連合新年会の与野党幹部の揃い踏みは〝大政翼賛会〟への第一歩 ―「岸田降ろし」の起こらない理由

 1月5日に開かれた「連合」の新年会には、岸田首相(自民党総裁)と松野官房長官が2年連続で出席し、山口公明党代表、泉立憲民主党代表、玉木国民民主党代表も顔をそろえた。連合の「天敵」である共産党と「身を切る改革」で自治労の反発を買っている維新は呼ばれなかったが、それを除けば与野党幹部が一堂に揃ったことになる。

 なかでも、連合・芳野友子会長の自民への接近ぶりが目立つ。岸田首相と松野長官も新年会に先立ち、労働行政を担当する加藤厚労相らを交えて芳野会長と個別に面会するという特別待遇だ。岸田首相は新年会当日、「今年も連合の新年交歓会にお招きを頂きまして誠にありがとうございます。働く人の立場に立って、三位一体の労働市場改革を加速して参ります」とサービス満点の挨拶を送った(朝日1月6日)。芳野会長が満面の笑みを浮かべて(これ見よがしに)会場で首相らと歓談していたのは、首相や与党幹部との親密ぶりを見せつけて経営者側に賃上げの「お願い」をするためだ。芳野氏は記者会見で、2年連続の首相出席について「非常に光栄」とした上で「政策実現が組合にとってメリットになる。政府にも今まで通り政策、制度の要請を行っていきたい」と述べたという(毎日、同)。

 岸田首相はその夜、経団連など経済3団体の新年祝賀会に出席し、物価上昇分を超える賃上げを呼びかけた。首相は「まず実現を目指すのは、成長と分配の好循環の中核である賃上げだ」と強調し、「能力に見合った賃上げこそが企業の競争力に直結する。ぜひインフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい」と訴えた。また「今年の賃上げの動きによって経済の先行きは全く違ったものになる」とし、「日本全体の賃上げを引っ張り上げるのはここにいる企業のみなさんだ。ぜひご協力いただきたい」と重ねて要請した。10分余りのあいさつで「賃上げ」に11回も言及するなど、強い意気込みを示した(時事ドットコムニュース、1月5日)。

 賃上げなど労働条件の改善は、労働組合と経営者の直接交渉で決まるのが基本原則だ。だが、経営者団体との「馴れ合い交渉=水面下での調整」が慣例化している連合には、労働者の要求に見合うだけの賃上げを実現する意思もなければ力もない。経営者側が許容する枠内で申し訳程度の水準で妥結し、お茶を濁すのがこれまでの習わしだった。ところが、今年は異次元の金融緩和を続けてきた黒田日銀の政策が破綻して日本経済が急激な円安に見舞われ、近来にない物価高騰が起こった。これまでの「申し訳程度」の賃上げでは物価高にとうてい追いつかず、実質賃金が減り続ける事態に直面したのである。

 岸田首相は就任早々、「所得倍増計画」や「金融所得課税」など耳触りのいい政策を打ち上げていたが、経済界の反発に会うや否やあっさりと引き下がり、いつの間にか訳の分からない「新しい資本主義」といった抽象的なスローガンを並べるようになった。
 「古い資本主義」が駄目だから「新しい資本主義」に言い換えたのであろうが、いったい何が古くて何が新しいかを示さないのでは、国民には具体的な中身がさっぱりわからない。当面は煙に巻くための「煙幕」として通用したものの、こんな状態がいつまでも続くはずがない。実質的な賃上げや所得増につながる何らかの対応をせざるを得なくなったのである。

 ところが、岸田首相には大企業がため込んできた巨額の内部留保への課税、富裕層の金融所得課税の強化、最低賃金の大幅引き上げなど、政府の権限で可能な賃上げを実現しようとする意思は毛頭ない。経済界にただただ「お願い」するのが関の山で、それ以外には打つべき手を持っていない。連合がそんな首相にすり寄り、「今年の春闘で、連合は5%程度の賃上げを求めている。ぜひインフレ率を超える賃上げを実現できるようにお願いし、政府としても取り組みを後押ししていきたい」との首相の口約束を信じるのは、よほどのお目出たい話だと言わなければならない。

 政府が増額を検討している防衛費は、2023年度から5年間で総額43兆~45兆円の巨額に上る。岸田首相がバイデン米大統領と約束した防衛費の「相当な増額」や「防衛力の抜本的強化」を実現するためには、22年度当初予算の防衛費5兆4000億円を大幅に引き上げ、23年度は6兆~7兆円、その後は年1兆円程度の上乗せを続け、27年度に10兆円超を目指さなければならない。こんな膨大な防衛費を一体どこから捻出するというのか。財界が「身を切る改革」で自ら負担することなど微塵も考えられない以上、その財源は「賃上げ抑制」や「消費税増税」などによって国民から収奪する以外に方策がない。巨額の防衛費増額が、さらなる国民負担と国民犠牲を強いることは目に見えている。

