11月12,13日とホノルルで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議が終わったとたんにアジアがきな臭くなった。APECのホスト役を終えたオバマ米大統領はそのあとすぐにオーストラリアに飛び、ギラード豪首相と会談、オーストラリア軍の基地があるダーウィンに米海兵隊を常駐させることで一致したとスピーチ。あわせて「アフガニスタン、イラクは終わった。今後アメリカはアジアに全面的にコミットする」と強調した。APECホノルル会議を舞台に進められているTPP(環太平洋経済連携 協定)と重ね合わせてこの動きをみるとき、経済と軍事を一体化したアメリカのアジアシフトが新たな段階を迎えたことを読みとれる。
昨年10月、菅前首相が突然TPPを言い出し、後を受けた野田首相が前のめりに進めているTPP交渉参加とは、まさにこの経済と軍事を一体とした日米同盟深化 にほかならない。そうみなければ、中国を含む東アジア。東南アジアの成長の中軸である諸国が入らないTPPに、国内の矛盾を抑え込む形でTPP交渉参加に突っ走る理由が見あたらないのである。(大野「なぜ今、TPPなのか 日本経済救済論の嘘」週刊金曜日2010年11月26日号参照)。
その矛盾を野田首相は国内向けとアメリカ向けを使い分けることで、乗り切ろうとして最初からつまづいた。国内向けには「交渉参加に向けて関係国との協議に入る」という参加とも参加しないとも、どちらともとれるあいまいないいかたで取り繕ってホノルルに出かけた。ところ が米政府は「野田はすべての物品及びサービスを貿易自由化交渉のテーブルに乗せると語った」と発表、あわてて「そんなことはいっていない」とする 日本政府の抗議を「その通りなのだから訂正しない」と突っぱねた。
この問答は新聞で細かく報道され、多分米発表通りのことを野田首相はオバマ大統領に語ったのだろうと多くの人は納得した。このエピソードはTPPの政治力学をそのものズバリであらわしていて、おもしろい。
そのホノルルで、APECに対抗する民衆会議とデモが首脳会議直前の11日、12日に主な会場をハワイ大学において開催されることになり、日本のTPPに反対する市民グループに一員として出かけた。会議に名前は「MOANA NUI」(モアナ ヌイ)と銘打たれていた。先住ハワイアンの言葉で「偉大な海」とでもいう意味だという。
民衆会議の主役は明らかに太平洋の先住の民であった。軍事との関連でいえば、いま米軍基地の建設が進められている韓国・済州島、沖縄、ハワイ、グアムなどから、米軍基地とたたかっている住民、活動家が報告にたった。中国シフトの第一線である済州島と沖縄、グアム、米軍の太平洋司令部があるハワイ、そして今回米海兵隊が常駐することになったオーストラリア。二重、三重に中国を包囲するこの軍事網は地域的にTPPとほぼ重なる。太平洋の島ハワイの州都ホノルルの街頭を「Occupy APEC」のシュプレイコールにあわせて歩いていると、日本国内では見えないTPPの鳥瞰図が現実のこととして認識できた。
現在この地域に展開する米軍は、ハワイ4万2360人、日本4万178人、韓国2万8500人、グアム4137人、フィリピン182人、海上部隊1万2858人。これに新たにオーストラリアが加わったわけだ。将来2500人が常駐することになる。読売新聞は11月19日の社説「地域安定に重み増す日米同盟」で早速歓迎の意を表した。同社説は「沖縄や韓国などの駐留米軍は、すでに中国の弾道ミサイルの射程内にある。射程外にも米軍の行動拠点を確保することは、抑止力を強化する上で欠かせない」と述べている。
いまもなお「抑止」論で世界を見る思考停止のジャーナリズムに改めて驚くが、野田政権はTPP参加を掲げて、経済・軍事を米国と一体化させる道に自らを追い込んだのである。
(2011/11/22)
日刊ベリタより、著者の許可を得て転載
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