自民党議員には教育勅語ウイルスが根強く感染し続けている。

(2021年1月27日)
昨日のNHK(Web)報道に我が目を疑った。「日本の国旗損壊 刑法改正し処罰規定検討 自民 下村政調会長」というのだ。このコロナ禍の緊急事態に、不要不急極まる右翼の蠢動。もしや、本気で火事場泥棒を狙っているのだろうか。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210126/k10012834121000.html

「日本の国旗を壊したり汚したりした場合の対応として、自民党の下村政務調査会長は、刑法を改正して処罰規定を設けることを検討する考えを示しました。
 自民党の高市・前総務大臣らの議員グループは26日、下村政務調査会長と会談し、刑法には外国の国旗を壊したり汚したりした場合の処罰規定はあるものの、日本の国旗については規定がないとして法改正を訴えました。これに対し下村氏は「必要な法改正だ」と応じ、法改正を検討する考えを示しました。
 このあと高市氏は記者団に対し「日本の名誉を守るのは究極の使命の1つで、外国の国旗損壊と日本の国旗損壊を同等の刑罰でしっかりと対応することが重要だ。改正案を今の国会に提出したい」と述べました。」

いかにも唐突な「国旗損壊罪」創設という刑法改正の提案。誰が見ても不要不急の極みだが、「改正案を今国会に提出したい」とは穏やかでない。読売は、法案の内容まで踏み込んで、こう報じている。

 「自民党は26日、日本を侮辱する目的で日の丸を傷つけたり汚したりする行為を処罰できる「国旗損壊罪」を新設する刑法改正案を今国会に議員立法で提出する方針を固めた。下村政調会長が、党の保守系有志議員でつくる「保守団結の会」による提出要請を了承した。
 改正案は刑罰として「2年以下の懲役か20万円以下の罰金」を科すとしている。自民党は、野党時代の2012年にも同様の改正案を国会提出し、廃案となっている。」

閣法としての取り扱いではなく、法制審議会への諮問もない。連立与党間の摺り合わせもないようだ。何よりも、こんな立法を必要とする立法事実は皆無であり、世論の盛り上がりもない。自民党が本気になって、こんな法案成立の意気込みをもっているとは、とうてい考え難い。にもかかわらず、右翼議員パフォーマンスの材料として、「国旗」がもてあそばれているのだ。

はて? 「保守団結の会」? ようやく思い出した。昨年(2020年)6月自民党内右翼が選択的夫婦別姓制度への賛否で割れてスピンオフした、あの最右派集団であったか。何しろ、稲田朋美の右派姿勢の不徹底に失望したと批判して、それよりも右の議員43名が再結集したという報道だった。 昨年暮れに、新たに顧問として、安倍晋三、古屋圭司、高市早苗などという札付き右翼を入会させているという。

この「団結の会」の信条は、何よりも《伝統的家族観》。そして《皇室の尊崇と皇統の護持》だという。《伝統的家族観》と《皇室の尊崇と皇統の護持》、そして《国旗の尊厳》とが彼らの頭の中では直結している。かつての教育勅語ウィルスが絶滅を免れて、こういう宿主の脳髄中に生存を続け、この三者を強固に結びつけているのだ。このウイルスの発現症状は、発熱でも咳嗽でもない。思考能力が侵され、「忠君愛国」「富国強兵」「万世一系」「民族差別」「皇国弥栄」等々の根拠のない空っぽのスローガンのマインドコントロール下に制圧されることになる。

端的に言えば《伝統的家族観》とは【男尊女卑】【家父長制】と同義である。《皇室の尊崇と皇統の護持》とは【人間の差別の肯定と固定化】を意味する。こういう人間観・社会観をもったグループが、男尊女卑と差別を基調とする国家の象徴としての国旗を大事としてもてあそんでいるのだ。

このグループの「筆頭発起人」を名乗っているのが高鳥修一(新潟6区)。稲田朋美同様安倍晋三側近と言われた議員。彼はこう発言している。

「日本では、国家を侮辱する目的で他国の国旗を損壊すると罪になりますが、自国の国旗を踏みにじることは自由となっています。」「自国の国旗を侮辱することに対して各国で禁止する規定があるのは自然なことだと思いますが、日本ではそれも表現の自由という意見があり、他国の国旗は尊重しても自国の国旗は踏みにじって構わないことになっています。」

「いかにもアンバランスな状況を是正する為に、…今国会に法案を提出することになりました。既に平成24(2012)年に一度党内手続きを終え国会に提出されているので、下村政調会長からは、自民党として了解した(再度の党内手続きは不要)。委員長提案は難しくても各党に説明するようにとの指示がありました。早速、関係者に説明にかかっています。」

何という安直さ。何という軽薄さ。こんなに軽々しく刑法をいじられてはたまらない。しかも、ことは国民の人権と国家の権力との関係の根本に関わる。我が国の憲法体系の根幹にも関わる議論が必要な問題なのだ。

自民党は、2012年発表の改憲草案で、「第3条(国旗及び国歌)」の条文を作ろうとしている。
第1項 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
第2項 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。

この国旗国歌尊重義務こそが、旧大日本帝国で猖獗を極めた教育勅語ウィルスの所産にほかならない。後遺障害というよりは、今の世の変異株というべきであろう。

なお、現行憲法の外国国章損壊罪は次のとおりの条文で、その保護法益は「我が国(日本)の円滑な外交作用」と考えられる。当該国旗が象徴する国家の尊厳というものではない。

第92条 第1項 外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。
同2項 前項の罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない。

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.1.27より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=16249

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

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