表現の自由を護るための、スラップ防止対策シンポジウム構想 -「DHCスラップ訴訟」を許さない・第71弾

先週の木曜日、1月28日にDHCスラップ訴訟控訴審の判決が言い渡されて本日でちょうど1週間が経過した。上告ないし上告受理申立期間は本来は来週の木曜日、2月11日までだが、この最終日が休日(「建国記念の日」)なので、2月12日(金)となる。DHC・吉田嘉明は、おそらく期限ぎりぎりまで考え続けるのだろう。

上告も上告受理申立も、これが受理され審理されるのはきわめて制限された狭い門である。本件の場合も、この高いハードルを乗り越えての逆転など万に一つの目もない。そのことは、一審・二審と完全な敗訴を続けたDHC・吉田側もよく分かっているはず。いや、最初から勝訴の見通しなど持っていなかったというべきなのだろう。勝訴の見通しなくても、提訴自体の言論封殺効果をねらっての典型的スラップ訴訟。だからこそ、威嚇として十分な非常識高額請求訴訟となったのだ。

DHC・吉田の当初の請求は2000万円だった。私が、この訴訟をスラップ訴訟として当ブログで反撃を開始した途端に、請求額は6000万円に跳ね上がった。当初は2000万円の請求金額で威嚇効果十分と考えたのが、予想外の反撃を受けてこの程度の金額では提訴の持つ威嚇効果不十分と認識したからこその請求の拡張、それもいきなりの3倍化ということなのだ。

DHCスラップ訴訟の被害者は、被告とされた私だけではない。社会の多くの人が、「DHCや吉田嘉明を批判すると、やたらと訴訟を提起されて面倒なことになる」ことを恐れてDHC・吉田に対する批判を自制している現実がある。言論の萎縮効果が蔓延しているのだ。

私は、当事者として、また弁護士という職業上の使命において、このような言論の萎縮をねらった社会悪に立ち向かわなければならない。いかに面倒であっても、逃げるわけにはいかない。飽くまで闘うのみである。

DHC・吉田の上告(受理申立)可否についての考慮の構図は、次のようなものだ。

積極方針の根拠。
「最初から覚悟していたことではあるが、こんなみっともない敗訴には腹が立つ。万に一つでも逆転の可能性があるのなら最高裁まで争ってみたい」「それだけではない。もともとが澤藤に負担をかけることを目的とした提訴だ。少しでも長く、被告の座に坐らせ、少しでも大きな財政的心理的な負担をかけようという初心にたちかえって最高裁に上訴すべきだろう」「幸い、我が方にはカネの力がある。弁護士費用なぞはいくらかかってもかまわない。上告の手数料(貼用印紙)は、わずか40万円余だという。これならなんの負担にもならない」

消極方針の根��
「最高裁でもほぼ確実に敗訴を重ねる公算が高い。3度めの恥の上塗りはみっともなさを天下に曝すことになる」「スラップだ、濫訴だ、不当提訴だと、また叩かれることになる」「渡辺喜美に8億円を提供したことをまた蒸し返され、結局は規制緩和を求めて裏金を渡したと世間に印象づけることになってしまう」「化粧品やサプリメントを販売している当社にとって、ダーティーな商品イメージにつながって商売に影響を及ぼすことが心配だ」「結局は、上告をやめてこのトラブルを早めに終息させた方が経営上は得策だろう」

どちらでも、よく考えてみるがよい。どちらにしても針のムシロ。自分で播いた種だ。自分で刈り取るしかない。

スラップ訴訟は、訴権を濫用して、表現の自由を萎縮させる深刻な社会悪である。スラップ訴訟の提起者には、相応の制裁があってしかるべきだ。控訴・上告に至ったスラップには、比例原則にしたがった制裁措置がなくてはならない。制裁の方法や制裁が及ぶべき範囲についてはいろいろと考えられるが、まずはその方法を考える大きなシンポジウムを開催したい。仮称「スラップ訴訟とDHC」である。

シンポジウムは2部構成とする。
第一部は、スラップ訴訟一般について。スラップの何たるか、その実態と弊害。憲法的な問題点、訴訟法的な問題点、米国のスラップ事情、どのように、スラップ防止の仕組みを構築すべきか。そしてスラップ提起者や代理人弁護士に、どのような実効性ある具体的制裁が可能か。

第二部は、もっぱらDHC問題。DHCが過去に起こしたスラップ訴訟の総ざらい。そして、DHCスラップ訴訟対澤藤事件における、上告(受理申立)理由の徹底検証を公開の場で行う。

メディアも招待して、自分の問題として考えもらうきっかけとしたい。記録を映像化し、また書籍化して、多くの人に広めたい。

先日、「バナナの逆襲」というドキュメント映画を製作したフレドリック・ゲルテン監督(スウェーデン系アメリカ人)と対談の機会があった。世界的な大企業であるドールフードからの「上映差止請求スラップ訴訟」との闘いを、そのままドキュメントにしたもの。このスラップ訴訟を取り下げさせた監督の述懐として、「最も効果のあった闘い方は、スウェーデンでの不買運動方針の提起だった」とのこと。

バナナとサプリメントでは商品の違いも、流通経路の違いもあるだろう。対DHC不買運動の提起が有効かどうか。どのようなやり方があり得るか。この点も大いに議論したいところ。

シンポジウムでは、上告(受理申立)から50日を期限として、上告(あるいは上告受理申立)理由書が出て来る。これを徹底して検討し叩く場にしたい。連休明け頃がこのシンポジウムの時期となるだろう。ぜひお楽しみにしたいただきたい。
(2016年2月4日)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2016.02.04より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=6350

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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