青山森人の東チモールだより 第348号(2017年7月26日)
元教育大臣、刑務所に収監される
シャナナ=グズマン首相による第一次連立政権で教育大臣を務めたジョアン=カンシオ=フレイタス氏が教育放送計画をすすめるなかではたらいた汚職の罪で2年前の7月、デリ(ディリ、Dili)地方裁判所は同氏に7年の禁錮刑と50万ドルの賠償金支払いを命じるという重い判決を言い渡しました(東チモール 第307号を参照)。
ジョアン=カンシオ元教育大臣は当然、控訴しましたが、控訴裁判所(最高裁)でも4年6カ月の禁錮刑(賠償金額は約150万ドルに上昇)が言い渡され、きょう7月26日、ベコラ刑務所に収監されました。手錠を掛けられ顔を隠されるというさながら殺人犯のようにベコラ刑務所に連行される様子が夜のテレビニュースで流れました。シャナナ連立政権下で発生した大臣による汚職事件が一つ片付きました。未決着の汚職疑惑がまだまだ多数あるものの日本のように首相の「任命責任」が問われることはありません。しかし、シャナナ政権の汚職イメージは東チモール人にすっかり定着したといってよいでしょう。これが今回の国政選挙に影響しないわけがありません。
21の政治勢力による議会選挙
今年2017年3月の大統領選挙に続いて、一院制65名の国会議員を選ぶための選挙運動が6月20日から始まり7月19日に終了、しばしのあいあだ頭を冷やして、7月22日(土)に投票が実施されました。
議会選挙に参加した政党は23、そのうち3党が同盟を組んだので、以下のような合計21の政党または政治連合による選挙戦となりました(番号は登録番号)。
- 大衆統一連(民主ミレニウム党・アイレバ人民自由党・チモール共和民主党による連合勢力)
- APMT (チモール君主大衆協会)
- KHUNTO(チモール国民統一強化)
- PEP (祖国希望党)
- PST (チモール社会党)
- PDP (大衆発展党)
- CNRT(東チモール再建国民会議)
- PR (共和党)
- UDT (チモール民主同盟)
- PDC (キリスト民主党)
- MLPM (マウベレ人民解放運動党)
- PLP (大衆解放党)
- PD (民主党)
- UNDERTIM (チモール抵抗民主国民統一)
- PUDD (民主発展統一党)
- PTD (民主チモール党)
- Frenti Mudança(改革戦線)
- PSD (民主社会党)
- CASDT (チモール民主社会行動センター)
- PDN(国民開発党)
- FRETILIN (東チモール独立革命戦線)
投票は午前7時から午後3時までおこなわれ、海外での投票は大統領選挙時のポルトガルとオーストラリアに加え、東チモール人労働者が多く住むイギリスと韓国でも可能になりました。
過半数どころか8議席を失ったCNRT、注目のPLPは8議席獲得
週が明けるとデリ市内には選挙ポスターや看板がほとんど撤去され残っていません。選挙が終わればポスター・看板はさっさと撤去されなければ法律違反になります。これは日本も見習って欲しいものです。ただし小さなシールは電柱にまだ残っているのを見ることができます。
街角で見つけた政党のシール。PLPのシールが一番多かった。夜のテレビニュースでこれは法律違反だと報じられていた。2017年7月26日。©Aoyama Morito.
2議席あった議席がなくなってしまった改革戦線のシール。同、©Aoyama Morito.
国立病院の近くに残されていたフレテリンの大型看板。同、©Aoyama Morito.
