職務執行命令訴訟の性格は、大田昌秀知事が福岡高裁(那覇支部)に訴えられた1996年のいわゆる「代理署名拒否裁判(1 」ではっきりしました。
池(いけ)宮城(みやぎ)紀夫弁護士は当時、福岡高裁は「国の提灯(ちょうちん)持ち」だと怒り、また「安保条約上、最優先される公益」という抽象的キメツケの根拠を質すと、政府側は「答えるつもりはないという傲慢な態度」だったと報告しました(2 (2月23日)。新崎盛暉教授は、「不当な訴訟指揮に対し(知事の意向で)裁判官の忌避ができなかった」ことが「一番腹立たしい」、その反省から「市民・大学人の会」は「知事より一歩先を進まなければいけない」と指摘しました(3月11日)。最高裁は、署名代行の拒否が「著しく公益を害する」として知事の上告を棄却(8月28日)。満席の傍聴者は閉廷後1時間以上も退席せず、「最低裁!」のシュプレヒコールを起こし、これを受けて高良鉄美教授は後日、「最低裁の最醜判決」とこき下ろしています。
いま私たちに求められているのは、その後の裁判所がいっそう劣化していることを踏まえて、新知事の一歩先を行く叡智です。埋立承認を取り消せばよいのではなく、裁判に勝てる条件を研究し、提起しなければなりません。このため「取消」よりも先に、知事権限で打てる手をすべて打たなければなりません。つまり多くの「新知事の妙手」こそ、焦点なのです。
たとえば、2006年公表いらい“凍結”されている県の「希少野生動植物種保護条例案」(本紙第2号参照)を新知事が議会に提案し、その施行とともにジュゴンやウミガメを県独自に指定すると、その生息保護区を設けるなどの施策を展開しなければなりません。大浦湾は、サンゴ礁に続いてジュゴンの藻場が広がり、沿岸に「ジュゴンの丘」と呼ばれる場所さえあるため、最優先で施策の対象になるはずです。そのうえ、かりに条例案の8年間“凍結”が、政府の要請や恫喝に基づくものなら、国際社会を含めて世論は新基地建設に対しさらに反発を強めるでしょう。 (文責:河野道夫―読谷村)
国際法市民研究会
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1)復帰後、政府が強制収容し米軍に提供している一部土地の使用期限は1997年5月14日。強制収容の継続に必要な地主の署名が得られない場合、市町村長が代理署名する。その市町村長が署名しない場合、知事が代理署名しなければならない(駐留米軍特措法)。
2)沖縄から平和を創る市民・大学人の会編「沖縄県知事の代理署名拒否裁判―共に考え行動した記録」沖縄出版1999年p12。以下の引用はそのp18、p350などから。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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