昨年12月31日付けで日本航空は運航乗務員81名、客室乗務員84名に対し整理解雇を通告した。これに対し、乗務員146名が1月19日、解雇の無効を訴えて、東京地裁に提訴した。今後は、この整理解雇が、原告の訴える整理解雇の4要件に違反するものかどうかをめぐって法廷で争われることになる。
私の専攻との関係では、今の日本航空に、一つ目の要件(経営状況に照らして、整理解雇をしなければ企業の維持・存続ができないほど、人員削減に差し迫った必要性がある)が該当するかどうかが争点になる。
これについては、最近の日本航空の経営状況の的確な把握と、なぜ日本航空を会社更生法の適用を申請しなければならないほどの経営危機に至らしめたか、その要因を歴史的に検証することが不可欠である。
以下の拙書は、このような問題意識から、具体的には日本航空の機長組合が会社を相手取って起こした長時間乗務手当削減の無効を求める裁判で、東京地裁に提出した私の意見書をもとに、それに大幅な加筆をしてまとめたものである。
今回、新たに裁判が起こされたのを機に、少しでも多くの方に、巷間言われる「パイロットの高い人件費が日本航空の経営再建の足かせになっている」という風評が事実に基づくのかどうかを考えていただく一助として、拙書を一読いただけるとありがたく思う。
醍醐 聰『労使交渉と会計情報
日本航空における労働条件の不利益変更をめぐる経営と会計』http://www.hakutou.co.jp/detail/class_code/26436/
(このサイトを開くと、末尾にオンライン書店があり、そこから注文できます。)
醍醐 聰 著
白桃書房刊
定価:2,999円(本体:2,857円)
A5判 280頁
初版:2005年09月16日
ISBN:978-4-561-26436-1
在庫あり
会計情労使の相対交渉が企業内交渉の枠を越え司法の場に持ち込まれた日本航空。その裁判の審理過程並びに判決の中で会計情報はどのように利用され,情報の非対称性解消の努力はどうなされたか。会計情報の機能を司法の場で捉えた問題作。
<目次>
はじがき
第1章 労使交渉における会計情報の利用――理論的基礎―― ***** 1
第2章 労働条件の不利益変更の法理と会計の役割 ************* 13
第3章 業績指標の解釈をめぐる争点 *********************** 39
第4章 日本航空の収支構造と国際比較 ********************* 75
第5章 人件費と労働生産性の国際比較 ********************* 97
第6章 航空券販売システムの分析 ************************ 135
第7章 ドル買い為替予約の会計問題と経営責任 ************** 161
第8章 関連事業投資をめぐる経営責任と会計情報 ************* 201
第9章 会計情報の相対交渉支援機能から見た本件の意義――東京地裁判決の検討をかねて――
************* 233
ちなみに、この書物に収録した、営業費用に占める人件費の国際各社比較は次のとおり。
1991 | 1992 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 | 1998 | |
JAL | 29.2 | 27.9 | 28.7 | 28.7 | 28.1 | 26.4 | 26.0 | 25.3 |
American | 33.3 | 34.3 | 34.8 | 35.1 | 34.7 | 35.7 | 36.2 | 37.7 |
United | 36.8 | 36.5 | 35.0 | 32.2 | 31.1 | 31.2 | 31.2 | 33.2 |
Northwest | 31.1 | 29.5 | 30.7 | 33.3 | 35.3 | |||
British Air. | 30.9 | 29.5 | 28.3 | 28.9 | 29.3 | 28.8 | 27.2 | 27.8 |
Lufthansa | 28.8 | 28.3 | 28.5 | 25.7 | 25.0 |
Jalは社外委託費に含まれる人件費の推定額を含む。(本書、86~91ページより)
次に、最近調査した、営業費用の構成割合に関する比較可能な直近の国際比較は次のとおり。
JAL (億円) | ANA (億円) | American (百万$) | United (百万$) | British Air. (百万£) | |
燃 油 費 | 1,882 (24.6%) | 1,254 (22.0%) | 4,085 (26.4%) | 2,528 (20.7%) | 1,228 (29.1)% |
人 件 費 | 1,329 (17.4) | 1,152 (20.3) | 5,087 (32.9) | 2,838 (23.2) | 1,031 (24.5) |
運航施設 利 用 費 | 573 (7.5) | 478 (8.4) | 1,006 (6.5) | 676 (5.5) | 322 (7.6) |
整 備 費 | 553 (7.2) | 278 (4.9) | 948 (6.1) | 718 (5.9) | 247 (5.9) |
減 価 償 却 費 | 386 (5.1) | 544 (9.6) | 826 (5.3) | 675 (5.5) | 360 (8.5) |
航空機材 賃 借 料 | 455 (6.0) | 291 (5.1) | 376 (2.4) | 265 (2.2) | 33 (0.8) |
販 売 手数料 | 297 (3.9) | 362 (6.4) | 646 (4.2) | 172 (1.4) | 144 (3.4) |
その他 | 2,167 (28.4) | 1,329 (23.3) | 2,495 (16.1) | 4,357 (35.6) | 848 (20.1) |
合 計 | 7,642 (100.0) | 5,688 (100.0) | 15,469 (100.0) | 12,229 (100.0) | 4,213 (100.0) |
1.JAL、ANAの人件費は社外委託費に含まれる人件費を含まない金額(この期間中は、『有価証券報告書』に社外委託費を独立の費用項目とした事業費明細表が開示されなくなったことによる。)
2.JALとANA、British Airは2009年4~9月期、AmericanとUitedは2009年1~9月。
初出:「醍醐聡のブログ」より許可を得て転載
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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