記事の解釈は「一般読者の普通の注意と読み方とを基準として」。

(2022年11月10日)
 昨日、東京地裁で興味深い名誉毀損事件判決が言い渡された。共同通信は、「産経新聞と門田隆将氏に賠償命令 森友記事、2議員名誉毀損」との分かり易い見出しで報じている。

 原告の2議員とは、立憲の小西洋之、杉尾秀哉両参院議員。この見出しのとおり、被告は産経新聞と門田隆将、メディアとライターである。請求は880万円、認容額は220万円であった。

 朝日の報道が的確な内容となっているが、その見出しは「『国会議員が職員つるし上げ』表現めぐり産経新聞と門田氏に賠償命令」というもの。この見出しは、不正確とまでは言えないが、ややミスリードではないか。「つるし上げ」という表現が問題になったわけではない。記事の日本語としての文意の理解如何が問題となった。朝日の報道は以下のとおりである。

 「学校法人森友学園への国有地売却をめぐる財務省の公文書改ざん問題を取り上げた、産経新聞への寄稿記事で名誉を傷つけられたとして、立憲民主党の小西洋之、杉尾秀哉両参院議員が、産経新聞社と筆者でジャーナリストの門田隆将氏に計880万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が9日、東京地裁(大嶋洋志裁判長)であった。判決は名誉毀損を認め、産経新聞社と門田氏に計220万円の支払いを命じた。

記事は2020年10月25日付の朝刊に掲載。18年3月に財務省近畿財務局の職員が自殺した件に言及し「(両議員は)財務省に乗り込み、約1時間、職員をつるし上げている。当該職員の自殺は翌日だった」と記載した。一方、両議員が訪れたのは東京の本省で、自殺した職員には面会していなかった。

判決は、『当該』との単語が使われ、連続した2文で構成されたこの文章を読めば『読者は、両議員が自殺前日にこの職員を集団的に批判、問責し、自殺の要因になったと理解する』と判断し…名誉毀損を認めた。」

 森友学園の決裁文書について、命じられた改ざん実行を苦に自殺した近畿財務局の元職員赤木俊夫さんの死をめぐる門田隆将の産経寄稿記事のなかに国会議員に対する名誉毀損表現があったとされて、訴訟になった。

 原告となった両議員が、門田の産経寄稿記事における名誉毀損表現として特定したのは、「(両議員が)財務省に乗り込み、約1時間、職員をつるし上げている。当該職員の自殺は翌日だった」という文章。原告両議員は訴訟で「この記事は我々が赤木さんをつるし上げ自殺に追いやったとする内容だ」「それゆえ、この記事は両議員の議員としての名誉を著しく毀損するもの」と主張。これに対し、被告両名は「つるし上げを受けた職員と自殺した職員が別人であることは、容易に理解できる」と反論した。

判決は、「(この文章の)読者は、両議員が自殺前日にこの職員を集団的に批判、問責し、自殺の要因になったと理解する」と判断した。記事内のつるし上げられた職員と自殺した職員は同じ人物を示していると読み取れると認定。「国会議員としての社会的評価を低下させたのは明らか」と結論付けた。

 以下は、判決後の門田のツィッターである。悔しさが滲んでいるが、具体性に欠け、判決批判になっていない。

 「添付の私のコラムを読んで頂きたい。自殺した近畿財務局職員の上司に関する新聞の意図的報道を取り上げたものだ。これに何と“我々への名誉毀損”と訴えてきたのが立憲の小西洋之&杉尾秀哉両議員。どこが名誉毀損?と門前払いと思ったら司法は彼らの訴えを認めた。唖然…左傾化し正義を捨てた日本の司法」

 この判決をもって「左傾化し正義を捨てた日本の司法」とする悪罵に、「唖然…」とするしかない。

 2022年10月25日産経朝刊への門田寄稿の問題箇所は以下のとおりである。

 「国会で野党が安倍晋三首相や、佐川宣寿理財局長を糾弾し、同時に公開ヒアリングと称して官僚が吊るし上げられていたことを思い出してほしい。平成30年3月5日、福島瑞穂氏(社民)、森裕子氏(自由)ら野党は近畿財務局に乗り込み、数時間も居座り、押し問答を続けた。また東京では、翌6日、民進党の杉尾秀哉、小西洋之両氏が財務省に乗り込み、約1時間職員を吊るし上げている。当該職員の自殺はその翌日の7日だった。」

 この内の「また東京では、翌6日、民進党の杉尾秀哉、小西洋之両氏が財務省に乗り込み、約1時間職員を吊るし上げている。当該職員の自殺はその翌日の7日だった。」という文章をどう読むべきか。「6日、両議員は約1時間職員を吊るし上げている。当該職員の自殺はその翌日の7日だった。」という文章を素直に読めば、「6日に両議員が約1時間職員を吊るし上げ、吊し上げられた当該職員が翌日の7日に自殺した」という文意に読みとるしかないと思われる。

 判例は、一定の記事の内容が事実に反し名誉を毀損すべき意味のものかどうかについては、繰り返して「一般読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである」と判示している。

 昨日の東京地裁判決も、「一般読者の普通の注意と読み方とを基準として判断」して、門田の文章を『一般読者は、両議員が自殺前日にこの職員を集団的に批判、問責し、自殺の要因になったと理解する』と判断して…名誉毀損を認めたのだ。

 物書きに思い込みは禁物である。自分の文章を「一般読者の普通の注意と読み方とを基準として」どう理解されるかを弁えなければならない。「どこが名誉毀損?」「唖然…左傾化し正義を捨てた日本の司法」などと責任転嫁する以前に、である。

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.11.10より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=20270

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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