自然と人間の精神的な関係 -沖縄のアイデンティティーを探る-

 10月7日名護市議会(本会議)の一場面。翁長雄志候補のスローガン「誇りある豊かさ」について質問された稲嶺市長は――沖縄の「誇り」は、翁長さんのよく言われる「アイデンティティー」と置き換えてもよいだろう。「豊かさ」は、琉球国いらいの「精神性」を指していると思う――と答弁(筆者の傍聴メモ)。

 アイデンティティー identityは、個人における自己の存在証明、独自性、主体性などと訳され、内容は個々人によってすべて異なります。集団としてのアイデンティティーがあるとしても、メンバーによって考えが多様なため、単純ではありません。きっと翁長さんの念頭には、沖縄戦いらいの苦労を共にした経験、基地のない沖縄という目標、「万国津(しん)梁(りょう)」「守禧(しゅれい)の邦」を基本とする非武の思想などがあることは、ほとんどの人が感じているでしょう。辺野古・大浦湾の自然を守る強固な意思についても同様ですが、それが生きている自然との精神的な関係、いわば“自然と人間の一体観”に裏打ちされたものかどうかについては、ご本人に確かめるしかありません。

 近年の異常気象について国際機関は、地球温暖化に影響された「気候変動climate change」と表現します。しかし、大自然と心を通わせる沖縄の人々の感性にとって、最近の天変地異は人間の傲慢さに対する「地球の怒り」と受けとめられています。これと同じような感性を持った3万5千人が2010年、世界中からボリビアの地方都市コチャバンバに集まり(1 、その合意(コチャバンバ人民合意)として、国連による「母なる地球Mother Earthの権利宣言」の必要を訴えました。地球は尊厳をもって生きており、人間とは「精神的な関係spiritual relationship 」があるというのです。これは、沖縄のアイデンティティーと重なっているのではないでしょうか?

 合意の要点を6項目にまとめ、ご紹介します(当研究会訳に基づく)。
1.国連・気候変動枠組条約の締約国会議(COP)は、排出権取引のような市場メカニズムによる解決を基本にしているうえ、際限のない破壊的な開発と成長によって自然と人間のすべてが商品化されていることを問題にせず、気候変動を単なる気温上昇の問題にしている。目標を守らない先進国を国際法廷に訴え、責任を追及すべきだ。

2.産業革命以来加速された文明モデルは、人間が自然を従属し破壊する関係である。いまそれが最終的な危機を迎えている。その文明は、水、大地、ヒトの遺伝子、伝統文化、生物多様性、それに正義、倫理、諸民族の権利、さらに生命そのものさえ商品化している。

3.「母なる地球」は単に原料の供給源とされ、人間はあるがまま尊重されるのでなく、消費者へ、生産手段へと転換されている。資本主義は、領域と天然資源を獲得し支配するため強大な軍需産業を必要とし、人民の抵抗を抑圧している。これは、帝国主義的な地球植民地化のシステムである。

4.人間と自然、人間と人間いずれの関係においても調和を回復する新たなシステムを考え出さなければならない。そこでは人間相互の関係が公正・公平でなければならず、このため先住人民Indigenous Peoplesの伝統的な知識・智恵・実践を回復し、強化すべきである。

5.先住人民は「母なる地球」を生きものと考え、人間は地球と不可分の関係にあり、両者は相互に依存的・補完的かつ精神的な関係を保って生きていると考える。この相互依存システムの中で、人類は一つの構成要素にすぎず、人間だけが権利を主張すれば不均衡を起こす。

6.種子・耕地・水などをコントロールする農民の権利(=農耕・食糧主権)を容認し、原生林や熱帯雨林を保護するためには、大部分の森林が先住人民や先住民族indigenous peoples and nations、その他の伝統的コミュニティに位置していることを考慮し、土地・領域に対する集団的権利を保証しなければならない。

 「帝国主義的な地球植民地化」といった表現に“イデオロギー”を感じる向きもあるでしょうが、「人間と自然、人間と人間いずれの関係においても調和を回復する新たなシステム」の必要性、その新たなシステムの全体像はまだだれにも解っていないという暗黙の前提、「先住人民の伝統的な知識・智恵・実践」から学ぼうという謙虚な姿勢など、私たちの納得できる見解を読み取ることができます(とくに上記4・5)。沖縄のアイデンティティーの一面がもしここにあるなら、「琉球・アイヌ両民族は日本の先住人民」という2008年の勧告(2 の重みがいっそう増すことでしょう。(文責:河野道夫―読谷村)

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1)気候変動と母なる地球の権利に関する世界人民会議World People’s Conference on Climate Change and the Rights of Mother Earth。国連・気候変動枠組条約の締約国会議(COP)の現状に批判的な人々が、環境関係の市民活動家と少数民族中心に142ヵ国から集まったという。
2)国際人権規約人権委員会から日本政府への勧告。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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