 日本維新の会の馬場代表は、1月8日のNHK日曜討論で「いよいよ日本も矛(攻撃力)の一翼を担っていく時がやってきた」と「反撃能力=敵基地攻撃能力」を当然視し、政府の安保体制強化を全面的に評価した。ところが、同じ番組で立憲民主党の泉代表は、維新に批判を加えるどころか、逆に「何でもかんでも増税を先に言うのではなく、歳出改革、国会議員の身を切る改革にまず優先して取り組むという意味で、(維新と)大きく連携できるのではないか」と、維新の表看板である「身を切る改革」を大きく持ち上げる始末だ。維新の「身を切る改革」は、住民生活に直結する自治体行政のリストラを主目的とするもので、医療福祉や社会保障を削って大阪万博やカジノ誘致などの開発事業を推進するためのものだ。それをことさらに強調して維新と連携するというのだから、このままでは立憲民主党の「維新化」が進むことになりかねない。

 維新をめぐる最大の問題は、維新が「身を切る改革」で自治体行政と住民生活のリストラを推進する一方、巨額の防衛費(軍事費)増額を推進する政府方針に賛同していることだ。真っ先に「身を切る改革」の対象にしなければならない防衛費を治外法権的に除外し、それとは逆に防衛費増額を推進する維新は、国民生活を犠牲にして軍事国家化を推進する「最右翼部隊」そのものではないか。そんな維新の基本政策を不問にして、目先の「身の切る改革」で維新と手をつなごうとする泉代表は、日本の安保体制の変質(日米軍事同盟化)を矮小化し、その危険性から国民の目を逸らそうとするデマゴーグとしか映らない。

 岸田首相は13日午前(日本時間14日未明)、訪問先のホワイトハウスでバイデン大統領と会談し、〝日米軍事同盟〟の強化について合意した。首相は2022年12月に改訂した国家安全保障戦略で反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有や米巡航ミサイル「トマホーク」の導入、防衛費の倍増などによる防衛力の抜本的強化を図る方針を説明した。バイデン大統領はこの日本の姿勢を賞賛し、「日本の歴史的な防衛費の増額と新たな国家安全保障戦略を踏まえて、日米の軍事同盟を現代化していく」と述べた(毎日夕刊、1月14日)。

 私は、バイデン大統領が述べた「軍事同盟の現代化」という言葉に注目する。これまで日米安保条約は、(実態はともかく)公式には「軍事同盟」と呼ばれることがなかった。それが日米首脳会談における米大統領の公式発言となったのだから、これからの日本はアメリカの軍事行動への加担を義務付けられることになる。「軍事同盟の現代化」とは、巡航ミサイル攻撃やサイバー攻撃、宇宙戦争もカバーする言葉であって、岸田首相は国会での議論もなく、国民の理解を得ることもなく、前人未到の領域に足を踏み入れたのである。

 加えて気になるのは、バイデン大統領が岸田首相を迎えた時の態度だろう。首相は大統領が玄関まで出迎えてくれたことを「異例の厚遇」と感じ取ったようだが、その後のバイデン大統領が岸田首相の肩に手をかけて歩く姿は、「目下」の相手に対する尊大な態度そのものだった。バイデン大統領にとって岸田氏は「アメリカの言いなりになる人物」と映ったのであり、それが気やすく肩に手をかける行為としてあらわれたに違いない。岸田氏が「異例の厚遇」と受け取ったのは、それが「岸田降ろし」を防ぐ最大の武器になることを実感したからだ。

 日米軍事同盟の飛躍的強化は、今後の日本に莫大な軍事費負担と参戦リスクをもたらすだろう。かつて太平洋戦争に突入した日本は予算の7割を軍事費につぎ込み、国民の生活を貧窮のどん底に陥れた。これを可能にしたのは軍事国家体制による容赦ない弾圧と統制であり、それを支えた「総動員体制」すなわち「翼賛体制」による国民の包摂だった。太平洋戦争開戦直前の1940年、非合法の共産党などを除く保守政党から無産政党まで全ての政党が自発的に解散して「大政翼賛会」に合流した。同年、全国労働組合同盟と日本労働総同盟も解散し、労働者を戦時体制に統合する「大日本産業報国会」が結成されて、翼賛体制に包摂された。
 中台情勢の緊迫化やロシアのウクライナ侵攻を契機とする日米軍事同盟の強化は、それに対応する政治体制を必要とし、巨額の防衛費増額は国民経済の統制を必要とする。それを可能にするのが〝保守大連立体制〟であり、現代版の〝大政翼賛会〟の結成である。連合新年会に見る与野党幹部の揃い踏みは、翼賛体制の到来が間近に迫っていることを予感させる。(つづく)

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