7月8日、朝日新聞は「泉氏一転 一本化を明言、『選挙遠のき、再考は当たり前』」との見出しで、次のように伝えた。
――立憲民主党の泉健太代表は7日の記者会見で、次期衆院選での野党候補の一本化に向けた調整を進めると明言した。これまで日本維新の会や共産党などとの候補者調整はしないとしていたが、党内外からの反発を受け、方針を一転させた。泉氏は会見で、「自民党に対峙する大きな枠組みを作る可能性は持っておきたい」と述べた。「(候補者調整は)維新ともやらない。共産とも基本やらない」とした過去の発言との整合性を問われると、「選挙が遠のいたということであれば、様々な意味で再考するのは当たり前」と説明。従来の方針を転換したことについては、「今でも間違っていたとは思わない」と強調した。
この会見記事を読んで「不可解?」と思わない人は誰もいないだろう。泉氏はつい最近まで「選挙は独自でやる」と断言し、立憲議員を150人当選させなければ代表を辞任するとまで言い切っていた。それが、小沢一郎氏をはじめとする「野党候補の一本化で政権交代を実現する有志の会」が立ち上がり、党所属の衆院議員の半数を超える53人が賛同すると、突然方針を転換したのである。それでいて「今までの方針は間違っていない」というのだから、いったい何が何だかわからない。今までの方針が間違っていないのなら、なにも方針を転換する必要はないからだ。
しかも、方針転換の理由が振るっている。「選挙が遠のいたから再考するのは当たり前」だと言うのだ。しかし、選挙が間近であれば「独自でやる」、遠のけば「一本化する」と言うのでは、野党共闘の根幹に関わる候補者調整と選挙協力のあり方が選挙の日程次第でコロコロ変わることになる。バカも休み休み言ってほしいと思うが、それを「当たり前」と強弁するのだから開いた口が塞がらない。この人物の頭の構造は、それ以上の理由を思いつかない程度のものだということだ。
泉氏の選挙戦略は、もともと維新との国会共闘を通して選挙協力に持ち込み、「中道リベラル政党=第2保守党」を結成して自公政権に対抗しようというものだった。これなら国民民主党も付いてくるし、(第2保守党路線の邪魔になる)共産を孤立させることもできる。だが、この方針が、統一地方選で躍進し、世論調査でも上々の(野党第1党を目指す)維新からあっさり袖にされて行き場がなくなり、「独自でやる」と言わざるを得なくなったのである。
泉氏が立憲代表に就任してからというものは、野党第1党であるはずの立憲民主党がいったいどちらを向いているか分からなくなった。「第2保守党=体制内野党」を目指す泉路線は、自公政権に対する批判勢力・抑止力として機能せず、岸田政権の軍拡政策の歯止めにならないことが白日の下に晒されたからだ。立憲が国民の信頼を失って失墜するのと並行して、「新しい政治改革」を唱える維新が急浮上してきた。国会では「自公維国」ネットワークが形成されて、稀代の悪法がさしたる議論もなくエスカレーター式に次々と成立することになった。
本来なら、この段階で立憲の代表選挙が行われて泉体制が一掃され、新しい代表と執行部に刷新されて然るべきだった。だが、まだ機が熟していなかったのか、それは岡田幹事長の起用など一部の交代にとどまり、そのまま泉氏が代表に居座ることになった。遅まきながら「野党候補の一本化で政権交代を実現する有志の会」が立ち上がったのは、このままでは立憲に未来がないとする体制一新の動きであり、党内政局の予兆ともいうべき動きだろう。この事態に直面して、さすがの泉氏も「再考」を余儀なくされることになったのである。
だが、事態の行方は予断を許さない。維新はもはや立憲の動きなどには目もくれず、公明との対決に全力を挙げているが、連合の後押しで選挙を戦わざるを得ない国民民主党は迷うことしきりだろう。だが、国民玉木代表は7月8日、次期衆院選を巡り立憲泉代表が呼びかけた共産党を含む野党間での候補者調整を拒否することを強調した。安倍元首相の事件現場に献花に訪れた玉木氏は、記者団に対して「共産、あるいは共産と組む政党とは一切調整しない。立民が共産と組むなら、候補者調整や選挙協力はできない」と断言した。また、泉氏が候補者調整と選挙協力は異なる(候補者調整をしても選挙協力はしない)と説明している点に関しも、「候補者調整は選挙協力の一形態で同じだ」と疑問を投げかけたという(共同通信、7月8日)。
共産は、志位委員長が「我が党の側から(野党共闘への)門戸を閉ざすことはしない」と述べる一方で、「比例代表の躍進のためにも、小選挙区での候補者擁立を大幅に増やす」と表明し、泉代表の選挙区(京都3区)にも対抗馬を擁立すると発表している(私は京都3区の有権者の1人)。志位氏は7月6日の記者会見で、「今の危険な政治状況に対抗するには、市民と野党共闘の発展、『本気の共闘』が必要だ」と述べ、その土台となる「協力の意思」があるかどうかが問われていると指摘した。その上で、この間「選挙協力はしない」「候補者調整はしない」としてきた泉氏の発言との整合性について、「立憲民主党に党としての説明を求めたい。協力を求めているのなら、そういう説明があってしかるべきだ」と表明した(赤旗、7月7日)。
これに対して、立憲泉代表は7月7日の記者会見で、次期衆院選での候補者調整に関し、共産党が求めている「これまでの言動との整合性に関する説明」には応じない考えを示した。「どこの党のどなたかが何かいろんなことを言うかもしれないが、これは私の発言だ。どこから言われてどうこうではない」と語った。さらに「(調整は)別に共産だけが対象ではない」と強調。「各党にどういうアプローチができるかを考え、一つ一つ丁寧に、各党にもさまざまな話ができるように取り組みたい」とも述べた。また「候補者調整」と「選挙協力」は別だとして「選挙協力の話はしていない」とも強調。「選挙協力は1人の候補者を複数の政党が応援するイメージだ。ビラ配りや演説など、一緒に選挙することをいう。候補者調整はそういうことではないと理解してもらえばいい」などと説明した(産経新聞、7月8日)。
時事通信社(7月8日)もまた、「野党協力は『候補者調整』限定=立民代表、共産と距離」との見出しで、「立憲泉代表は7月7日の記者会見で、次期衆院選での共産党などとの協力について、街頭活動は共にせず、あくまで小選挙区候補の一本化にとどめるべきだとの考えを表明した。『応援し合うとか一緒に演説するとか、そういうことではない。やるのは候補者調整だ』と述べ、相互に『推薦』や『支持』を出すことにも慎重な姿勢を示した」と伝えている。
これらの状況から見れば、朝日新聞(7月8日)の「泉氏一転 一本化を明言」との見出しは、誤報とまでは言えないまでも「早とちり」の感は免れない。記者やデスクがそう期待しても、泉氏の反共体質が根絡みのものであることは(京都では)よく知られている。今後の選挙情勢はますます混迷を深めている、というのが私の率直な感想だ。(つづく)
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