(2020年8月28日)
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。驕れる者久しからず、ただ春の夜の夢の如し。猛き人もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。
遠く異朝を訪ひ近く本朝を窺ふに、猛き者も奢れる者もとりどりにこそあれ、諫めをも思ひ入れず天下の乱れん事を悟らずして民間の嘆く所を知らざりしかば、久しからずして亡じにし者少なからず。間近くは、安倍晋三内閣総理大臣と申しける人の有様、憲法の定めにも従わず、政権を私物化し、嘘とごまかしで固め、数々の不祥事を重ねて、コロナ禍の裡に民の憂ふる所を知らざりしかば、何の誇り得る業績もないままに、再度にわたる政権投げ出しに至りしとぞ伝へ承るこそ心も詞も及ばれね。
本日(8月28日)午後2時頃、ネットのニュース速報で、「安倍晋三辞意表明」を知った。さしたる感慨はない。間もなくの3時前ころに、東京新聞の記者から電話がかかってきた。「安倍辞任の感想を聞きたい」と言う。まとまりなく、次のようなことを、話した…はずである。
長すぎた政権でした。そして、国民にとっては迷惑な政権。国政を私物化し、嘘とごまかしと忖度の、負のレガシーで固められた政権。この政権の終焉はもちろん歓迎しますが、本来は選挙による国民の審判でこの政権に国民からの縁切り状を突きつけるべきところ。それがきちんとできなかったことが残念と言わざるを得ません。
しかし、彼が必死の執念を燃やした憲法改正は、国民の改憲阻止の世論と運動が阻止し得た。このことは、まことに喜ばしいと思います。おそらくは、「安倍のいるうちが、千載一遇の改憲のチャンス」。改憲派はそう思っていたはずです。その与望を担った安倍政権が改憲の糸口にも至らずに崩壊したことの意味は大きい。ここしばらくは、改憲の見通しは立たないでしょう。
それにしても、不祥事続きの腐敗政権でした。モリ・カケ・サクラ、カジノに河井。忖度文化の醸成、公文書管理の意識的放棄。説明責任のネグレクト、食言の数々は、長すぎた政権の腐敗の典型でもあり、安倍晋三自身の品性の問題でもあったと思います。
あらためて、この政権には何の業績もなかったことに愕然とします。この政権が存続していた間に、日本の経済力も、国際的なプレステージも、科学的な競争力も軒並み下がってしまった。北方領土問題を解決して日露間の関係改善を実現することも、拉致問題を解決して北東アジアに平和な国際関係を築くこともできなかった。ウソをついてまでして東京五輪を招致したけれどコロナによって開催の実現を阻まれた。
また、何としても歴史的な汚点は、集団的自衛権行使容認の戦争法(安保法制)を強行成立させたこと。その法律の廃止を含めて、数々の負のレガシーを払拭する努力をこれからも続けていかなくてはなりません。誰が後継首相となったとしても。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.8.28より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=15528
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion10062:200829〕