科学史・技術史の研究者有志が「改憲反対」声明 -世界平和アピール七人委のアピールに呼応して-

著者: 岩垂 弘 いわだれひろし : ジャーナリスト
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 科学史・技術史の研究者の集まりである「日本科学史学会」の会員有志12人が7月9日、「日本国憲法の基本理念を否定する改定に反対する」と題する声明を発表した。6月28日に発表された「世界平和アピール七人委員会」のアピール「日本国憲法の基本的理念を否定する改定の動きに反対する」(6月29日付の当ブロクで紹介)に呼応したもので、声明は「同アピールの視点と趣旨を全面的に支持する」と述べている。学者・研究者の間に広がりつつある「改憲反対」の動きの一つとして注目される。

日本科学史学会は「科学史および技術史の研究の進歩と普及をはかることを目的」(会則)とする学会で、1941年に設立された。会員によると、会員は昨年9月現在で約740人。大学教員、大学院生、高校教員、企業勤務者が多いという。

 今回の声明をまとめたのは同学会の会員有志12人(市川浩、内田正夫、粕谷雅子、瀬川嘉之、高橋信一、高橋智子、高山進、中村邦光、日野川静枝、兵藤友博、山崎正勝、渡辺弘の各氏)。12人が立ち上げたホームページによると、世界平和アピール七人委員会のアピールに全面的に賛同した12人が七人委員会のアピールを受ける形で声明を出すことにし、12人が呼びかけ人となってメールで日本科学史学会の会員に声明への賛同を求めたという。
 12氏によると、7月11日現在、賛同者は100人を超える。これには日本科学史学会会員以外の人も含まれる。賛同署名はこれから続けるという。

 声明の全文は次の通りだが、科学者による声明らしく、これまで科学者と技術者が戦争に大きく関与してきた事実に言及し、「ラッセル・アインシュタイン宣言」「湯川・朝永宣言」など科学者の宣言で戦争の廃棄がうたわれた意義を紹介しながら、今こそ日本国憲法における「戦争放棄」の理念を再認識するよう訴えている。

       日本国憲法の基本理念を否定する改定に反対する
 去る6月28日に世界平和アピール七人委員会は、「日本国憲法の基本的理念を否定する改定の動きに反対する」を発表した。私たち科学史と技術史の研究と教育に携わるものは、同アピールの視点と趣旨を全面的に支持するものである。

 日本国憲法を改定しようとする動きの中心的な狙いの一つは、憲法第九条の改定にある。自民党の「日本国憲法改正草案」は、交戦権を放棄した第九条②を削除し、自衛権の行使を認め、国防軍の保持を明白に規定するものであり、これでは第九条第一項の戦争の放棄が完全に空文化する。

科学や技術の歴史を振り返れば、科学者と技術者が戦争に大きく関与してきた事実に突き当たる。しかし、それは同時に科学者と技術者が戦争を回避し、その廃棄を求めようとする苦難の道でもあった。1955年7月9日に発表された「ラッセル・アインシュタイン宣言」では、核兵器による世界の破壊を避けるために、戦争の廃棄が謳われ、その20年後の「湯川・朝永宣言」でも、戦争のない「新しい世界秩序」が希求された。これらの科学者たちの理念は、第二次世界大戦の悲惨な敗戦経験から生み出された日本国憲法における戦争の放棄の理念に合致している。

 戦争の放棄は、ユートピア的な理想と理解されることがある。しかし、「ラッセル・アインシュタイン宣言」の実現のためにつくられたパグウォッシュ会議の活動によって、1995年にノーベル平和賞を受賞したジョセフ・ロートブラットは、こう述べている。20世紀に二つの世界大戦の震源地となったヨーロッパでは、欧州連合の創設によって、戦争が考えられないものとなっている。必要なのは、こうした地域を拡大し、世界を覆ってしまうことだと。私たちもまた、どのような厳しい政治情勢下にあっても、世界とアジアに、そのような地域を拡大することが、戦争放棄を謳った憲法を持つ日本国民の責務であろうと感じている。

 憲法の理念を否定する改定の動きを政府と国会議員が直ちに中止するとともに、この問題に多くの国民が関心を向けるよう訴える。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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