自民党総裁岸田文雄、党大会でかく語りき。

(2023年2月28日)
 自由民主党総裁、岸田文雄です。本日、2月26日という特別に意義の深い日を選んでの第90回党大会であります。まずは、我が党が依拠する国民の代表として経団連の十倉会長のご臨席を賜ったことをご報告し、以下の御挨拶を申し上げます。

 昨年7月、安倍晋三元総裁が、選挙期間中に銃撃され、お亡くなりになるという未曽有の事件が起こりました。安倍元総裁の下「日本を取り戻す」なんて大袈裟なことを言いつつ、当時の民主党から政権の座を奪還したのは今から10年前のことです。

 この「日本を取り戻す」という訳の分からぬスローガンによれば、当時日本は誰かに奪われていたのです。奪われていた「日本」とは、安倍晋三元総裁が本来あるべきと考えた富国強兵の日本であり、軍事大国の日本であり、中国や朝鮮を侮蔑する傲慢な一等国日本であったかと思われます。少なくも、戦後民主主義の塵を払った、旧憲法時代の帝国日本であったことには間違いありません。

 だからこそ、この10年、安倍元総裁の強力なリーダーシップの下、多くの仲間とともに、憲法改正のために死力を尽くして闘ってきました。もちろん、闘う相手は国民です。頑迷に憲法改正に反対する勢力との闘いの道半ばで倒れた安倍元総裁のご遺志を継いで、私も憲法改正に邁進する覚悟であります。

 さて、アベノミクスの失敗は誰の目にも明らかで、この10年、日本の国力は大きく低下しました。日本には未来がないとささやかれる事態を迎えています。しかし、こういうときにこそ、安倍元総裁の得意技を思い出していただきたいのです。そうです、「ご飯論法」と「嘘とゴマカシ」、「あるものもない」という安倍流政治手法です。どこかいいとこだけの統計数字を拾ってきて、あたかも全体がうまく行っているように印象操作をするあの悪徳商法まがいの得意技。虚心坦懐にこれを見習い、実行し、頑張って、統一地方選挙も、衆議院の補選も乗り切っていこうではありませんか。

 選挙で訴えの基本は二つだけ。一つは、なんでも悪いことは、あの悪夢の民主党時代の悪政の結果ということ。もう一つは、なんでも良いことは、我が党の努力による「前進の10年」の成果だということ。照れたり、恥ずかしがって小さい声で言うのではなく、堂々と大声で、安倍晋三さんのように、ウソでも平気で「アンダーコントロール」と自信ありげに言うことがコツなのです。

 とは言え、いま、日本が置かれている状況は厳しく、課題は満載です。コロナ後の日本経済再生、かつてないエネルギー危機、その中でのエネルギー安定供給と脱炭素の両立、変化する国際秩序の中での外交安全保障、最大の未来への投資であるこども・子育て政策。安倍さんだけの責任でないとは思いますが、いずれも先送りできない困難な課題がズラリです。

 しかし、われわれならできる、いや、われわれにしかできない。皆さん、そう思いませんか? なぜなら、われわれ自由民主党には良き伝統があるからです。議論を尽くし、知恵を持ち寄り、そしていったん決めたなら、一致団結して成し遂げる。そう、「民主集中制」という組織運営の大原則です。この良き伝統の下、難題に一つ一つ答えを出し、着実に実行していこうではありませんか。

 まず取り組まなければならないことは、防衛力を抜本的に強化し、そのための経済的な裏付けを得ることです。即ち、大軍拡・大増税。これを断固として実現しなければなりません。もちろん、財布の大きさには限りがありますから、当然のことながら、大軍拡・大増税は、福祉や教育、子育てへの予算に皺寄せを及ぼします。でも、正直にそう言ってしまっちゃあオシマイですから、「異次元の子育て政策」「教育費倍増」「子供予算倍増」などと、中身なくても口先だけでも、吹聴してください。みんなで、口を揃えて言うことが大切です。そうすれば、確実に票がとれます。選挙までの、短い期間のことです。これで乗り切りましょう。

 そして、物価高を乗り越え、経済成長を実現するため、新しい資本主義の柱である、「投資と改革」にも全力を挙げます。GX、DX、科学技術・イノベーション、スタートアップ等の分野に、官の投資を呼び水に、民の投資を集めてまいります。地域の未来を創る、地方創生の取り組みも加速化させていきます。何のことだか、よく分からぬことを、早口で喋ることが大切です。私も中身はよく分からないのですが、この頃口は回るようになりました。

 そして、子供たちに「取り戻した日本」を着実に引き継ぐため、憲法改正にも取り組んでまいります。自衛隊の明記、緊急事態対応、合区解消、教育の充実。いずれも先送りのできない課題ばかりです。時代は、憲法の早期改正を求めています。維新や国民は、改憲の同志的政党ですから、その力もお借りしながら、国会の場における議論を、一層積極的に行ってまいります。

 また、伝統右翼の皆様が大切だと思っていらっしゃる皇室問題も待ったなしです。安定的な皇位継承を確保するための方策への対応は先送りの許されない課題であります。国会における検討を進めてまいります。

 今、我々は、明治維新や、先の大戦に匹敵する歴史の転換点を迎えています。はっきり言えば、何ごとも行き詰まり、うまく行きそうもないのです。経済、エネルギー、外交安全保障、少子化対策。考えて見れば、みんなみんな、戦後長く続いた保守政権の無策の結果です。

 そう思っても、口に出してはなりません。「この歴史の転換点に臨み、今一度、10年前の政権奪還の原点、野党転落のどん底から毅然と立ち上がった原点に立ち戻りたいと思います」と言えばよいのです。こうして、選挙を乗り切れば、あとは気楽な「黄金の2年」が待っています。

 支持率の低い岸田政権ですが、なんとかなります。統一教会問題やら、選択的夫婦別姓の問題やら、LGBT問題やら、都合の悪いことには一切口を出すべきではありません。こうやって、何とか危機を乗り越えましょう。ご支援、よろしくお願いいたします。

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2023.2.28より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=20913

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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