「広報などは知りません」などとすっとボケているのではないのか。
(2)記事を読むと、福島県庁が保安院の暴挙に反旗を翻したと書かれている。怪しい限りである。反旗だったのか、それとも旗本の旗だったのかは不明だ。
(3)原子力安全保安院も、どこまで本気で覚悟を決めて報道管制を敷こうとしたのかはわからない。だからNHKがそれとは知らずに報道してしまっている。ひょっとすると、原子力安全保安院は、東京電力本店や福島第1原発にいる人間たちに対してだけ、口先で情報の隠ぺいを「押し付け説教」していたのではないのか。そうだとしたら、この原子力安全保安院という「ホアンインゼンインアホ」(右から読んでいただいてもいいです)の組織は、ロクでもなことをする場合にも中途半端で無責任ということになる(報道管制を敷くのなら、もっと厳格・厳密なやり方があるだろう)。
(4)3号機は、その後どうなったのかがよくわからない。高圧注水系(HPCI)を作業員が人為的に止めてしまったというが、それは同系の配管から冷却水が大量に漏れてしまわないための「防衛措置」だったのではないのか、3号機のECCSは事故時にはどうなっていたのか、きちんと稼働したのか、役に立てたのか、ドライベントは成功したのか、3/14に爆発したが、あれはほんとうに水素爆発なのか、それでその後原子炉はどうなったのか、などなど、わからないことだらけである。
(5)また、3号機については、ウェットベントがうまくいかなかったという。それは何故なのか。どこに問題があったのか。
(6)2号機についても同様だ。2号機はウェットもドライも両方ともベントが成功せず、SC付近の水素爆発で格納容器に穴があいて、それで原子炉の圧力が下がったというのだが、信用できない。まず、水素は軽い気体だからそんな原発施設の下部の方には集まらない。また、爆発して穴が開いたのは格納容器だから、原子炉圧力容器は核燃料のメルトダウン・メルトスルーがあるまでは無事のはず。結局、圧力容器内の高圧は続き、圧力容器が吹っ飛ぶリスクは継続していたはずだが、3/15早朝の爆発によって圧力容器の圧力は大気圧と同じになったという。何かおかしい。実は住民のことなどお構いなしに秘密裏にやったドライベントが成功していて、それにメルトスルーが追いかけただけではないのか。だとすると、猛烈な放射能があたり一帯に放出されたとしても不思議ではない。(2号機の爆発はウソ???)
どうも、何かが隠されているような気がしてならない。たとえば、ドライベントの危険性と、それを無視して、住民の被ばくのことなど微塵も配慮せずに、ドライベントを強行したこと、あるいは、3号機の爆発が水素爆発ではなかったこと、あるいは、原発の高圧注水系(HPCI)や非常用復水器(IC)を含むECCSが、ほんとうは予定されているようには機能しないこと、SCもまた同様に、予定されているようには機能せず、ウェットベントができなくなってしまったこと、などなどである。真相はどこにあるのだろうか。
<追>飯館村の菅野村長が変だ
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下記は本日付でマスコミ報道されているようです。私には飯館村の菅野村長が何を言いたかったのか、よくわからない。隣町や自村内のある地区の被害者が、苦労の上にこぎつけた東京電力との賠償問題ADRの和解についてクレームを付けているようだが、何が不満で抗議したのだろうか?
下記の河北新報などを見る限りでは、東京電力が和解した案では賠償金額が高すぎるとして抗議しているような印象を受ける。もしそうなら、信じがたい村長だということになるが、どうなのだろうか?
●<東日本大震災>福島第1原発事故 「誤解与えた」飯舘村長謝罪 原発ADR和解抗議で川俣・山木屋地区住民に /福島(毎日新聞) – gooニュース
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi_region/region/mainichi_region-20140624ddlk07040255000c.html
(一部抜粋)
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川俣町山木屋地区の住民が帰還困難区域と同等の財物賠償の内容で和解したことに抗議する要求書を、飯舘村が東京電力に提出していた問題で、同村の菅野典雄村長は23日、川俣町の仮設住宅を訪れ、「誤解を与える内容で申し訳ない」と陳謝した。
飯舘村と隣接する山木屋地区の住民は、原発事故で避難指示解除準備と居住制限の両区域に再編された。だが、除染やインフラ復旧が進まず長期避難が見込まれるため、国の原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介手続き(原発ADR)で、帰還困難区域と同等(全損扱い)の賠償内容で今年3月に和解した。
さらに、同3月に飯舘村蕨平地区の住民にも帰還困難区域並みの和解案が出ており、同村は東電に「解除時期に応じた賠償を順守すべきだ」「村民に大きな衝撃と不安を与えた」とする要求書を提出した。これを知った飯舘・山木屋の両住民の反発を受け、菅野村長が撤回した。
この日集まった山木屋の住民からは「住民側に立ち、適切に賠償されるよう要望するのではなく、抗議するのはおかしい」「住民と東電との関係に行政が口を挟むべきではない」などの声が出て、菅野村長は「誤解を与えたのは本意でなく申し訳ない」と陳謝し、「山木屋の和解案に異議を申し立てるつもりはなかった。要求書は区域の線引きによる賠償との違いを確認する趣旨だった」と釈明した。ADRを申し立てた住民グループ「やまきや未来の会」の菅野幸三会長(82)は「住民の生命や財産を守る立場で首長は訴えてもらいたかった。納得できる説明ではない」と話し、文書での謝罪を要求した。
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● 飯舘村長、蕨平住民に謝罪 原発事故賠償ADRと村要求食い違い 河北新報オンラインニュース
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201406/20140603_61030.html
●「誤解与えた」飯舘村長謝罪 和解案で修正要求書提出へ(福島民友ニュース)
http://www.minyu-net.com/news/news/0518/news2.html