北朝鮮の偵察衛星打ち上げに伴い11月21日深夜、沖縄に全国瞬時警報システム(Jアラート)が発令され、防災無線が鳴り響き、航空機が駐機場で待機しモノレールは全線で約30分間運行停止したという。
Jアラートによる住民避難の報道を目にする度に「ホンマかいな?」と思う。衛星の弾頭部に本物のミサイルが装着されてないのは常識だからだ。衛星が仮にコースを外れたって、ロケットの一部や空筒が落下するだけの話じゃないか。
寒い夜中にわざわざ着替えて避難所にたどり着くころには、衛星はとっくに通過しているはず。高齢者なら健康に良くないことこの上ない。避難など不要。まして深夜や早朝なら「枕を高く」寝ているのが大正解だ。
こんな不条理な「避難ごっこ」を住民に押し付けるのは、国家が「国民の生命を守る義務」を果たすためではない。日本への軍事的脅威が日常化している実感を住民に味合わせ、
中国や北朝鮮、ロシアなど「仮想敵」の脅威感を増幅するためだ。
岸田文雄政権が「専守防衛」「平和国家」の憲法精神をかなぐり捨て「敵基地攻撃能力」の保有を認める安保関連3文書を閣議決定してから12月でちょうど1年。あれ以来日常生活に「軍事」がひたひたと浸食し始めている。
Jアラートだけではない。麻生太郎・元首相は国交のない台湾を訪問し、蔡英文総統と台湾有事の際の邦人保護への対処を話し合い、安全保障の日台連携を確認した。「邦人保護」とは聞こえはいいけど、戦時動員体制の一環。南西諸島の自治体で進む退避計画訓練も同じ狙いだ。
岸田政権は、自衛隊と海上保安庁が平時でも訓練に使用できるよう地方自治体の民間空港14施設と24港湾の計38施設を選定し、整備の関連費用を2024年度予算案に盛り込む方針を固めた。
「国家安全保障戦略」には「南西地域などの空港や港湾の整備・拡充や自衛隊による民間施設の利用範囲の拡大」が盛り込まれている。だが民間空港や港湾に自衛隊機や軍用艦船が出没することに抵抗を抱く自治体は多い。
このため政府は、「滑走路延伸や駐機場の拡充で航空需要に対応でき、港湾整備で大型クルーズ船の受け入れも可能」などと、インバウンド誘客につながる「アメ」を与え、平時でも自衛隊や海保が利用できるルール作りを自治体と結ぼうというのだ。(「朝日」23・11・27)
集団的自衛権の行使容認(2015年)で主要な役割を果たした兼原信克・元内閣官房副長官補は23年初め全国紙インタビューで、安保3文書の今後の課題として、「自治体調整」を強調し、具体的には、①自衛隊の港湾・飛行場など民間インフラの活用②核搭載可能な米艦船受け入れで自治体を説得③海上自衛隊と海上保安庁の実行計画-を挙げた。(「日経」23・1・24)
この一年「大きい物語」では、改憲抜きに憲法精神を骨抜きにするなど政府による規範無視が横行、「小さい物語」を挙げれば「日常の軍事化」― 安保関連3文書決定から一年を経た日本の変化だ。(了)
2022年11月17日、日米共同統合演習 「キーン・ソード23」で
与那国島県道を 走行する陸自の16式機動戦闘車
初出:「岡田 充の海峡両岸論」より著者の許可を得て転載ホーム (weebly.com)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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