大小さまざまなニュースが世界を駆け巡った2012年も間もなく暮れる。歳末恒例により、筆者の私的関心から今年の国際10大ニュースを選んでみた。
1) オバマ米大統領再選
2) 中国・習近平体制発足
3) 主要国の指導者交代(プーチン・ロシア、オランド仏大統領、安倍首相)
4) シリア内戦泥沼化
5) 北朝鮮が長距離ミサイル発射
6) EU債務危機、ユーロ圏不況
7) イラン核開発に欧米が制裁
8) 韓国に初の女性大統領
9) エジプトにイスラム派大統領
10) ミャンマーの民主化進む
今年の世界での最大関心事はやはり、衰え始めたとはいえ「唯一の超大国」アメリカの大統領選挙でオバマ大統領の再選が成るかどうかだった。11月6日全米で行われた投票の結果、共和党のロムニー候補を破って民主党オバマ候補が再選された。一般投票では51%対48%の僅差だったが、獲得選挙人の数では接戦州7州で全勝したオバマ氏が332人対206人で圧勝した。アメリカの政治風土は今年の大統領選を機に、リベラルな民主党と「小さな政府」を求める保守の共和党との分裂がさらに激化した。その後遺症は問題の「財政の崖」をめぐる政治不全に持ち越された。衰えつつある超大国が国内の分裂でよろめく(例えば米経済が失速する)と、世界全体は動揺するのである。
アメリカに次ぐ世界第2の経済大国となった中国では、11月の共産党大会で“太子党”習近平氏が共産党トップの総書記と中央軍事委員会主席に就任した。同氏は来年3月の全国人民代表大会(国会)で国家主席に就く予定で、党と軍と政府の全権を握ることになる。習氏は今後10年間の在任中に、中国がアメリカを抜いて世界一の経済大国を目指すという歴史的役回りを担う。習総書記は党大会後に中国が「海洋強国」を目指すと宣言、日本との尖閣諸島やベトナム、フィリピンなどとの南シナ海の南沙(スプラトリー)、西沙(パラセル)諸島の領有権争いをめぐり、強硬姿勢を打ち出した。経済大国化と並行して中国が覇権国家の道を歩み始めた今、中国の命運を握る習氏に世界の注目が集まっている。
3月のロシア大統領選挙では予想通りプーチン大統領が復活した。周知のように2000年から2期8年大統領を務めたプーチン氏は、3選禁止の憲法に従って08年に盟友のメドベージェフ首相に大統領の座を譲り(08年大統領選挙でプーチン与党「統一ロシア」のメドジェーエフ候補が当選)、自分は首相を務めるという“政治的軽業”を演じた。“軽業”の続きで今度は任期6年(再選可)に改定された大統領に就任、首相にメドベージェフ氏をたらい回し任命した。しかし中産階級が増えたロシアでは、こうしたプーチン独裁体制に対する反発も強まり、昨年末の下院選挙で「統一ロシア」が苦戦したし、大統領選でもプーチン氏の得票率は低下した。極東・アジア進出に関心を持つプーチン政権の今後は、日本としても見逃せない。
欧州の中心に位置するフランスの動向はやはり世界の関心事だ。アメリカ流のネオ・リベラル路線に傾斜していた保守派サルコジ前大統領は、4-5月の大統領選で社会党のオランド氏に敗れた。フランス社会党は、資本主義の悪弊を正すために生まれた欧州社会民主主義の「嫡子」である。17年ぶりの社会党政権は富裕層への増税、原発依存の軽減などの公約を実行に移しているが保守側からの抵抗は強く、政権発足当時のオランド人気は下降気味だ。一方、年末ぎりぎりに登場した安倍内閣に対して海外メディアの多くは「日本の右傾化」に警鐘を鳴らし、日中対立の激化を危惧している。
チュニジア、エジプト、リビア、イエメンなどの長期独裁政権を、民主化を求める民衆の街頭行動で倒した「アラブの春」は2011年3月シリアにも波及。しかしバース党に支えられたアサド大統領の長期政権は民衆の反政府行動を武力弾圧。カタール、サウジアラビア、トルコなどに支援された反政府各派は、首都ダマスカスなど各地で武装反乱を起こし本格的内戦に拡大した。この1年9カ月で死者は4万4千人、国外に逃れた難民は50万人を超えた。欧米諸国とアラブのイスラム教スンニ派諸国が反政府派を支援、シーア派政府のイラン、イラクと中露がアサド政権を支える構図になっているが、最近ロシアの姿勢が微妙に変化しつつある。停戦実現とアサド退陣のメドは立っておらず、内戦はまだ長引くかもしれない。
