10月23日の「東京五輪・パラリンピック大会推進本部」の会合で首相は、「コロナに勝った証しに」東京五輪開催への決意を示した。
世界の各地で、とくにヨーロッパ諸国では、新型コロナウイルスの一日の感染者数が、記録を更新している。日本では、第一次のピーク4月下旬の一日の感染者数700を越え、第二次ピーク8月初旬の1600を超えたあと、500~700を推移していて、決して収束したとは思えない。一日の死者数の推移をみると、5月2日31人がピークであって、減ってきたとはいうものの、10月に入ってからも10人を超える日があった。今日23日の感染者数748人、死者12人であった。Go toトラベル、イートなどとはしゃいでいる場合なのだろうか。受け入れる観光業界や飲食業界にしても、潤うのはわずかで、不安も大きいという。一方で、職場や仕事を奪われ、食事にもこと欠く人たちがいるというのに。
こうした世界と日本の感染状況から見れば、来年7月に迫る東京五輪の開催は限りなく無理なのではないか、と思っている人は多いにちがいない。現に、7月中旬のいくつかのメディアによる来年の五輪開催についての世論調査によれば、開催33%、再延期32%、中止29%(朝日新聞)、開催25.6%、再延期35.1%、中止31.3%(NHK)開催23.9%、再延期36.4%、中止33.7%(共同通信)で、再延期と中止で60~70%を占めている。
にもかかわらず、政府や東京都は、感染対策なるものを躍起になって進めているが、どの政党からも、政治家からも、メディアからも「中止」の声は聞こえてこない。政府は、決めるのはIOCだとばかりに、ずるずると感染対策なる入国規制の緩和や簡素化、サイバー攻撃対策など準備を進めているうちに、選手は来ない、観客は来ないとなったらどうするのだろう。中川日本医師会会長は、7月以来、ワクチンが開発されなければ開催は困難だと語り、尾崎東京都医師会会長は10月13日の会見で、開催するなら無観客が妥当、医療体制では対応困難との発言もあった。IOCは、スポンサーやその他のお金の絡みで、コロナウイルス感染拡大に関係なく開催と強気で、自ら中止を言い出せず、日本が不可能だというのだったら仕方がない、という形にするのではないか。それでも、このまま開催するということになれば、オリンピックの体をなさず、悲惨を極めるだろう。
IOCやJOCの汚職疑惑にもフタをし、日本のスポーツ界を見れば、スポーツ団体のいくつかの不祥事が明るみに出ても、明確な改革はなされないまま、ウヤムヤに処理され、選手たちの環境が大きく変化したとは見られなかった。メディアも、その後は報じないし、国民の関心も薄れてしまったようだ。
そして、与野党を問わず、メデイアさえも、「東京五輪中止」はタブーのように言及することがなくなった。NHKニュースでは、他国での感染状況を詳しく伝え、日本の、その日の感染状況は、簡単にしか伝えなくなった。感染対策や多様な働き方改革の紹介、ワクチン開発や検査薬・治療薬など断片的な周辺の「明るいニュース」の最後に伝えるという編成に変わってきている。新内閣ができてから顕著になったのではないか。他のマスメディアにおいても、潮が引いたように、新型コロナウイルス感染状況の基本的な情報や解説は減って、さまざまな“go to”関連情報が増え、“go to 東京五輪”のモードに切り替えてゆく気配で感じられる。一見過激なコメンテイターたちもオリンピック中止の声は決して上げない。その同調圧力というのが恐ろしい。
感染状況については以下を参照
厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html
NHK特設サイト新型コロナウイルス
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-all/
初出:「内野光子のブログ」2020.10.24より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2020/10/post-0cc713.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion10229:201024〕