参院選京都選挙区にある私の家には、このところ維新のビラがよく入るようになった。これに危機感を覚えたのか、立憲公認候補の福山哲郎参院議員のビラも時々入るようになった。これに対して自民と共産のビラやチラシはあまり目につかない。各政党の運動量を反映しているのだろうか。
このことを象徴するような選挙が最近あった。4月10日投開票の京都府知事選と府議補選(京都市北区)だ。知事選は、長年の慣行となっている「オール京都=共産を除く自民・公明・立憲・国民の相乗り選挙」から推薦された西脇隆俊知事が、前回選挙から10万票余り上乗せして50万5千票(得票率67%)で圧勝した。共産推薦の梶川憲氏(総評議長)は、府民との「草の根共闘」を旗印に戦ったが、6万6千票減らして25万1千票(得票率33%)で半分にも届かなかった。
しかし、京都府民の関心が集まったのは、京都市北区で行われた府議補選(被選挙数1、候補者数4)の選挙結果だった。知事選の方は選挙前から勝敗が決まっているとあって関心はそれほど高くなかったが、自民、立憲、共産、維新の4党が候補を立てた府議補選は激しい戦いとなり、注目を集めていた。結果は、維新新顔が1万1千票で当選、自民新顔が9千400票、共産新顔が8千100票、立憲元職が6千300票の順となった。
立憲元職候補は、福山参院議員の元秘書を務めた女性候補で最有力候補だった。選挙中は福山氏が全面支援し、衆院京都3区選出の泉衆院議員(立憲代表)や知名度の高い蓮舫参院議員、辻本元衆院議員なども応援に入った。それでいて4人中最下位に沈み、維新の半分余りしか得票できなかった。私は、維新候補がトップになり、立憲元職が最下位になったのは、前原氏が府連会長を務める国民が維新支持にまわったからだとみている。そうでなければ、これほど立憲票が減り、維新票が伸びた理由の説明がつかない。知事選と同時に行われた府議補選は、事実上参院選の前哨戦として戦われ、「維新・国民連合」が勝利を収めたのである。この模様を、産経新聞(4月12日)は次のように伝えている。
――立民は昨年の衆院選比例代表で、府内の得票が自民、維新に次ぐ3位にとどまった。今回は自民元府議が公職選挙法違反事件で辞職したことに伴う補選だったにもかかわらず後れを取った。参院選京都選挙区もこの4党による対決が予想されており、立民の危機感は強い。関係者は「維新が勢いづき、自民と共産にも負けた。党の先行きを示すような衝撃的な惨敗だ」と強調。ベテラン議員も「ショックもショック、大ショックだ。これはもう補選レベルの話ではない」と嘆いた。
それから10日後の4月20日、国民の前原誠司代表代行と維新の馬場伸幸共同代表が国会内で会談し、夏の参院選を巡り京都選挙区(改選数2)と静岡選挙区(改選数2)で双方の候補者を「相互推薦」することで(予定通り)合意した。維新の馬場代表は「身を切る改革にご同意いただいて一緒にやっていこうということになった。京都と静岡両方で当選することにわが党も全力を挙げる」と話し、前原氏は「(選挙協力は)基本的な価値観、基本政策が一致していないとだめ。権力は勝ち取るもの。京都と静岡の推薦は政権交代の基盤をつくるその第一歩」と話した。維新は京都選挙区を「最重点選挙区」と位置付け、4月15日には大阪ガス社員の擁立を発表。一方、静岡では独自候補を立てず、国民会派に所属する無所属現職を推薦する(京都新聞4月21日)。
これに対して、哀れなことに泉立憲代表はなすところを知らない。泉氏は4月15日の記者会見で、「全国的にみても国民が維新を応援するケースはどこにもない。京都だけというのはかなり考えにくい選択ではないか」と述べていたばかりだ(京都新聞4月16日)。だが、こんなノーテンキな発言で前原氏の動きを止められるはずがない(もし本気でそう思っているとしたら、これは「政治オンチ」とい言いようがない)。実際のところ、泉氏には「打つ手」もなければ事態を打開する知恵も決意もなかったのだろう。毎日新聞(4月21日)は、立憲の動揺ぶりを次のように伝えている。