北朝鮮の「金王朝」3代目を世襲した金正恩第1書記は、亡父金正日総書記の一周忌を前にした12月12日、長距離ミサイル発射に成功した。北朝鮮はさる4月にも人工衛星を打ち上げると予告し、打ち上げを取材させるとして外国報道陣を発射場に招いたが、結果としてミサイル発射は失敗して面目を失った。12月の発射はこれを挽回したもので、北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)づくりに一歩を進めた。北朝鮮は、核の完全放棄を約束した6カ国共同声明(2005年9月)を事実上破棄して、運搬手段を持った核保有国を目指すことを誇示しているわけだ。
ギリシャの財政危機が発端となったユーロ危機は、昨年から今年にかけてポルトガル、イタリア、スペインなどの財政破綻を誘発し、各国は国民の不満を押し切って厳しい財政緊縮政策を進めた。その一方、マリオ・ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁は今年9月、財政危機国の改革と引き換えに当該国の国債をECBが無制限に買い支える方針を打ち出した。これで国債市場は落ち着きを取り戻し、ユーロ危機は息をついた。しかし各国の財政緊縮策により実体経済が深刻な打撃を受け、ユーロ圏が景気後退に陥ったことが引き続き世界経済を冷やす要因になっている。
イランは核兵器開発疑惑を全面的に否定する一方で、アイソトープ製造用原子炉の燃料として濃縮度を20%程度に高めたウランの製造を続けている。米国を始め西側諸国は、これが核兵器製造につながるとして、イランに対する経済制裁を強化してきた。特に今年7月からEU諸国がイラン産原油の輸入を禁止する制裁強化に踏み切り、このあおりでイラン通貨のリアルは大暴落し、インフレが高進した。しかしイラン政府は、あくまで「平和利用のためのウラン濃縮」を続ける方針だ。イランを敵視するイスラエルは、イランの核施設を破壊するための空爆作戦を実行すると脅している。
5年ごとに行われる韓国大統領選挙は12月19日に投票が行われ、大接戦の末、保守与党セヌリ党のパク・クネ(朴菫恵)候補が野党民主統合党のムン・ジェイン(文在寅)に競り勝った。パク氏は来年2月25日、韓国史上初の女性大統領に就任する。儒教思想の影響で「男尊女卑」の風潮が濃い韓国で女性のトップが登場したことは画期的だ。大企業優遇の現政権下で広がった格差の是正を目指す「経済民主化」と、核保有国を自称する北朝鮮との対話をどう実現するかがパク大統領の課題だ。
「アラブの春」最大の眼目となったエジプトでは、ムバラク前大統領の独裁体制が崩壊した後も前政権を支えた軍部や司法界が抵抗を続けたが、昨年11月の人民議会選挙と今年6月の大統領選挙でイスラム主義勢力が勝利して、新体制がスタートした。長年弾圧されてきたイスラム主義の「ムスリム同胞団」出身のムルシ氏が6月、新体制初の大統領に当選した。ムルシ大統領が用意した新憲法草案はイスラム色が濃すぎるとして、世俗派やリベラル派、旧体制派が反発して大規模デモを起こしたが、12月の国民投票で承認された。
ミャンマー民主化を象徴するアウン・サン・スー・チーさん(国民民主連盟=NLD党首)が、同志とともに4月の補欠選挙で下院議員に当選、晴れて国政に参加することになった。スー・チーさんは、21年ぶりのノーベル平和賞受賞演説を果たすためのオスロ訪問など欧州諸国歴訪や訪米旅行を実現、温かい歓迎を受けた。また再選を果たしたばかりのオバマ大統領が11月にミャンマーを訪問、米国は禁輸など軍政時代の対ミャンマー制裁を解除した。軍政下で制定された軍部優位の憲法下ではあるが、軍服を脱いだテイン・セイン大統領とスー・チーさんの「蜜月」が続く限り、ミャンマーの民主化は進みそうだ。
以上、2012年の国際情勢を回顧すると、オバマ再選、韓国初の女性大統領、ミャンマー民主化など明るいニュースもあったものの、冷戦終結後21年を数えた今年の世界を表現する言葉としては「混沌」の2字が当てはまりそうだ。ニューヨーク地下鉄を数日間麻痺させた大型ハリケーン「サンディ」による被害はあったものの、昨年の東日本大震災・大津波のような大天災が起きなかったことを喜ぶべきだろう。最後に番外として、ロンドン・オリンピックとパラリンピックの成功を挙げておきたい。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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