人道主義・核兵器廃絶・日本国憲法擁護の立場から、平和問題で発信を続けている世界アピール七人委員会は10月25日、東京で「名護市辺野古への米軍普天間飛行場の移設計画は直ちに取りやめなければならない」とのアピールを発表した。野田政権が、政権発足以来、防衛相らの有力閣僚を次々と沖縄に派遣して、米軍普天間飛行場の辺野古への移設方針に変わりがないことを表明させたり、移設先海面の埋め立てに必要な環境影響評価(アセスメント)の評価書を年内に沖縄県に提出する方針を伝えるなど、辺野古移設計画を加速させていることを懸念したからだ。
アピールは「辺野古移設計画は沖縄県民の意思を踏みにじり、日本国憲法の精神に反するもの」として「直ちにとりやめなければならない」と主張し、「日本政府が説得すべき相手は沖縄県でなく米国政府である」と述べている。
七人委員会のメンバーは武者小路公秀(国際政治学者)、土山秀夫(元長崎大学学長)、大石芳野(写真家)、池田香代子(ドイツ文学翻訳家)、小沼通二(慶應義塾大学名誉教授)、 池内了(宇宙物理学者)、 辻井喬(詩人・作家)の各氏。
アピールの全文は次の通り。
名護市辺野古への米軍普天間飛行場の移設計画は直ちに取りやめなければならない
世界平和アピール七人委員会
1996年、日米両国政府は普天間飛行場返還に合意した。その後曲折を経ながらも、いまだに両政府は、米海兵隊基地は沖縄県名護市辺野古に移設することが現実的な解決策だと主張し続けている。しかし、沖縄県知事、県内41市町村の全首長、県議会、県民は辺野古移設への反対を明確にし、「危険性の除去」、「少なくとも県外移設」を繰り返し求めている。
これに対し、野田政権は発足からの短期間に、沖縄担当大臣、防衛大臣、外務大臣を相次いで沖縄に派遣しているが、誰一人沖縄のおかれている現状に目を向けることも、 沖縄の声に耳を傾けることもなく、県民の意志とは全く無関係にアメリカ政府の要求の伝達を繰り返しているとしか思えない。
しかも、米軍基地の必要性を説明するのではなく、振興策と称して多額の交付金を投入して民意を変えようとするのは、民主主義に反する。沖縄県民が望んでいるのは、民意を尊重した解決であり、我々が望むのも同じである。
1945年3月26日の沖縄戦開始以来、戦争終結によっても、1972年の施政権返還を迎えても、冷戦が終わっても、沖縄の米軍基地の根本的軽減は行われず、今日においても、在日米軍施設の74%が国土の0.6%に過ぎない沖縄県に集中している。
私たちは、日本国憲法も国連憲章も仮想敵国を作ることを想定していないと考えるが、もし仮想敵国に対する国の安全保障上、米軍基地は減らせないのであれば、沖縄県以外の、99.4%の面積を占める都道府県に移転先を求めるべきである。他都道府県に移転先が見つからなければ、日本国外に移転するほかない。沖縄県のみに負担を押し付けるのは、差別以外のなにものでもない。市民の意思を踏みにじる都道府県の政策決定、都道府県民の意思を踏みにじる国の政策決定は、憲法第95条に定められた民主主義的地域主義の精神に反する。
対立する一方の国が、自衛権の下に軍備の質的、量的増強を図れば、相手国も軍備を増強し、軍拡の連鎖が戦争を引き起こし、双方を疲弊させることは、歴史が繰り返し示してきたところである。この連鎖を逆転させることこそ、政治、外交の目標でなければならない。政府が特使を送って説得しなければならない相手は、沖縄県ではなく米国政府である。
施政権返還以来、沖縄の米軍基地は幾度も不安定性を示してきたが、その根源的な原因は民意の無視にあった。この度またしても民意を無視して米海兵隊基地の辺野古移転を強行するなら、基地の円滑な運営など望むべくもなく、ひいては東北アジアにおける軍事バランスにアメリカそのものが望まないような不安定性を増大することは、火を見るより明らかである。私たち世界平和七人委員会は、このことを日本政府が直視し、沖縄の民意を重い委託と受け止め、アメリカ政府と真摯に向き合うことこそが重要と考える。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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