「上質な観光大国」をめざすため、インバウンドで「脱中国」を進めて欧米などの富裕層を増やすべきと主張する記事を読んだ。「欧米白人」を上質と持ち上げる視線を裏返せば、中国人やアジア人への差別意識が透けてみえる。日本経済新聞(2023年6月12日付)の記事である。
「脱中国」の理由はまず、中国人観光客の「お行儀の悪さ」。「まだ海外旅行の初心者も多く、京都など有名観光地に集中してしまいパンク状態を招いた」と、中国人観光客が集中した京都などを例に、地元との摩擦を挙げた。記事は「日本が上質な観光大国をめざすなら『今後集客すべきなのは欧米からの客。日本の観光を、単純にコロナ前の姿に戻してはいけない』」と提言する星野佳路・星野リゾート代表のコメントを自己主張のよりどころにする。欧米の金持ちを「優良顧客」とみなし、中国人観光客は「不良顧客」と言いたいのか。まるで「中国人お断り」と言わんばかり。
欧米観光客をすべて「優良」とみなすのは幻想にすぎない。欧米からのバックパッカーの若者が、夜中に路上で酒を飲んで大騒ぎするのは知られている。いまや北京,上海など大都市からの金持ち観光客は、お行儀のよい高額消費の「優良顧客」の代表でもある。帰属から人を判断する偏見の典型と言える。
いま50~60代の日本女性は、20代だったころの40年前を思い出してほしい。ツアーで訪れパリ、ローマ、ニューヨークのブランドショップで、バッグにスカーフ、ネクタイと我先に「爆買い」し、現地の店員から眉をひそめられたことを。「爆買い」中国人は40年前のあなたの姿だ。
コロナ前の2019年の外国人観光客のうち約3割が中国客だった。しかし23年6月段階の中国客数は19年比でなんとマイナス91%。日本政府が中国旅券所持者に、事前の個人ビザ(査証)取得を義務付けたのが第1の理由。取得には年収10万元(約200万円)以上の証明が必要。第2に中国政府が団体旅行の解禁国から日本を除外していることもある。中国では、国境を越えたインターネット通販「EC(電子商取引)」が盛んで、日本からのEC市場規模は2兆円超。団体観光客が解禁されても、電気製品や化粧品の「爆買い」が戻る可能性は少ない。
記事は、「今後のインバウンドは、やはり人数至上主義から『質』重視への転換を各地、各企業で進めることが大事なのではないか」と締めくくる。コロナ禍で落ち込んだ旅行業界と関連小売業は、果たして提言を歓迎するだろうか。
「お、も、て、な、し」と、シナを作って誘客キャンペーンを展開してきた日本の本音がこうだったのかと知れば、多くの中国人は訪日を控えるに違いない。(了)
中国語で「中国人観光客の入店お断り」の張り紙を 出す札幌のラーメン店 Youtubeから
初出:「岡田 充の海峡両岸論」より著者の許可を得て転載ホーム (weebly.com)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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