さてメキシコ時間11月7日、検察の親分で、レバノン移民子弟のカラム長官が行なった記者会見ショーは、既に世界各国でそれぞれの国民性に合わせて報道されている。
(実はこれを書く前に一度書いた報告が、11月15日、ケレタロという町の深夜に賊に襲われたためPCごと失われた。脳味噌は投打と混乱の中にあり、そこに書いたことを思い出すのはいくぶん難しい。メキシコでは消費文化と極貧が隣り合わせになっている。強盗を働く者らが政治的には真剣に祖国を考えているかもしれない。なにせ警察機構は犯人の人相さえ聞こうとしない有様だ。石川五右衛門でさえ嘆くであろう。)
カラムの話は、市警察が犯罪組織に43人を引き渡して犯罪組織の「ゲレーロ・ウニード」が彼らを殺してディーゼルをかけて燃やしたというのが筋書きで、これは日本のメディアも鵜呑みの報道をしている。しかし、もしその筋書き通りに事が運ばれたとして、犯罪組織側がDNAの鑑定もできないほどに43人の死体をきちんと灰になるまで確認しながら焼けるものであろうか。行われた記者会見のように、証言者を犯罪組織から取り寄せて虚妄の拡大を図るのはメキシコ当局筋、さらには現在与党のPRI の常道であるが、逃亡に成功した学生数人の証言では病院などに武装兵士の追跡が行われた可能性がある。また軍隊の関係者が関与していたとすればDNA調査のできないように念入りに死体を焼くことは組織的に可能となってくる。また、!
そもそも「ゲレーロ・ウニード」に学生たちを渡したという筋書き自体が、あまりにも地元イグアラ市長のアバルカと野党のPRDのイメージ壊滅に役立ちすぎている。
実際、麻薬組織は巨大墓穴に示威のために死体を投げ込む傾向があって、わざわざ全部灰にするほど証拠隠滅に走る傾向はない。しかし、このレポートの始めに述べたTLATLAYA(トラットラヤ)の事件ように、国軍ならばメキシコの「警察機構」の目をだます程度の細工はできる。もっとも、普通、国軍の各駐屯部隊は「警察機構」と懇意だから、ほとんど同時進行で何でもできる。
イグアラ市長とその細君は、野党PRDの票田であるメキシコ市のイスタパラパ地区で逮捕されたが、当初からメディアに情報を与えていた神父のソラリンデ氏は、実際はベラクルス州で逮捕したものを政府が演出したのだと言っている。
そのような事態は、実は誰でも知っているか予感できるもので、メキシコの政治システム全体への不信に発展している。現大統領のエンリケ・ペニャ・ニエト自身も、メキシコ州の知事当時、サン・サルバドール・アテンコでの弾圧を行ない、取材を行っていたチリ人記者などに暴行を加え国外追放している。
政府や大統領は、TLATLAYAでの国軍の犯罪についてのコメントは一切しないにもかかわらず、43人の行方不明者を契機に始まったプロテスト運動の関与者11名を暴力行為という名目で逮捕し、11月22日、刑務所に収監した。