古今を通じて、力なき者が権力と闘うための第一の武器は団結と連帯である。権力者が反抗する人民を統治する手段の第一は、分断と各個撃破である。これも、古今東西を通じてのこと。沖縄の県民はこのことを知悉してオール沖縄の団結を作ろうと努力を重ね、安倍政権もこのことをよく弁えて、県民の分断工作に余念がない。
昨日(11月27日)防衛大臣は、「再編関連特別地域支援事業補助金」制度新設を発表した。「再編」とは聞き慣れない言葉。「再編関連」もよく分からない。「特別地域」とはいったいなんぞや。そして、「支援事業補助金」とは?
辺野古新基地建設に対する地元反対闘争を分断するための「つかみ金」制度の創設と言い、その「ばらまき第一弾」と言えば分かり易い。県民に受け入れがたい政策を押しつけるための「ばらまき」も醜いが、これはまた露骨な反対運動に対する分断と各個撃破策。感じ悪いよね~、アベ政権。
この補助金支出の対象は、今話題の久辺三区。各区に1300万円、合計3900万円を上限とする補助金を交付するという。今年は、もともとの予算措置がないところを「在日米軍等の駐留関連諸費」からひねり出す。来年からはきちんと予算措置をするという。よい子にしていれば増額もあり得る、そういうイヤな含みを隠そうともしない防衛大臣会見である。
この「区」あるいは「行政区」というものの性格が分かりにくい。もちろん、特別区とはまるっきり違って公的な存在ではない。飽くまでも住民の自治組織。防衛省ブリーフィングのレジメでは、補助金支出先は「円滑な駐留軍再編に寄与する地域の地縁団体(自治会)」となっている。防衛省も各「行政区」を「地縁団体(自治会)」ととらえた。都市部での「町内会」や「自治会」に相当するものである。
沖縄では、地方自治体行政の補助組織として、集落単位の行政区を活用しているようだ。人口61,500人の名護市は、合計55の行政区をもっている。その内、久志地区(人口4400人)と言われる地域に13行政区があり、その内の久志(274世帯、611人)、豊原(189世帯、419人)、辺野古(1104世帯、1869人)の3行政区をひとかたまりに「久辺三区」と呼ぶのだそうだ。ここが、辺野古新基地建設の地元中の地元となる。(数字は本年3月末現在。名護市のホームページから)
この、400人から1800人ほどの集落の各自治会にそれぞれ、まずは1300万円ずつを注ぎ込もうというのだ。今のところ、その補助金の使途は特定の事業に限定されている。記者会見での大臣説明ではこうだ。
「対象事業と致しましては、まず日米交流に関する事業、例えば伝統芸能に資する事業、またスポーツ大会などであります。もう一点は住民の生活の安全に関する事業ということで、交通安全講習会、また防災・防犯教育啓発、また防犯灯設置などであります。もう一点はその他ということで、生活環境の整備に関する事業ということで、集会施設の改修・増築など、こういった対象のメニューをあげておりますが、事業につきましては今後、確定をしていく予定でございます。」
防衛大臣の、沖縄県や名護市に対する接し方とはおよそ異なる、歯の浮くような久辺三区へのサービスぶりはどうだ。これぞ、世辞の見本というところ。
「久辺三区につきましては、…移設事業の実施に当たりましては、直接最も大きな影響を受けることから、同区が実施する米軍再編の影響を緩和をし、生活環境の保全、また住民の生活の安定に資する事業に対しまして、直接補助が可能となるわけでございます。防衛省としては、今回の交付要領の制定を機に、今後とも久辺三区からの御要望につきまして、きめ細かく応えて参りたいと思っております。」
これに対する稲嶺・名護市長のコメントは次のようなものだ。
「全国でこの地域だけを対象としたものだということを考えると、公共のために使う補助金として本当に妥当なものか理解を超える」「補助金の対象事業として挙げられているものは、すべて地方自治体が地域住民に対して支援をしていく内容のものと解釈される。それからすると、当該自治体の頭越しに直接やるということは、地方自治をないがしろにするもの以外、何ものでもない。この地域だけ対象となると、分断工作というか、“アメとムチ”の最たるものだ」
沖縄タイムスは、次のように報道している。
「防衛省は3区からの事業申請を受け、早ければ年内にも交付を開始する。新基地建設に反対する名護市を介さず頭越しに支援する異例の措置。辺野古に反対する稲嶺進市長や県をけん制する狙いもあり、県内から強い反発が上がっている。
一方、辺野古区の嘉陽宗克区長と久志区の宮里武継区長は菅氏の『地元は(辺野古移設に)条件付き賛成』との認識を否定しているほか、久志区は受け取りの可否で賛否が割れているなど、3区の認識は一致していない。」
政府必死の分断工作も、その成否はまだ定かならずというところ。では、もっと餌を撒くか、あるいは恫喝という奥の手も使うことにするか。アベ政権のことだ、どんな汚い奥の手を使うことになるのか分からない。
政治家が、政策の実行のためとして有権者にカネをバラマケば、疑いもなく公選法違反の「買収」となる。金でなくても、一切の利益の供与が買収罪の犯罪行為を構成する。政府の税金を使ってのバラマキは、お咎めなしなのだろうか。法にのっとり、適正手続が確保され、平等原則が確認されて初めての補助金支出でなくてはならない。
よこしまな動機から、まず補助金支出先を久辺三区と決めておいて、久辺三区だけに支出ができるような要件を作っての補助金支出。もちろん、立法措置もないままである。政府主体の有権者買収と言われてもしかたあるまい。辺野古新基地反対運動の分断と各個撃破策だと言われても、だ。
(2015年11月28日・連続第972回)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2015.11.28より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=5981
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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