トランプ米大統領は6月1日(米東部標準時間)、金正恩朝鮮労働党委員長の腹心と言われる金英哲同党副委員長とホワイトハウスで会談した後「米朝首脳会談は来たる12日にシンガポールで開催される」と発表した。5月24日に同大統領が突然、前から予定されていたこの首脳会談の中止を宣言してからちょうど1週間後のことである。
この1週間の間に米朝双方から首脳会談を予定通り開きたいといった反応が飛び交い、また各レベルの米朝折衝が行われた。中でも金英哲副委員長は5月29日と30日、ニューヨークでポンペオ米国務長官とじっくり会談した。
さらに同副委員長は翌6月1日ワシントンを訪れ、ホワイトハウスで金正恩委員長の親書をトランプオ大統領に手渡して懇談した。同副委員長は今年の新年以来北朝鮮が対話路線に転じて以来、南北、米朝関係を取り仕切ってきた人物である。3月末と5月初めに訪朝したポンペオ国務長官と金正恩委員長との会談にも同席していた。北朝鮮が最高幹部をワシントンに派遣したのは18年ぶりのことだった。
トランプ大統領は金英哲氏との会談後記者団に対し、北朝鮮の非核化について「時間をかけても構わない。速くやることも、ゆっくりやることもできる」と北朝鮮側に伝えたと述べた。米側はこれまで北朝鮮非核化の「早期達成」を要求してきた事実からすれば、大きな譲歩と言える。
同大統領の記者団への説明によると、北朝鮮側が「非核化の意思」を繰り返し明白にしたことが第1のポイント。第2のポイントは「彼らは用心深く、急いでやろうとはしない」と「段階的な非核化」を主張してきた北朝鮮の立場に理解を示したことである。また大統領は「1回の会談ですべてが成し遂げられるとは思わない」と述べ、複数回の首脳会談を含む米朝間の折衝の積み重ねが必要であることを示唆した。
問題は12日の米朝首脳会談の中身である。最大の課題は非核化だが、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含めた弾道ミサイルや生物・化学兵器などの大量破壊兵器の扱いなどについての協議も難航が予想される。
6月2日付毎日新聞によれば、非核化の焦点となる北朝鮮の核兵器計画とは1.15~60発とみられる核兵器とその組み立て施設2.核兵器の原材料となる核物質を製造する原子炉などの施設群-だという。
一方6月2日付朝日新聞によれば、米国は半年以内に核弾頭やICBMの一部を海外に搬出するよう求めたという。また北朝鮮核技術者の国外移住をも要求したとの報道もある。こうした要求を直ちに北朝鮮が実行できるのかどうか、米側も北側に要求するだけでなく北側とじっくり話し合うべきだろう。
一方、北朝鮮が同意しているのは「朝鮮半島の非核化」である。つまり北朝鮮はいずれ完全に非核化することに同意するが、半島の南半分つまり韓国ないし韓国周辺の非核化も要求しているわけだろう。韓国は核兵器を持っていないが在韓米軍はどうか。
在韓米軍の基地には核兵器は貯蔵されていないとされているが、韓国周辺の日本海や黄海には核兵器を積める原子力潜水艦や核搭載可能の爆撃機を搭載できる原子力空母が、常時遊弋している。北朝鮮も韓国も今回「必要とあれば核装備のできる」在韓米軍の撤退を求めていないが、原潜や原子力空母の「非核化」はどうなるのか。
北朝鮮と韓国は「朝鮮半島(韓半島)の非核化」に同意し、北朝鮮の「非核化」は米朝の最大イッシューになっているのだが、半島南部の非核化については何も語られていない。トランプ大統領は就任後、在韓米軍の撤退もあり得るとの発言をしたことがある。当面の大問題である北朝鮮の非核化が実現すれば、在韓米軍の問題もいずれ避けられなくなるだろう。
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