そして週開けには選挙結果の大勢が判明しました。獲得票の多い順に記述すると次のようになります(『インデペンデンテ』2017年7月26日を参照)。
得票率29.65%を得たフレテリンが第一党に返り咲きました。フレテリンの鎧のような約30%支持率は今回も健在でした。ただし議席数は2つ減らして23議席となったので、第一党に返り咲いたとはいえ大喜びできる勝利といえるかどうかはちょっと微妙です。
前回(2012年)の議会選で36.66%の支持率を得て30議席を獲得し第一党となったシャナナ=グズマン党首のCNRTは、今回の支持率は29.46%、8議席を失って22議席に留まってしまいました。30から3議席上乗せして単独過半数を目標としたシャナナ=グズマン前首相の敗北といって差し支えないと思います。
注目を浴びたタウル=マタン=ルアク前大統領率いるPLPはおよそ11%の支持率を得て、8議席を獲得しました。新党PLPがフレテリンとCNRTからどれほどの票を奪うかが一つの焦点でしたが、CNRTの票をある程度奪うことができたようですが、フレテリン支持基盤は崩すことができず、意外と地味な結果だったような印象を受けます。はたして本人たち(党首や党幹部)はどのように結果を分析しているのか、知りたいところです。
第4党は約9%の支持率を得た民主党です。前回の8議席から1つ失い7議席となりました。大黒柱であったラサマ党首を急死により失った衝撃のわりにはもちこたえたといえるかもしれません。
前回の選挙では獲得議席ゼロだったKHUNTOが5議席を獲得するという大健闘をみせました。
議席を確保できたのは以上の5政党のみです。他の16の政党・連合勢力は議席を得られませんでした。投票率は、同『インデペンデンテ』紙によれば76.75%で、前回2012年の74.78%を上回りました。
とらぬ狸の皮算用から多数派工作へ
選挙運動中、各政党は「もし政権をとったら…」と、政策やら夢物語を有権者に訴えたり与えたりするのは日本でもどこでも似たり寄ったりですが、大勢が判明したいま、8月7日の控訴裁判所による正式な最終発表を待ちながら、どのような枠組みの連立が組まれるのかに焦点は移り、政局は水面下でただいまドロドロと渦巻いているところです。
2017年7月26日朝、わたしは週刊新聞『テンポ セマナル』紙を主宰するジョゼ=ベロ君の運転する車に乗っていると、ジョゼ君はわざわざちょっと遠回りをしてCNRT事務所前を様子うかがいのために通りました。CNRT事務所前には多数の車がずらりと路上駐車をしていました。党幹部たちは連立について話し合っていることでしょう。「かれらはさぞ頭が痛いことだろう」とジョゼ君はいいます。
選挙運動中、過半数に達したら単独で政権を担う、33議席を獲得できなかったら野党に回るとシャナナCNRT党首が繰り返し述べる一方で、フレテリンのマリ=アルカテリ書記長は(ル=オロ大統領が党首を退き、アルカテリ氏が党首になったと思っていたが、報道機関は書記長とういう肩書きを使い続けているのでそれに従う)、選挙後は再びシャナナと組んで政権を担っていくとアルカテリ氏らしからぬ謙虚な姿勢でさかんにシャナナCNRT党首にラブコールを送っていました。
CNRTの頭痛の種は、30議席から3議席上乗せをして過半数を獲るために大金を選挙運動に注ぎ込んだのにもかかわらず8議席を失ってしまった現実と向き合わねばならないことです。この現実を踏まえ、今後の身の振り方、フレテリンの連立政権の呼び掛けに応じるか否か、判断を迫られています。これまでどおりフレテリンと組めばいいではないかとわたしは単純に思ってしまいますが、現実は見た目より簡単ではないようです。シャナナ党首はなぜか再びフレテリンとは組みたくはない様子で、2007年のように反/非フレテリン勢力と組んで連立政権をつくるのではないかといわれています。そのさいはPLPも巻き込んでタウル=マタン=ルアク党首に首相の座を与えるという話までも巷に出回っています。もっとも『東チモールの声』紙(2017年7月26日)よれば、民主党のアサナミ党首はそんな話はたんなる噂であると一蹴していますが。
「タウルが首相になる、それは噂だ」。『東チモールの声』(2017年7月26)の記事より。
民主党のアサナミ党首は「フレテリンとCNRTが同意すれば、民主党は連立に参加する用意がある。しかしタウル=マタン=ルアクが首相になるというのはたんなる噂である」と語る。
政治指導者はまず有権者の声をきけ
なぜこのような噂が出るかといえば、シャナナ=グズマン前首相は大規模公共事業を進めていくために、さらに大きな権力を手にしたいからだといわれています。だとすれば、大規模事業よりも一般庶民の生活が大切であるとシャナナを批判しているタウル=マタン=ルアク前大統領がシャナナから差し出される首相の地位に興味があるわけがありません。タウル前大統領は人一倍、正義感が強い人物です。PLPは野党として国会に乗り込むことでしょう。
もし仮にCNRT(22議席)が民主党(7議席)とKHUNTO(5議席)と組めば34議席となり65議席の過半数に達することになり、理論的には政権を担うことができます。しかしフレテリン抜きの三党連立政権が安定するとは考えにくいのではないでしょうか。わずか1議席の差とはいえ、第二党のCNRTが再び第一党であるフレテリンを出し抜いて連立政権を樹立するという歴史が繰り返されれば、シャナナCNRT党首がいかにも悪役のような印象を、フレテリンを支持しない人びとにも与えてしまうからです。2017年のいま、2006年の「危機」勃発のときのように反/非フレテリンという立場が正当な政治的動機となりうるとは思えません。
CNRTが8議席を減らした選挙結果から、わたしたちは何を知ることができるでしょうか。解放運動の最高指導者だったシャナナ=グズマン前首相による手練手管を駆使した強引な政権運営にたいし、有権者は「好ましくない」という伝言を送ったといえるのです。この結果をシャナナCNRT党首が謙虚に受け止めることなく、多数派工作にいそしみ、大規模事業を邁進させようと画策するならば、民主主義の何たるかを知らないことをシャナナ党首は自ら証明し、解放闘争の指導者としての名誉を自ら汚すことになるでしょう。そうならないように祈るのみです。
~次号へ続く~
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion6831:17627〕