花散る春の鎌倉散歩

著者: 澤藤統一郎 さわふじとういちろう : 弁護士
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(2022年4月9日)
 コロナもあり、ウクライナ侵略もあれども、季節はよし。天気もよい。本日の鎌倉、早朝より晴れわたってまことに爽快だった。若宮大路の二の鳥居にある阿吽の巨大な獅子が、コロナ蔓延以来大きなマスクをしている。このマスク、いつになったら取れるやら。

 ここから、鶴岡八幡宮境内までの参道が段葛。頼朝が、妻政子の安産祈願に寄進したものと伝えられ、桜の名所として高名だった。もっとも、近年の改修でかつての風格はない。

 それでも、植え替えられた桜の若木がよく花を咲かせている。これはこれでなかなかの桜並木。本日は、ちょうど散り盛りの花が、時折の風に花吹雪となった。青い空に、舞う花びらがひときわ映えての見事な風情。

 ところが、この風情をぶち壊す不粋なものが現れた。右翼の街宣車が若宮大路を行ったり来たり。車体に団体名が書いてあり、その中に「皇」の字があつた。この不粋な「皇」結社が、日の丸を立てている。その「日の丸」が勢いよく翩翻と翻っていた。ものには似合い・釣り合いということがある。「右翼」と「皇」と「日の丸」と、なるほどよく似合う。そのどれもが、今日の風情をぶち壊している。

 驚いたことに、その右翼街宣車が、「日の丸」とならベてウクライナ国旗を掲げていた。かつてのソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)の一部だった、社会主義国の旗をである。そして、右翼のスピーカーが、ソ連をなじっている。ウクライナを持ち上げている。ウクライナのように戦える日本を、日本の軍備増強を、というわけだ。今の世、桜を楽しむ余裕すら乏しい。
 
 この神社にも、参詣者が願い事を書いて奉納する絵馬が並んでいる。微笑ましい庶民の願い事が綴られているが、この願掛をした日付が西暦か元号かを見るのが、私の趣味。圧倒的に「西暦」が多い。「令和」は少数派なのだ。それを確認することが私の密やかな楽しみ。

 たくさんある絵馬の内、アトランダムの一角を選んで、「西暦」の日付がはいっているものを順に20枚まで数えてみる。それまで「元号」派は何枚あるだろうか。実は、圧倒的に日付のないものが多いのだが、これを除いて日付のあるものだけを数えてみた。

 結果は、「西暦」20に対して、「元号」が8。興味深いのは、「元号」8のうち「R」とだけの表記が5,漢字で「令和」という表記はわずか3。若い世代には、完全に西暦が浸透しているという印象。そして、「令和」と表記するのは、手間のかかる面倒なことなのだ。

 さて、全国に数多くある「八幡神社」。その祭神の起源はよくわからないながらに武神とされ、武家が信仰の対象とした。鶴岡八幡宮も同様である。その本殿正面の掲額の「八」の字が2羽の鳩の抱き合わせとなっていのは、鳩が軍神の使いとされたからだ。ノアの箱舟伝説以来、西洋では鳩は平和の象徴だが、日本では軍事につながるイメージ。軍記物では、鳩が戦での勝運を呼ぶ縁起ものとされている。鎌倉幕府時代鳩の絵柄を家紋に使う武将もあったという。

 若宮大路に面して、「鳩サブレー」の本店がある。「鶴岡八幡宮を崇敬していた初代は、かねてから八幡様にちなんだお菓子を創りたいと考えていました。本殿の掲額の「八」の字が鳩の抱き合わせで、境内の鳩が子ども達に親しまれていたことから、このお菓子を鳩の形にし「鳩サブレー」と名付けました。『鳩サブレー』の誕生です」というのが、店側の説明。

 その菓子の製造は120年前からだという。戦前、軍国主義華やかなりし時代には、「鳩」はいったい、どんなイメージだったのだろう。
 
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.4.9より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=18891
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion11935:220410〕