――国民民主党と日本維新の会は20日、夏の参院選京都選挙区(改選数2)と静岡選挙区(同)について、候補者の相互推薦に合意した。京都では国民民主が維新新人を推薦する。京都は立憲民主党の泉健太代表の地元。福山哲郎前幹事長が守る議席の維持に向け、国民民主の支援を当て込んでいた立憲内には衝撃が走り、他の選挙区での連携にも暗雲が垂れこめた。泉氏は15日の記者会見で国民民主について「長く、京都でも中央でも連携してきた経過がある。最大限生かしたい」と話していただけにショックは大きい。20日、記者団に「長い間一緒に歩んできた。対応が分かれるのは残念だ」と戸惑いを隠さなかった。21年の静岡選挙区補選では無所属候補が立憲、国民民主両党の推薦を得たが、今夏の参院選では立憲県連が推薦見送りを決め、既に足並みは乱れている。国民民主は、21年衆院選で議席を伸ばした維新の勢いを取り込みたい考えだ。立憲は独自候補を擁立するかが焦点になる。国民民主と維新は、他の選挙区で相互に推薦することについては否定的だ。ただ、立憲内からは「国民民主からの宣戦布告だと捉えた」との声が漏れ、両党の連携に影響が広がる可能性がある。
一方、連合の芳野友子会長は着々と自民との連携を深めている。自民は18日、党本部で開いた「人生100年時代戦略本部」に芳野会長を招き、社会保障政策に関する意見を聞いた。芳野氏は女性や非正規雇用の労働環境の改善を訴えたというが、そもそも男女賃金格差を容認し、非正規雇用を激増させてきた自民に対していったい何をお願いするというのか。聞いて呆れるほかないが、ご本人は「お呼びいただければ(今後も)意見交換していきたい」と臆面もなく語ったという。毎日新聞(4月19日)は、その背景を次のように解説する。
――再配分を重視する岸田政権の「新しい資本主義」と連合の基本方針は親和性が高く、賃上げなど具体的な施策実現に向け、(連合が)与党とも連携を強化する狙いがある。自民側も連合への接近を強める。芳野氏は昨年10月の会長就任後、衆院選で共産党と選挙協力した立憲の批判を続けており、自民中堅は「連合の中は既に割れている。票を引きはがすチャンスだ」と話す。麻生氏は17日、福岡市内の講演で「連合に『政策を実現するのは自民党が一番でしょう』と、正面から申し上げている」と述べ、自信をのぞかせた。連合幹部は、芳野氏の会合出席について「目的はあくまで自民に連合の政策を訴えることだ」と語り、政権交代可能な政治体制を目指す従来の方針と変わったわけではないと強調する。
連合幹部がこんな子供だましの言い分をいけしゃあしゃあと述べ、芳野会長がそれに輪をかけたマンガもどきの行動を続けていることを、立憲はいったいどうみているのだろうか。泉代表は翌日19日、芳野会長と会談して意見を交わしたというが、会談後、芳野会長は記者団に例によって「立民、国民民主党と連携して戦っていく」との決まり文句を強調したという(日経新聞4月20日)。だが、維新と国民の相互支援体制が広がり、政策的な連携が深まるようになると、連合推薦の「野党共闘」は崩壊する。夏の参院選の結果は、自民圧勝、維新・国民連合の躍進、立憲・共産の惨敗で終わる公算が大きい。さて、泉代表はどうする。このまま迷走を続けて自滅するのか、それとも一念発起して路線変更に踏み切るのか――。地元京都では「愛想つかし」「期待薄」の声が強いがもう少し様子を見ることにしよう。(つづく)
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